引き続き「九電ショック」でわかったこと
九電ショックがおこってからさまざまな動きがありました。制度の管理側では、経産省による有識者会議や新エネルギー小委員会が開かれて、多角的な議論が進んでいます。想像よりも落ち着いた議論に少しだけ安心しましたが、太陽光発電の抑制はベースの方針として動かないように見えます。
しかし、今の議論のままでは過度の押さえつけで「太陽光をつぶしてしまう」ことにもなりかねません。繰り返しますが、まず現状が本当に問題なのかどうかを判断すること。その上で、今できる対策でどこまで対応できるかを検討すること。さらに、将来に想定される課題に対しても早めの手を考えること。この3段階を冷静に進めることです。現時点で「固定価格買取制度の破たん」を声高に叫んでいる人たちはもっての外です。こういう間違った雑音に惑わされないように気を付けてください。
2014年10月23日に行われた太陽光発電協会のシンポジウムに私も特別講演のスピーカーとして参加しました。エネ庁の木村新エネルギー部長も冒頭のあいさつに登場しました。その中で印象に残ったのは3つでした。「FIT制度の導入は正しかった」「FIT制度の威力はもの凄い」「事業者の方々に余計なご心配をかけて申し訳ない」です。
その通りだと思います。特に最後の「余計な心配」はぴったり来ます。事業者には責任が無く、今大騒ぎをする必要のない問題で心配をかけていると話したと理解しました。エネ庁・経産省には、これらの言葉の通り、落ち着いた対応をお願いしたいと思います。
今回は、再生エネ電力の割合が高い欧州で実際に行われている対策などを中心にまとめます。
わかったこと(8)~欧州で行われる安定化策
ご存知の通り、欧州には再生エネ電力の割合が日本よりはるかに多い国がたくさんあります。例えば、ドイツは再生エネで28.5%、スペインは風力だけで23%を発電しています。
系統の安定化策と言うと蓄電池を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、これらの国では、大量の蓄電池を発電側に設置する方法は取っていません。理由は簡単で、コストが合わないからです。それではどうしているかと言うと、発電予測を中心とした電力の需給コントロールで対処しています。精度の高い発電予測をベースに中央指令センターが発電源別の需給コントロールを行っているのです。
例えば、ドイツの送電会社アンプリオンは、前日での風力発電の出力予測の誤差を需要予測と同じ程度の3%程度まで高めています。また、スペインの唯一の送電会社REEは、2010年時点で24時間前の平均絶対誤差を14%(定格出力ベースでは4分の1)にまで低減させて、需給コントロールに生かしています。よく「風まかせ、お日様まかせ」と揶揄されますが、実際には高い予測が可能になっているのです。前述のスペインでは10MW以上の再生エネ発電施設は、すべて中央指令センターの制御下にあります。実際に電力抑制も含めたコントロールが常時行われています。
気象予測やITを使ったコントロールシステムの構築はまさに日本の得意分野といえるでしょう。日本であれば、さらに精度の高いシステムによって、課題の克服はもちろん再生エネ導入の道をさらに広げることが十分できます。
特に欧州と言うことではありませんが、もうひとつ有効な策があります。これまで扱ってきた発電サイドの対策に対して、需要サイドの策です。ピークカットなど需要側のコントロール、デマンドサイドマネジメントは、最もコストが安く有効な方法です。
わかったこと(9)優先接続・優先給電の原則
これまでの記事で、現状は決して差し迫った危機的な状態ではないこと、また、大きな投資がなくても将来の課題に十分対応できることがわかっていただけたと思います。最後に、もう少し広い原理原則の話をしておきたいと思います。どのようなエネルギー源の電力を優先して系統に接続し、需要者に供給するかという優先接続・優先給電のことです。
取り上げてきたドイツやスペインなど再生エネ拡大を進めている国をはじめとして、欧州の大勢では、再生エネによる電力が最も優先されています。もちろん、原発よりもです。つまり、どのエネルギー源の電力よりも再生エネが優先されて系統に繋がれ、供給されています。これがあるために、系統の安定化策が明確になり、再生エネの拡大が進んでいます。
日本ではいまだに原発が再生エネより優先されています。このため、エネルギー基本計画で原発は「重要なベースロード電源」と明記されました。しかし、エネルギー基本計画にはもう一つの原則が書かれています。「原発依存度を可能な限り低減し、再生可能エネルギーを積極的に推進する」です。つまり、今はどっちつかずの玉虫色の政策になっています。
今回の九電ショックの最終的な解決の過程では、この優先接続・優先給電の議論が避けられない場面がやってくる可能性があります。各種世論調査でも明らかになっているのは国民が望んでいるのは後者の「再生エネの積極的推進」です。国民の期待の実現が、今回の騒ぎの最も有効かつ根源的な解決につながるということを考えてもらいたいと思います。
もう一つは、発送電の分離です。今回の対策の議論の中で、各電力間の連系線の活用を研究しようという話しが出てきています。まだ研究なんて言っているのかと驚きました。実際に、前回書いた通り、連系線の利用率は非常に低いのです。九電ショックより前に、夏冬の電力が足りないと電力会社が大騒ぎをしていたのにこの実態です。その大きな原因に、発送電分離になっていないことがあります。今は、系統を使った電力の融通はバラバラの電力会社の中にある送電部門に任せています。それでは、それぞれの電力会社の利害などがあってうまくいくはずがありません。当日の対応など無理に決まっています。
現在、広域的運営推進機関がその役割を果たすために来年設置を目指しています。期待をするところ大ですが、その先の機能の展開など出来るものはどんどん前倒しして行うことが必要だと考えます。
わかったこと(10)2つのやってはいけないこと
今回の議論の結果として、やってはいけないことがあります。まず、再生エネ普及の縮小策にすり替えることです。
「九電ショック」の中で、1つの指標とされているのが、2030年時点での再生エネ電力の導入目標21%です。これは先に閣議決定された「エネルギー基本計画」の本文にはっきり示されているわけではありません。「これまでのエネルギー基本計画を踏まえた水準をさらに上回る水準」との回りくどい表現なので、21%は最低目標でしょうか。そして、設備認定された施設が全部稼働するとこれに迫る19.8%になると、まるで困ったことのように説明されています。しかし、これらの数字には大型水力の発電も入っているため、いわゆる再生エネ電力は10%程度にすぎません。もともとあまりにも低い設定であったと言わざるを得ません。
今回のショックをきっかけに、再生エネの普及そのものが悪いことだとするネガティブキャンペーンが現れ始めました。騒ぎを利用して、再生エネ普及制度の力を削ごうとする人たちです。現状で分かっている課題は間違いなく解決できます。すり替えの議論に踊らされることなく、前向きに対処しましょう。
もう1つのやってはいけないことは、民間の投資意欲を減少させることです。再生エネの推進役であるFIT制度は、民間による投資があって初めて成り立つものです。ですから、地域に根付く再生エネの普及は地域の経済的な押し上げ効果が期待でき、地域の活性化にもつながるのです。
残念ながら騒ぎ自体が、安定的な投資に対する不安材料となってしまいました。今回の騒ぎを見て、進出を諦めた海外事業会社が出てきました。不安は、正しい知識と政府の確固たる方針によってしか解消されません。今回のショックで分かったことを共有しながら、国や電力会社、自治体などへ働きかけることが必要だと考えます。
ドイツで実際に起きたこと
「メルケル首相への手紙–ドイツのエネルギー大転換を成功させよ!(マティアス・ヴィレンバッハー/著、滝川薫・村上敦/訳)」と言う本の中に、こんなエピソードが載っています。「(ドイツのエネルギー大手企業の)主要戦略は、再生エネへの不信感を築くことにあります。」(同書188ページ)という記述の後で、具体的な彼らの主張と行動を取り上げています。エネルギー企業などは、1992年には「ドイツの系統には1%以上の風力は、絶対に入らない」(電力大手E.ON)、1996年「ドイツの系統には5%以上の風力は、どんなことがあっても入らない」(電力族の政治家)、2007年「20%以上は入らない、決して」(ドイツ商工会議所)と主張を変化させ、そのたびに全国的な広告も使いました。
結局、いずれも間違っていました。
系統的に入らない、無理だという主張を、現実がどんどん乗り越えていったのです。実際に、今のドイツの再生エネ電力の発電量は30%に迫り、日によっては全体の70%を越えることさえあります。
どうですか。何か九電ショックを似た感じがしませんか。後々、あの時大騒ぎしたけどねえ、と笑い話にでもなってもらえれば、本当にいいのですが。そのためには、経産省などの国や電力会社、それに事業者や自治体など関係者が力を合わせて、冷静に対応をしていく必要があります。
日本再生可能エネルギー総合研究所 メールマガジン「再生エネ総研」第53号(2014年10月27日配信)より改稿