ピーク、エネルギー転換の歴史

過去のエネルギー転換は、今日の脱化石燃料の早期実現を予言している
2022年9月13日

「ピークシリーズ」は、化石燃料需要の過去と現在のピークを示す広大な山脈をマッピングした新しい連載です。国やセクターを問わず、化石燃料の需要はピークを迎え、現在は減少の一途をたどっています。このレポートでは、「頂上、台地、下り坂(The Peak, Plateau and Decline)」という新しい枠組みを展開し、変化の形状を描き出しています。

1. 概要

新しいエネルギー源が成長するにつれ、既存のエネルギー源に対する需要は、頂上、台地、下り坂(Peak, Plateau and Decline)の形状をたどることが標準的なパターンです。このレポートでは、過去1世紀におけるこのパターンの典型的な例と、現代におけるいくつかの明確な例を示します。これらの例の多くでは、既存需要が移行の初期にピークを迎え、その後、上昇よりも早いスピードで下降しています。既存勢力は、しばらくの間、既存のインフラストラクチャによって変化に抵抗することができるものの (Plateau)、価格パリティに達するとすぐに圧倒されてしまいます。このパターンは、次のような移行期で繰り返し起こっています。

  • 移動手段は馬車から自動車へ:米国では馬車の需要のピークは1905年で、20年以内に90%減少した。
  • ガス灯から電灯へ:イギリスのガス灯需要のピークは1907年だった。1920年まで台地状態が続いた。その後20年間で80%減少した。
  • 蒸気動力から電力へ:英国の蒸気動力の需要は1910年頃にピークを迎え、約10年間は台地状態にあり、その後急速に減少した。
  • 蒸気船から石油船へ:英国の蒸気船需要は1914年にピークを迎え、1929年頃まで台地状態で推移し、その後急速に減少した。
  • 石炭暖房からガス暖房へ:英国の石炭暖房需要は、第二次世界大戦後、1960年頃まで横ばいであったが、北海で安価なガスが発見されると、石炭需要は急速に減少した。
  • 石炭火力発電から自然エネルギー電力へ:電力シフトは、私たちの時代にはじまっています。太陽光や風力がエネルギーミックスに加わるにつれ、OECDの石炭電力需要は2003年をピークに5年ほど停滞し、2008年に減少に転じました。2008年以降、需要は43%減少しています。

私たちは今、エネルギー複合体全体での大規模な変化を目の当たりにしています。この頂上、台地、下り坂のパターンは、建物から輸送まで、そして中国から非OECD諸国まで、セクターや地域を超えて広がっています。以下、この現象がどのように展開されるかを説明します。

2. エネルギー転換のしくみ

あるエネルギー源から別のエネルギー源に移行するのにかかる時間については、エネルギー転換に関する膨大な学術文献が存在します。コンセンサスは明確です。長い時間がかかるのです。

しかし、この記事では、新しい挑戦的な技術の台頭が既存のエネルギー生産者に与える影響を、特にピーク需要に焦点を当てて検証する、という別の課題を設定しました。なぜなら、ピーク時には投資家が売りに出し、パワーバランスが変化しはじめるからです。

下のチャートに当てはめると、ピークの瞬間を探っていることになります。学者たちは、終点か、2つの市場シェアがクロスする瞬間を考えているのです。

ピークの理論については、前回の記事翻訳)で示しました。今回は、頂上、台地、下り坂のパターンに関する経験則を説明します。

新しいエネルギー源が成長すると、旧いエネルギー源の需要は変化のプロセスのごく初期にピークに達します。その後、旧エネルギー源の反撃により数年間は台地状態になり、その後、長い減少に転じて消滅します。この衰退のスピードは、価格パリティに達すると同時に加速され、通常、上昇のスピードより衰退のスピードの方がはるかに速くなります。

この記事ではエネルギー転換に焦点を当てますが、紀元前500年にヘラクレイトスが指摘したように、変化というのは普遍的な現象です。通貨は物々交換に取って代わり、機械の力は動物の力に取って代わり、携帯電話サービスは固定電話の衰退を意味しました。この話は、丘と同じくらい古いのです。

3. 20世紀におけるエネルギー転換

頂上、台地、下り坂というパターンは、過去の古典的なエネルギー転換の特徴でした。もっとも顕著な例だけを選んでいるのではないかという非難を避けるために、20世紀初頭の輸送、照明、電力、熱のエネルギー転換の古典的な例をすべて、1900年に旧いエネルギー技術のリーダーであったイギリスというひとつの国を対象として、意図的に取り上げています。他の国でも同様の転換が起こったので、その一部も図解しています。

もちろん、現実は理論よりもずっと複雑です。戦争や疫病による介入もあれば、他のエネルギー源の影響もあり、その時点ではストーリーが明確に見えることはほとんどありません。それでも、私たちは、このフレームワークが非常に一貫していると考えています。

陸上輸送:馬車から自動車へ

馬車から自動車への移行をもっともよく表しているのは、実は米国のデータです。米国では、1900年以降すぐに自動車の需要が高まり、5年後には輓馬の数がピークに達しました。そして20年後には、輓馬の数は90%にまで減少しました。

出典: Nakicenovic

英国も同じような変遷をたどりました。輸送に使う馬に与える飼料需要は1902年にピークに達しました。1905年にガソリンが統計に登場した時には、すでに飼料需要は減少していました。

照明:ガスから電気へ

当時、ガス灯は驚くべき発明でした。インフラ整備のリスクとコストにもかかわらず、1850年以降、需要は急速に高まり、英国では1907年にピークに達しました。

しかし、その後、電気の台頭により、その挑戦がはじまりました。当時、電気は危険で高価、しかもあまり理解されていませんでした。一方、ガスはインフラが整備され、多くの世論支持があり、よく知られた技術でした。

その結果、ガス需要は13年間停滞しました。やがて電気が十分に安くなり、技術も十分に理解されたので、照明需要の伸びをすべて電気でまかなうことができるようになりました。1920年以降、電気が価格的に同等になると、照明用のガス需要は崩壊しました。

動力:蒸気から電気へ

以下に、英国の蒸気および電気の需要を示します。電気の登場により、蒸気動力の需要は1910年ごろをピークにしばらく停滞し、1920年ごろからは長い間ゆっくりと減少をはじめました。

海上輸送:石炭から石油へ

海運のデータは、第一次世界大戦の介入でやや複雑になっていますが、それでもパターンに沿っています。海運用の石炭需要は、戦争までは右肩上がりで、1920年代にやや回復し、その後石油に押し出されました。

暖房:石炭からガスへ

英国の暖房は、かつて石炭が主流でした。北海で新たなガス埋蔵量が発見され、ガス価格が下落すると、暖房需要は急速にガスに移行しました。

第二次世界大戦の終わりから分析を開始しましょう。石炭は10年から15年の間に台地状態になり、ガスが上昇に転じるとともに台地状態は終了します。

4. 現在:石炭火力発電から自然エネルギー発電へ

このような変化は、自然エネルギーのコストが急速に低下している現代においても起こっています。以下、現在のピークや迫り来るピークについて見ていきますが、ここでは、OECD諸国の石炭電力需要という、紛れもないピークが起こっている証拠を提示します。

英国

英国の発電用石炭需要は2006年にピークを迎え、2012年まで台地状態が続きました。その後、太陽光発電や風力発電の増加にともない、需要は減少しています。

欧州

欧州の石炭による発電需要は、2003年をピークに2007年まで停滞し、その後減少しています。

米国

米国の石炭需要は、2000年以降の約10年間は頭打ちで、それ以降は減少傾向にあります。

もちろん、このパターンはOECD諸国に限ったことではありません。ブラジルからタイまで、世界中の国々で石炭を使った電力需要がピークを迎えているのです。

5. まとめ

これらのエネルギー変化の例から、旧いエネルギー源のピーク需要は通常、早期に訪れ、挑戦的な技術の市場シェアが5%未満のときに起こることが多いことがわかります。次のような結論も出ています。

  • 台地の長さはさまざまですが、通常1年から10年です。
  • 既存のエネルギー技術に対する需要の減少は、新しいエネルギー技術が価格パリティに達すると同時に本格的にはじまります。つまり、価格パリティが達成される前に、最初の頂上と台地の大部分は過ぎているのが普通です。これは、特定の動機を持つアーリーアダプターが低い価格帯を追求しているためと思われます。
  • 下降は通常、上昇よりも速くなります。言い換えれば、需要は通常、上昇するよりもはるかに早く下降します。これは直感的に理解できます。上昇期にあるテクノロジーは、市場を形成し、効率性の向上と戦っています。既存需要が価格優位性を失うと、漸進的な増加はすぐに崩壊します。
  • 台地が終わってから数十年のうちに、ほとんどの旧いエネルギー技術は明らかに無用の長物と化してしまいます。このため、遠い将来の石炭需要に関する議論は重要な問題ではなく、いったん産業が忘却の彼方へ向かってしまえば、あとは雑音と化すのです。

このことは、私たちのエネルギーシステムを考える上で多くの示唆を与えてくれます。

  • エネルギーシステムを見るとき、アナリストや投資家は、頂上、台地、下り坂(Peak, Plateau and Decline)というフレームワークで考えるべきです。
  • 挑戦的な技術が小規模で、既存勢力がまだ支配的であるときにピークを迎えると考えるべきです。
  • 平均価格パリティが達成される前にもピークがあると考えるべきでしょう。
  • ある技術の成長の終わりは、その技術の終焉のはじまりです。

この記事で紹介したように、未来を理解するカギは、新しいテクノロジーの流れにあります。振り返ってみると、馬やガスのインフラがあるからといって、それらの産業が衰退から守られるわけではないことがわかります。現在の化石燃料システムは、このような壊滅的な衰退の一途をたどっています。

留意事項

このまとめには重要な留意点があります。

  1. 私たちは、歴史上のすべてのエネルギー変遷を科学的に見てきたわけではありません。私たちの目的は、歴史上の頂上、台地、下り坂のパターンの性質を説明することです。そして、ひとつの国の主要な変遷を見ることで、かなり包括的になっていると考えています。
  2. 一国単位で見ています。この後の記事で述べますが、総需要は個々の国の需要の足し算に過ぎません。そして、そのプロセスも化石燃料のピークにつながります。
  3. 最終消費部門に注目しました。総需要は最終使用部門の組み合わせであり、それぞれに優れた代替資源がある場合、全体として需要のピークを迎えることになります。

著者:キングスミル・ボンド(Kingsmill Bond, RMI戦略的分析&エンゲージメントグループ シニアプリンシパル)、サム・バトラー=スロース(Sam Butler-Sloss, RMI戦略的分析&エンゲージメントグループ アソシエイト)

元記事:RMI “Peaking: A Brief History of Select Energy Transitions: How Past Energy Transitions Foretell a Quicker Shift Away from Fossil Fuels Today” August 9, 2022. RMI許可のもと、ISEPによる翻訳

© First published by RMI (formerly Rocky Mountain Institute). Translated and re-published with permission. “Peaking: A Brief History of Select Energy Transitions: How Past Energy Transitions Foretell a Quicker Shift Away from Fossil Fuels Today” August 9, 2022.

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RMIは1982年にエイモリー・B・ロビンス博士によって設立された独立非営利団体で、1.5℃の未来に合わせ、市場主導型のソリューションを通じて世界のエネルギーシステムを変革し、すべての人にとってクリーンで豊かな、ゼロ・カーボンの未来を確保することを目指しています。RMIは、コロラド州バサルトとボルダー、ニューヨーク、カリフォルニア州オークランド、ワシントンD.C.、そして北京にオフィスを構えています。

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