出典:UPSIDE Foods

細胞培養肉が米国で初めて承認される

2022年11月29日

2022年11月、米国食品医薬品局(FDA)が、UPSIDE Foodsの培養鶏肉を食べても安全であると宣言したことが発表されました。この承認は、UPSIDE Foods が提出した GRAS(Generally Regarded as Safe)ステータス申請に対するFDAからの No Questions Letter というかたちでおこなわれました。

米国では、FDA が食品に使用される成分の規制認可を管理しています。これは、その成分が専門家によって安全であるとみなされ、食品添加物公差の要件が免除されることを示す GRAS ステータスを付与することが主な方法ですが、このプロセスは非常に困難なものとなる可能性があります。FDA はいつでも、その食品成分の大規模な市販前承認プロセスを強制したり、食品への使用を禁止するガイダンス文書を発表したり、その食品成分の使用を全面的に禁止したりすることができます。

この承認を得ることは、UPSIDE Foods にとって容易なことではありませんでした。彼らは実際、非常に厳しい、数年にわたる承認プロセスに耐えなければならなかったのです。UPSIDE のセルベースチキンが店頭に並ぶまでには、米国農務省(USDA)との協働など、さらにいくつかの規制プロセスが必要となるものの、それらが今回の承認にすぐに続くはずだという一般的なコンセンサスがあります。

出典:UPSIDE Foods

規制と新しいフードシステム

規制とフードシステムは密接な関係にあり、それは当然のことです。食品は一般の人々や個人の健康と直接的な関係があり、人々は安全性に対する真の脅威や、口にする食品の成分やその生産方法に関する不確実性から保護されなければなりません。

この決定により、誰でもアメリカで培養肉を販売できるようになったわけではなく、あくまで UPSIDE の製品に対して認可が下りたということです。しかし、この規制のハードルを打ち砕いたことで、他の細胞農業企業が追随する道が開かれたのです。

破壊的な新製品が登場すると、規制はしばしば普及の具体的な障壁と見なされ、「絶対に流行らない」理由とされがちです。しかし、障壁は不変のものではなく、導入される産業に対する制限的な規制は、普及が進み、製品についてより多くのことがわかるようになると、なくなっていく傾向があります。

これはまさに今、起きていることです。過去5年ほどの間に、精密発酵(precision fermentation)によってつくられたいくつかの素材、つまり2018年には Impossible Foods のヘム、2019年には Perfect Day のホエイ、あるいは2021年には EVERY Company の非動物溶性卵白タンパクが FDA から GRAS ステータスを取得しましたが、今回は細胞農業(cellular agriculture)によってつくられた初めてのものとなります。

この2つの技術は、主に新規の食品をつくるために使用されていますが、同じものではありません。精密発酵は、40年の歴史を持つ確立された技術で、酵母や細菌などの微生物を使って目的の単一分子を「醸造(brew)」します。一方、細胞農業は、動物(場合によっては植物)の細胞を生体外で培養し、筋肉や脂肪など目的の細胞をつくる新しい技術です。細胞農業は食と農のディスラプションの一部である一方、精密発酵は主要な推進技術であるため、これらの区別は重要です。

普及とS字カーブ

普及と同じように、政策イノベーションもS字型カーブにそって起こります。イノベーション、投資、消費者需要、市場規模などの正のフィードバックループが生産と消費者への普及を前進させるとき、政策や規制は歩調を合わせ、適応しなければなりません。

Rethinking Humanity(2020)より| 出典:U.S. ACIR

Rethinking Humanity のこの図は、交通のディスラプションに対応してガソリン税がどのように成長したかを示しています。米国で最初のガソリン車が登場したのは1893年ですが、ディスラプションが収束して1925年には95%に達するまで、1905年にはまだ自動車保有台数の5%以下でした。同じ時期に、1919年2月にオレゴン州で初めてガソリン税が導入され、わずか6年の間にアメリカの91%の州で採用されました。10年も経たないうちに、連邦のすべての州がガソリンに課税するようになりました。

次は何が現れるのか?

UPSIDE Foods は、残りの認可を取得した後、高級レストランで同社の製品を見かけるようになるだろうと述べています。細胞農業はまだ非常に高価であり、ここで利益を上げることがもっとも期待できるため、これは理にかなっています。トニー・セバによるTechnology Disruption Frameworkによると、これは上からのディスラプションと考えられます。新製品の中には、既存製品よりも高価格で性能も良いものがあるため、市場のハイエンドに導入され、その後、技術がスケールアップして経験曲線を下降させ、生産コストが安くなるにつれ、より価格に敏感なセグメントを順次ターゲットにしていく傾向があります。

出典:UPSIDE Foods

ここ数年、さまざまな生産コストの数字が報道機関に発表されていますが、もっとも注目すべきは、Future Meat のチキンが2021年末に1ポンドあたり7.70ドル(~17.00ドル/kg)に到達したことでしょう。動物性チキンのコストは変動するものの、2022年9月には1ポンドあたり4.75ドル(~10.50ドル/kg)と10年ぶりの高値を記録しています。

出典:RethinkX

精密発酵素材や細胞由来素材の FDA GRAS 承認は、時間の経過とともに増え続け、それにともない、新規食品を市場に投入する企業が殺到すると予想されます。

この間、両技術を用いた製品のコストは低下していくと思われますが、魅力的な価格帯でタイムリーな市場投入をサポートするために、企業はまず植物由来の製品と原料を混合することも明らかです。

これは、ほとんどの精密発酵原料メーカーが、市場で実証済みのビジネスモデルを踏襲するものと見ることができます。精密発酵は、主要な機能性タンパク質やその他の分子をつくるために使用されます。それらは、添加される食品の味、食感、とろけるような食感、口当たりなどの品質を著しく向上させるものです。

実際、 Rethinking Food and Agriculture (2019)でも述べたとおりです。

この(ミキシング)は今日すでにおこなわれている。最初に市場に出た製品は、100%精密発酵強化バーガーではなく、2%ヘムの Impossible Burger のようなミックスである。コストが下がれば、Food-as-Software モデルによって、ハンバーガーのより多くの部分が精密発酵でつくられることになるでしょう。最初はヘムが多くなり、次にタンパク質と脂肪が多くなる。

しかし、細胞を使った食肉では、動物を使わない細胞から完全な組織肉を生産することが常に目標となっています。しかし、細胞農業はまだ始まったばかりの技術であり、相応の規模で商業的に利用できるようになるには、まだ解決しなければならない問題があります。完全に細胞ベースの肉ではなく、シンガポールで市販されている Eat Just の細胞ベースのチキンナゲットのように、最初は細胞ベースと植物ベースの食材を混ぜたものが市場に出てくるでしょうし、植物食材と並んで約70%の肉が現れるのでしょう。上述の引用に続き、再び2019年の Rethinking Food and Agriculture から。

2025〜26年に従来のひき肉とコスト同等になる前に、2022年に市場に登場すると思われる最初の細胞ベースの製品も、同じパターンになると思われます。

この記事では、Tony Seba and Catherine Tubb (2019) “Rethinking Food and Agriculture 2020-2030: The Second Domestication of Plants and Animals, the Disruption of the Cow, and the Collapse of Industrial Livestock Farming” の要約を紹介しています。


著者:テイラー・ハインズ(Taylor Hinds)RethinkX リサーチアソシエイト

元記事:RethinkDisruption “Cell-based meat approved in the US for the first time ever” Nov 21, 2022. RethinkX の許可のもと、ISEPによる翻訳

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