COP27会場内でのアクション。白い服は囚人が着る服であり、暗にエジプト政府の人権抑圧を批判している。|出典:UNFCCCホームページ

COP27:何が決まって、日本にはどう影響するか

COP27レポート Part 1
2023年2月9日

11月20日、会期を2日間延長してエジプトのシャルム・エル・シェイクでの気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が終わった。本稿では、3回にわたって会議の内容を紹介するとともに、日本の気候変動政策、外交政策、国民の気候変動問題に対する考え方などへの影響について考えてみたい。

グリーンウォッシュ? 人権問題は?

スウェーデンの気候アクティビスト、グレタ・トーンベリはCOP27を欠席し、その理由を「COPは、うそやごまかし、グリーンウォッシュ(うわべだけの気候変動対策)」を訴える機会になってしまっている」とした。また、『人新世の資本論』の斎藤幸平氏も「増え続ける二酸化炭素の排出量を見るならば、27年間のCOPは全くの失敗である。産業革命からの気温上昇を「1.5℃」に抑えるための大胆なシステムチェンジに向けた取組みがCOPから出てくる可能性はゼロだ」「気候正義の理念にのっとった選択肢は、アラーたちと連帯してCOP27をボイコットし、大失敗させることだったはずである」と、それぞれ毎日新聞と東洋経済オンラインに書いている。

斎藤氏の言葉の中にある「アラー」は、エジプトの人権活動家で、2021年12月から刑務所で服役中のアラー・アブドゥルファッターフ氏のことだ。COP27開催に合わせて、6カ月前から食事拒否のハンストを続けており、最近では水を飲むことも拒否しはじめた。

気候変動問題は、まさに人権問題でもあることから、また現エジプト政権の人権弾圧もあり、COP27において「人権」は大きなキーワードの一つであった。今回、筆者はGlobal Greensという世界的な組織が公募した代表団の一人として参加したのだが、事前に現地関係者から「首都カイロでアクションしたら捕まる」という警告があった。それでも、COP27会場では、エジプトの政治犯が着せられるという白い服を着た数十人が無言のデモを行い、バイデン米大統領がエジプトを訪れる11月11日には、大規模な反政府デモもエジプト全土で計画されていた(実際には実施されなかった)。

COP27会場内でのアクション。白い服は囚人が着る服であり、暗にエジプト政府の人権抑圧を批判している。|出典:UNFCCCホームページ

COPは不要?ボイコットすべき?

ただし、斎藤氏のCOP不要論やCOP27はボイコットすべきだったという提案には、COPおよび気候変動問題の国際交渉に対する誤解あるいは無理解があるように思う。

まず、確かに、温室効果ガスの早急な大幅排出削減を達成するという意味では、これまでのCOPはすべて失敗だと言える。しかし、COP不要論は、まさに大統領を含め化石燃料会社関係者が多く閣僚を務め、2001年に京都議定書脱退を表明した米ブッシュ政権が強く主張していたものであり、結局は気候変動対策の進展を阻害する効果しかない。なぜなら後述もするように、COPの代替案はないからだ。

また、斎藤氏の言う「大失敗」の定義がよくわからないものの、もし市民団体がボイコットしてCOPに参加しなかったら、その排出削減が進まないという意味での失敗の程度は、確かに、小さくなるどころか、気候変動対策に消極的な国や人々(人権を無視する国々や人々とほぼ重なっている)のやりたい放題になって、逆に大きくなっていただろう。その場合、途上国支援などの仕組みの構築も後退したと思われる。それらが、どう「気候正義」の実現につながるのか全くわからない。もちろん、市民団体の影響力は極めて限られている。それでも、会場の中での市民団体の参加やアクションがなかったらと考えるだけでもぞっとする。

そもそもCOPとは?

COPに問題がないと言っているわけではない。おそらく最大の課題は、多くの国連関連の会議において共通ルールとなっている全会一致(コンセンサス)方式だろう。すなわち、基本的には、一国が強く反対したら何も決まらない。そして、気候変動対策を前に進めることに対して明確に消極的あるいは否定的な国は存在する。具体的には化石燃料輸出国や化石燃料大量消費国だ。

したがって、大きく削減を進めるような国際協定が作られることは本質的に不可能と言っても過言ではない。また、お金や技術を出すのは先進国なので、途上国は先進国に妥協せざるを得ない。なので、多くの国、特により大きな被害を受ける途上国は、常にノーディール(No deal)かバッドディール(Bad deal)の選択を迫られる。

COPでは190カ国あまりが参加し、すべての国が同じレベルの決定権を持つ。|出典:UNFCCCホームページ

このような問題があるCOPだが、より良い代替案は存在しない。まずCOP自体を変えることは極めて難しい。例えば、全会一致方式ではなく多数決方式にするという提案は出されるものの、それを決定するのにも全会一致が必要だ。当然、気候変動対策に消極的あるいは否定的な国は、自らの権利を放棄することはなく、多数決への移行は否定する。すなわち、全会一致が変わることは論理的にほぼありえない。

また、仮にCOP以外での交渉の場を作っても、気候変動対策に消極的あるいは否定的な国は参加しない。一方、かつての米国が提唱していたように気候変動対策に消極的あるいは否定的な国だけを集めた枠組みを作ったとしても、気候変動対策を進めるようなアウトプットが出るはずがない。そもそもそれらの国の目的は、国連気候変動枠組条約の元で自分達が負う排出削減の義務や途上国支援の義務を無くすことだ。なので、さまざまな課題はあるものの、現実的に気候変動対策を少しでも前に進めるような国際交渉を国連のCOP以外の場で国家同志が行うのは不可能だ。

実際には、市民社会の努力やプレッシャーのもと、国連という枠組みの中で、複雑な利害関係のバランスを図りながら、徐々にではあるものの気候変動対策の国際的な仕組みは一歩一歩構築されてきた。COPを過小評価するのは簡単だ。しかし、それはブッシュ元米大統領がやったことと同じであり、気候変動対策に消極的あるいは否定的な国を利するだけだ。すなわち、批判するべき相手を間違えている。

COP27の評価

では、今回のCOP27の評価はどのようなものだろうか。以下では、COP27の交渉内容や結果について述べる。

昨年のグラスゴーでのCOP26では、その前の年のCOPがコロナ禍で延期されたこともあって、十分ではないものの、それなりに進展があった(どうせエジプトでは何も決まらないから、グラスゴーで決められるものは決めようという暗黙の了解もあった)。

そのグラスゴー会議での最終文書(グラスゴー協定)の大きなポイントは、1)(2℃ではなく)1.5℃を産業革命以降の気温上昇抑制目標として確立させた、2)「削減対策が講じられていない石炭火力の段階的削減」という文言を最終文書に入れた、の二つであった。したがって、この二つをどう進展させるか、あるいは後退(backslide)させてしまうのかが、排出削減という面での今回のCOPにおける最大の注目点であり、その意味で成功か否かを評価・判断する基準であった。

排出削減をめぐる交渉

前述のように、パリ協定での目標は「2℃以内に抑制」であり、それがグラスゴー協定では「1.5℃以内に抑制」が新たな目標となった。したがって、多少細かくなるが、文書の中でパリ協定を引用している場合は2℃目標を示唆していることになり、それはグラスゴー協定からの後退と判断しうる。結果は、1.5℃目標やグラスゴー協定という言葉は最終文書の中で残ったものの、表現自体はグラスゴー協定より弱くなったというのが多くの研究者やNGOの評価だ。

一方、インドは、EUと米国の支持を得て、石炭だけでなくすべての化石燃料の段階的削減をこの草案に盛り込もうとした。インドがこのような提案をしたのはサプライズであり、最終的には文書には入らなかったものの、「つなぎのエネルギー」としての天然ガスの位置付けなどに関する議論を活性化させた。しかし、結局は「削減対策が講じられていない石炭火力の段階的削減」というグラスゴーCOPと同じ文言が入った。また、最終文書に再エネという言葉が入ったのは評価できるものの、石炭火力に関しては相変わらず「削減対策が講じられていない」という抜け道を認めるような形容詞や「低排出技術(low emission technology)」という曖昧で天然ガスを示唆する言葉も入った。

回らないラチェット

実は、パリ協定の最大のポイントとも言えるのが、目標の定期的な見直しだ。すなわち、パリ協定は全ての締約国に対して、2℃目標あるいは1.5℃目標に合わせるために2030年の温室効果ガス排出削減数値目標を再検討・強化し、最新の科学に即して定期的に更新することを求めている。これがグラスゴーでも再確認された「ラチェット(歯車という意味で、ガチャガチャと一つずつ回しながら上がっていくイメージ)」であり、各国が、より野心的な数値目標をより頻繁に提出することを意味するはずであった。

しかし今、この「ラチェット」が機能しているとは言い難い。実際に、グラスゴー協定の中にも、「各国が2022年末までに2030年目標を見直して強化することを求める」という文章が入っていた。しかし、2022年に新しい数値目標を提出した国は限られており、日本政府を含め多くの国が無視した。今回のCOP27での最終文書にも、「各国が2023年末までに2030年目標を見直して強化することを求める」という文章が入っている。しかし、どこまで守られるかは不明である。日本政府のCOP27の結果概要報告にはこの文章が入っていないので、後述するCOP27閣僚会合での西村大臣の発言内容も考慮すると、おそらく今年も日本政府は無視するつもりなのだろう。

論座「いったい何が決まったのか。日本にはどう影響するのか。−改めて国連気候変動会議(COP27)の意味を考える(上)」(2023年1月23日)」より改稿

@energydemocracy.jp COP27:何が決まって、日本にはどう影響するか − COP27レポート Part 1/明日香 壽川 – https://energy-democracy.jp/4802 11月20日、会期を2日間延長してエジプトのシャルム・エル・シェイクでのCOP27が終わった。本稿では、3回にわたって会議の内容を紹介するとともに、日本の気候変動政策、外交政策、国民の気候変動問題に対する考え方などへの影響について考えてみたい。 #エネデモ #COP27 #COP不要論 #グラスゴー協定 #グリーンウォッシュ #全会一致方式 #ラチェット #気候正義 ♬ To The Moon – King Canyon & Otis McDonald & Eric Krasno

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東京生まれ。東北大学東北アジア研究センター・同環境科学研究科教授。東京大学農学系研究科修士課程修了(農学修士)、インシアード(INSEAD)修了(経営学修士)、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(学術博士)。京都大学経済研究所客員助教授などを経て現職。2010年〜2012年は(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動グループ・ディレクターも兼務。著書に、『グリーン・ニューディール: 世界を動かすガバニング・アジェンダ』(岩波新書、2021年)、『脱「原発・温暖化」の経済学 』(共著、中央経済社、2018年)、『クライメート・ジャスティス:温暖化と国際交渉の政治・経済・哲学』(日本評論社、2015年)、『地球温暖化:ほぼすべての質問に答えます!』(岩波書店、2009年)など。

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