なぜ、東電や国の「失敗」のツケを私たちが払うのか?事故対策費、国民に転嫁

なぜ、東京電力や国の「失敗」のツケを、私やあなたが払わなければいけないのか ― 知らないという人がほとんどだろうが、私たちは東電の福島第一原発事故の対策費を電気料金や税金として払わされている。事故対策費は少なくとも約11兆円になる。

いまから18年前の1996年、住宅金融専門会社(住専)の破たん処理のための6,850億円の税金投入が大問題になった。今回は巧みに、その負担が国民に転嫁されている。もっと私たちは怒っていい。

電力会社の経営分析で知られる立命館大学の大島堅一教授と、賠償や除染の実態調査をしている大阪市立大学の除本理史教授が、事故対策にどれだけの費用がかかり、その費用をだれが負担するのか、を分析、整理した。近く専門誌に発表するといい、筆者はそれをもとに原発事故の対策費の問題を記事にした。

最初に確認しておくが、事故の被災者に対する損害賠償や、地域の除染などについて、東電と国は資金の拠出や労力を惜しんではならないのはもちろんだ。しかし、東電や国の責任をあいまいにしたままで、私やあなたがその負担を強いられるのは筋が通らないということを言いたいのだ。

国会事故調査委員会は12年7月、東電や規制当局が地震、津波対策を先送りしたことを「事故の根源的原因」とし、「自然災害でなく人災」とする最終報告書を出した。であれば、その事故対策の費用は責任に応じて東電や国が出すべきだ。

ところが、両教授がその費用負担が実際にどうなっているかの分析をしたところ、電気利用者や国民に、その負担が見事なまでに転嫁されているのだ。(表1)

表1. 東京電力福島第一原発事故の費用と負担の状況

表1.東京電力福島第一原発事故の費用と負担の状況

たとえば、損害賠償費用は、国が必要な資金を用意し、この大部分を業界全体が「一般負担金」として返していく仕組みになっているが、すでに原発を持つ9つの電力会社のうち7社が、電気料金の値上げの際に料金の原価に算入している。このことはほとんど報道されていない。

除染や中間貯蔵施設、事故収束などの費用も、まるでこっそりと、国民にその負担が転嫁されている。本来、国会でも時間をかけて議論されるべき問題のはずだ。

両教授が、政府や東電などの最新資料から集計した原発事故の対策費は約11兆円。これが、私たちのふところからまきあげられる。遠く離れた北海道電力や九州電力の電気利用者も、東電の原発事故の対策費を払わされているのだ。

その一方、東電をつぶさなかったことで、東電の株主や社債権者、貸しつけている金融機関は守られた。事故を防げなかった規制当局の幹部も何の責任も取っていない。こうして責任を問われず、ツケを国民に回せるから、ほかの電力会社も原発再稼働へと動けるのではないか。

表2. 各電源の発電コスト

1kWhあたりの発電単価(円)。2011年のコスト等検証委員会の試算をもとに作成
1kWhあたりの発電単価(円)。2011年のコスト等検証委員会の試算をもとに作成

大島堅一教授はこの事故対策費約11兆円をもとに、民主党のコスト等検証委員会の計算式を使って、原発の発電コストを計算すると、1キロワット時あたり9.4円になった。さらに停止中の原発が15年に再稼働し、40年で廃炉にするという実態に近い条件で計算すると、11.4円になった。(表2)

もはや、10円台の石炭火力やLNG(液化天然ガス)火力と比べ、原発は「安い電源」とは言えなくなった。事故対策費をツケ回しされ、発電コストも安いとは言えないのに、これからも原発を維持していくのか。私たちは、原発のコストとその負担について、もっと厳しく見る目を養わないといけない。

WEBRONZA

 

 

オリジナル掲載:WEBRONZA, なぜ、東電や国の「失敗」のツケを私たちが払うのか?事故対策費、国民に転嫁(2014年06月27日)

朝日新聞編集委員(エネルギー・環境担当)。千葉、静岡両支局、名古屋・東京の経済部に勤務。金融や経済産業省を担当。ロンドン特派員(02~05年)として世界のエネルギー情勢を取材。社内シンクタンク「アジアネットワーク」でアジアのエネルギー協力策を研究。現在はエネルギー資源・環境分野などを担当する編集委員。著書に「資源争奪戦を超えて」、共著に「失われた〈20年〉」、「エコ・ウオーズ~低炭素社会への挑戦」。

次の記事

日本の電力技術は遅れている、と言うべき日が来た

前の記事

共有経済へのイノベーション(その1)

Latest from 福島第一原発事故

日本のエネルギー政策にフェアネス精神はあるか?

原子力発電の廃炉費用の問題が世間を賑わせています。この廃炉費用が託送料金に上乗せされ、新電力(正確には新電力と契約している電力消費者)にもその料金が課せられるという議論が進行中です。この議論に対して、すでにさまざまな立場

エネルギー転換の歴史

多くの人たちが、ドイツのエネルギー転換(Energiewende)は、日本の福島第一原発事故を受けて、アンゲラ・メルケル首相が脱原発を決めたことから始まったと思っています。しかし、Energiewendeは、政府がそれ以前に決めていた脱原発の計画に戻ってきたことに他なりません。ドイツの歴史と社会に深く根付いた長いプロセスは、自然エネルギーの大幅な増加を引き起こす政策を創り出し、いまや低炭素経済への移行の中心的な駆動力となっています。

映画『日本と再生 光と風のギガワット作戦』

福島原発事故であぶり出された原発利権構造。日本政府は執拗に原子力発電の復活を目論んでいる。すべての原発を止めようとする脱原発弁護士・河合弘之は「原発をなくしても、自然エネルギーで地域も経済も再生できる」と信じ、世界の自然

6年間ほぼ原発ゼロの現実の直視を(書評)

3.11福島第1原発事故を教訓に脱原発を選択する国が相次ぐなか、肝心の事故を引き起こした当事国の日本が原発に固執している。しかしその内実は、出口の見えない福島第1原発の廃炉や汚染水問題をはじめ、急増する甲状腺がんや被曝の

原発1号機の冷却失敗は氷山の一角(書評)

2011年3月11日の事故発生から福島第一原発の免震重要棟に陣取り、死を覚悟しつつ事故を収束させた故吉田昌郎所長は、海外からも「フクシマ50人のリーダー」と称えられたヒーローとなった。

Energy Democracy は、環境エネルギー政策研究所(ISEP)による専門情報メディアです。環境エネルギー政策に関する論考を、厳選された国内外の専門家、実務家、ジャーナリストが寄稿します。

ご寄付

Webサイトの継続的な運営・拡充のため、ご寄付をお願いいたします。

メールニュース

ソーシャルメディア

Protected by reCAPTCHA. The Google Privacy Policy and Terms of Service apply.
 Copyright © Institute for Sustainable Energy Policies. All rights reserved. Since 2014.