図2| 2006~2017年の平均的な家庭用電力価格の比較(出典-BDEW 2017)

ドイツの家庭が電力に支払っているもの

2017年5月12日

2017年初めに電力の卸売価格が下がる中、ドイツの家庭用電力価格は、記録的高値に達しました。しかし、ドイツの支払う単価はヨーロッパ内で最も高いにもかかわらず、Energiewende(低炭素経済への移行)は強い支持を集めています。この理由の1つには、可処分所得に占める電力支出の割合が長年の間変わっていないことが挙げられます。

電力価格の構成要素

ドイツの家庭用と中小企業用の電力価格は、半分以上が政治的に決定される要素から成り立っています。ドイツの家庭電気料金の55%は、電気使用料(価格全体の1/5)と、その他のサービスに対する税金(約1/4)および再エネ投融資に対する賦課金(約1/3)の2つにより構成されています。電力価格と供給事業者のマージン(約1/4)は市場協定により設定されています。法人需要家は電力価格の構成要素のいくつかが免除されます。賦課金は需要家の地域に応じて変化するものがあります。

政府は、価格の半分以上を直接的または間接的に設定しているものの、収入は2つの税金とコンセッション料のみから得ています。その他の賦課金は系統運営者、再エネ発電事業者、そして従来型発電事業者に渡ります。

図1| 2016年(左)と2017年(右)の家庭用電力価格の構成(データ BDEW 2017)

2017年の平均的な家庭用電力価格は次のようになっています:


供給事業者の発電コスト(19.3 %)

利益マージンと供給事業者の卸売市場電力購入コスト(約5.63セント/kWh)。

系統利用料(25.7 %)

連邦系統規制機関が設定する送電線の利用料金(約7.01セント/kWh)。

再生可能エネルギー賦課金(23.6 %)

政府が保証する再エネ価格で発電事業者に再エネ賦課金が支払われ、2017年は6.88セントに上昇しました。(再エネ賦課金の詳細についてはCLEWの報告書Defining features of Germany’s Renewable Energy Act Green Energy Accountを参照)

消費税(付加価値税)(16%)

消費税は、税抜き電力価格の19%、税引き後電力価格の16%を占めます(約4.6セント/kWh)。

電力税(7%)

電力使用に対する税金でドイツでは「環境税」とも呼ばれています(約2.05セント/kWh)。

コンセッション料(5.7 %)

電気を需要家に届ける送配電線の公共空間使用に対する賦課金です(約1.66セント/kWh 地域により変動)。

洋上風力賦課金(0.1 %)

系統運営者は、洋上風力発電による電力を販売する上で然るべきタイミングで接続できなかった場合、補償金を支払なければなりません。系統運営者は、この洋上風力賦課金を通して需要家に費用を転嫁することができます。2017年は前年からの支払い取り消しが増えたことから、マイナスになり、現在は約マイナス0.02セントです。

コージェネ賦課金(1.5 %)

コージェネ発電所(CHP)の運営事業者は、電力販売価格の保証を受けることができます。保証価格と市場受取価格の差額は、このコージェネ賦課金によって賄われています(約0.43セント/kWh)。

系統利用料産業払い戻し賦課金(1.3%)

大口需要家は系統利用料の一部またはすべてが免除されます。その費用はこの賦課金を通して需要家間に分配されます(0.388セント/kWh前後に上ります)。


数年ぶりの下落後から再上昇する価格

年間3,500kWh を消費する3人家族の電力価格は1998年のレベルを68%上回ります。この理由の1つには、再エネ賦課金が実施期間中に10倍以上上昇し、電力価格に占める割合が1%から24%に増えたことがあります。再エネ賦課金は卸売価格とそれより高いグリーンエネルギー固定価格(法令により再エネ発電事業者に保証されている)との差額です。系統運営者はこの差額を需要家に転嫁します。大口の法人需要家とは対照的に、一般家庭はすべての賦課金と税金を支払わなければなりません。

2015年に需要家の電力価格は数年ぶりに軽減しました。これは2000年に導入された再エネ賦課金が2014年の1kWhあたり6.24セントから翌年の6.17セントに下降したことによるものです。しかし、2016年以降、再エネ賦課金は再び上昇し始め、現在は6.88セントに位置しています。需要家の電力価格も以前のレベルに引き戻され、2017年は29.16 セント/kWhという新たな最高値に達しようとしています。

近年卸値は下落したものの、電力供給事業者の一般需要家に対する値下げはなかなか進みませんでした。2015年に数社が開始したものの、 Verivoxによると年間4,000kWを消費する平均的な家庭は、2017年初期で前年に比べて約1%多く支払わねばなりませんでした。価格は供給事業者間で大幅に異なるため、家計の節約のために供給事業者を切り替えるようサイトで呼びかけました。Verivoxは、平均的な4人家族の場合、年間の価格は約470ユーロ変わったと話しています。

Verivoxは、ドイツに存在する約3分の1の企業(251社)が2017年に平均3.5%の価格引き上げを発表した一方で、供給事業者16社は平均2.2%の価格引き下げを望んでいたと説明しています。前年までの供給事業者の行動に基づいて、価格比較サイトでは2017年の春に第2の価格の波が起こるだろうと予測していました。

図2| 2006~2017年の平均的な家庭用電力価格の比較(出典-BDEW 2017)

多くの需要家は電力コストを気にしていない

さらなる価格上昇が必至とみられているにもかかわらず、安定多数のドイツ人がエネルギー転換を支持し、全般的に経済に有益であると考えています。考えられる理由としては、電力消費量は2015年の家庭の可処分所得の2.3%程度に過ぎず、1998年の電力市場自由化以前の1.78%よりも高い1980年半ばのレベルに戻っただけであることが挙げられます。

それでもなお、家庭用電力価格は少なくとも5年間、名目値でヨーロッパ内の最高値が続いています。電力料金を減らすには契約内容を新しくする、もしくは供給事業者を乗り換えるという方法があります。競争の激化により供給事業者は値下げを強いられています。

しかし、需要家のもつ惰性について研究者は指摘していますCheck24の報告によると、半数以上の需要家はより安い選択肢があっても長年の供給事業者との古い契約を続けています。その価格差は非常に大きく、20〜30%になることもあります。

驚くべきことに、ドイツのほとんどの人々は電力供給に対する自分の支払額を把握していません。Federal Association for Information Technology (Bitkom) のアンケートによると、92%の回答者が電化製品を買う際、消費電力が重要な要素であると答えているのにもかかわらず、その約半分(49%)の人は自分たちが年間で消費している電力量を知らず、37%の人はいくら払っているのか想像がつかないと述べています。

省エネで対応するドイツ人

再生可能エネルギー機関(AEE)によると、月間のエネルギーコスト(暖房、電気、ガソリンを含む)は、平均的なドイツの3人家族で2014年は280ユーロでした。ガソリンは最も大きな割合を占めており、その次に暖房費が続きます。電気代は85ユーロに登りました。

図3 | 2014年の3人家族の月間エネルギーコスト(出典AEE 2015)

エネルギー効率を表すラベルは光熱費を抑えるドイツの施策の一つです。産業界と同様、ドイツの一般消費者はエネルギー効率性の高い家電や低エネルギー電球に切り替えるなど、省エネ戦略に方向を変えました。20年間で米国では電力消費量が20%増えたのに対し、ドイツの家庭は10%減らしました。2014年のドイツの家庭での電力消費量は米国の3分の1以下であり、フランスやイギリス、スペイン等のヨーロッパ主要産業国を下回りました。

図5 | ユーロ/年での平均家庭電力料金の比較(出典 Agora Energiewende/EI New Energy, Vol. III, No. 8)

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著者:エレン・タールマン(Ellen Thalman)、ベンジャミン・ウェアーマン(Benjamin Wehrmann)Clean Energy Wire特派員

元記事:Clean Energy Wire “What German households pay for power” by Ellen Thalman, Benjamin Wehrmann, Feb 16, 2017. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳

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