風力発電で躍進する世界の国々

2016年3月24日

世界の自然エネルギー市場はこの10年間で急成長を遂げていますが、その中でも風力発電は、太陽光発電と並んで最も成長している分野のひとつです。各種の統計データをもとに、世界の動向を見てみましょう。

2015年末の時点で太陽光発電の累積導入量は2億3000万kWに達して、2005年から2015年までの10年間で約45倍に急増しています(図1)。一方、風力発電は2005年の5900万kWから2015年末には4億kW3500万kWと7倍以上も増加しています。2015年の年間導入量も太陽光発電が5700万kW、風力発電が6400万Wと合わせて1億2000万kWを超えて史上最高を記録しており、自然エネルギーが世界のエネルギー市場で主役となってきています。自然エネルギー等のクリーンエネルギーへの投資額は、2015年も前年から続伸しており、過去最高の約3300億ドル(約40兆円)に達しています。日本国内でも、太陽光発電を中心に世界第3位の約5兆円の投資が行われています[1]

図1. 世界全体の風力発電、太陽光発電、原子力発電の導入量の推移(出典:GWEC,EPIA, IAEA等のデータからISEP作成)*1GW = 100万kW
図1. 世界全体の風力発電、太陽光発電、原子力発電の導入量の推移(出典:GWEC,EPIA, IAEA等のデータからISEP作成)*1GW = 100万kW

世界の風力発電は、2015年に新規導入量が約6300万kWと過去最高を記録し、前年(2014年)の5100万kWを大きく上回りました。2015年末までには累積導入量が前年比17%増加して約4億3000万kWに達しています[2]

1990年代以降、世界の原子力発電の累積導入量はあまり増加しておらず、3億8300万kW(2015年末)に対して、風力発電が上回りました。1990年から2015年までの25年間に飛躍的な成長を遂げた風力発電の累積導入量は約220倍になっています[3]。そのため、すでに陸上での風力発電の発電コストは、既存の火力発電と同レベルまで国際的には低下してきています[4]

この風力発電市場の急成長は2008年頃まではドイツやスペインなど欧州の一部の国が牽引していましたが、近年は中国が先導しており、欧州各国や他の新興国でも導入が進んでいます。

中国の風力発電

中国の国内での2015年の風力発電の年間導入量は3000万kWを超えており、前年の導入量2300万kWを30%以上も上回りました。世界全体の風力発電の年間導入量6300万kWの半分近くを占めており、日本国内での年間導入量24万kWの実に125倍に達します。

中国は2015年末には導入量が累計で約1億4500万kWと風力発電について引き続き世界一の導入国となると共に、EUに加盟する全28か国の累積導入量1億4200万kWを上回り、日本国内の導入量の50倍近くに達します。

2015年末の時点で風力発電は中国内の全発電設備の8.6%に達しており、2015年の風力による発電量は1860億kWhで中国全体の発電量の約3.3%に達しています。中国での風力発電は、火力発電や水力発電に次ぐ第3番の電源としての地位を固め、原子力発電の発電量を超えていると推定されます[5]

中国では第12次5か年計画のもとで、2015年までの風力発電の導入目標1億kWをすでに達成しています。さらに2020年までには、洋上風力3000万kWを含み、累積導入量2億kWを目指す目標が定められていますが、このまま順調に成長すれば2億5000万kWに達するという予測も出始めています。

中国では風力発電以外に太陽光発電の導入も大幅に進み、クリーンエネルギーへの投資額も1100億ドルを超え、560億ドルで第2位の米国を大きく引き離しています。

欧米の風力発電

風力発電の累積導入量が世界第2位の米国では860万kWが新規導入され、2015年末には7400万kWに達して、米国内の総発電量の2%以上を占めるまでになっています。

一方、ヨーロッパ全体では年間1350万kWが新規に導入され、累積設備容量が約1億4700万kWに達しました。

国別の累積導入量ではドイツが4500万kWとなり、2015年の総発電量の13%以上に達し、太陽光と合わせた割合では19%に達しています(自然エネルギー全体で30%)。

スペインでの累積導入量は2300万kWですでに主力の電源のひとつとなっていますが、2015年は新規の導入はありませんでした。

イギリスは洋上風力を中心に導入が進み累積導入量が1300万kWを超えましたが、原発大国のフランスでも風力発電の導入が進んでおり、年間導入量が100万kWに達して、累積で1000万kWを超えました。

石炭火力に大きく依存しているポーランドでも120万kWが新規に導入されています。

デンマークでは人口一人当たり、面積あたりの風力発電の導入量が世界トップになっており、2015年には総発電量の約42%を風力で発電しています[6]

近年注目されている洋上風力発電については、2015年に340万kWが欧州を中心に新規導入され、累積導入量では約1200万kWに達しています。特にドイツでは、230万kWの洋上風車が新規に導入されました。

図2:世界各国の風力発電の累積導入量の推移(GWECデータ等よりISEP作成)*10MW = 1万kW
図2. 世界各国の風力発電の累積導入量の推移(GWECデータ等よりISEP作成)*10MW = 1万kW

アジア・南米の風力発電

アジアなどの新興国でも風力発電の導入が進んでいます。インドの新規導入量が260万kWとなり、累積導入量が約2500万kWに達していますが、南米ブラジルでも270万kWが2015年に導入されました。

日本の風力発電の現状と課題

一方、2015年の日本の新規導入量は約24万kWで、2015年末の時点で累積導入量がようやく300万kWを超えた段階です[7]。しかし、日本国内では陸上だけでなく、洋上を含めて風力発電の大きな導入ポテンシャルがあります。日本国内での風力発電に対する長期的な導入目標の見直しと共に、環境アセスメントの手続きや電力系統の拡充、電力システムの改革などが課題となっていますが、今後の成長が期待されています。

2015年10月末時点で、FIT制度による設備認定は234万kWありますが、この運転開始は38万kWに留まっています(移行認定をふくめれば、設備認定は487万kW、運転開始は291万kW)。環境アセスメントの手続きが行われている風力発電設備は、764万kWに上るため、これらが運転開始すれば2020年代初頭には、導入量は1000万kWを超えると日本風力発電協会(JWPA)では見込んでいます(経産省のエネルギーミックスでは、2030年度に1000万kW)[8]

図3. 日本の風力発電の導入量の推移(出典:JWPAデータ等よりISEP作成)
図3. 日本の風力発電の導入量の推移(出典:JWPAデータ等よりISEP作成)

一方、電力系統の制約が風力発電の導入ポテンシャルの大きい北海道や東北地方で、さらに厳しくなってきています。2015年12月には、風力発電に関して北海道電力と東北電力が「指定電気事業」となりました。

北海道電力では、風力発電の接続可能量36万kWに対して、すでに接続申込み量が上回っており、今後の接続申し込み分は無制限の出力抑制の対象となります[9]

東北電力では、風力発電の接続可能量251万kWに対して、2015年10月末時点で180万kWの接続申し込みがあり、来年度には接続可能量に達する見込みと発表しています[10]

環境アセスメント手続きの期間短縮が実現しても、この「指定電気事業者制度」により風力発電の導入が抑制される可能性があります。なお、接続可能量の算定にあたっては、原発のフル稼働や、接続申し込みのある太陽光発電の容量などが反映されています。

出典

[1] BNEF(Bloomberg New Energy Finance)「クリーンエネルギーへの投資動向:2015年版」http://www.bnef.com/
[2] WWEA(World Wind Energy Association)http://www.wwindea.org/
[3] GWEC(Global Wind Energy Council)http://www.gwec.net/
[4] IRENA “Renewable Power Generation Costs in 2014” http://www.irena.org
[5] 国家能源局プレスリリース(2016年2月4日)http://www.nea.gov.cn/
[6] Energinet.dkプレスリリース(2016年1月15日)http://energinet.dk/EN/
[7] 日本風力発電協会(JWPA)2016年1月21日 http://log.jwpa.jp/content/0000289449.html
[8]日本風力発電協会(JWPA)2014年6月 http://jwpa.jp/jwpa/vision.html
[9] 北海道電力(2015年12月16日) http://www.hepco.co.jp/info/info2015/1197760_1646.html
[10] 東北電力(2015年12月16日) https://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1190869_1049.html

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千葉県出身。環境エネルギー政策研究所理事/主席研究員。工学博士。東京工業大学においてエネルギー変換工学を研究し、学位取得後、製鉄会社研究員、ITコンサルタントなどを経て、持続可能なエネルギー社会の実現に向けて取り組む研究者・コンサルタントとして現在に至る。持続可能なエネルギー政策の指標化(エネルギー永続地帯)や長期シナリオ(2050年自然エネルギービジョン)の研究などに取り組みながら、自然エネルギー白書の編纂をおこなう。自然エネルギー普及のため、グリーン電力証書およびグリーン熱証書の事業化、市民出資事業や地域主導型の地域エネルギー事業の支援などにも取り組む。

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