図1|ドイツ電力系統における再給電指令コスト 出典: CLEW

ドイツ電力系統の再給電指令コスト

2016年4月15日

ドイツが推進するエネルギー転換 − 化石燃料と原子力から再生可能エネルギーへの転換 − における関心事の中で、系統安定のための再給電指令コスト(Re-dispatch cost)が新しい論点として浮かび上がってきています。このファクトシートは、それがなぜ起こり、誰が負担し、このコスト回避のためにどのような手法がとられてきたのかを示しています。

ドイツの電力系統における再給電指令発生事例 (CLEW, 2016)
ドイツの電力系統における再給電指令発生事例 (CLEW, 2016)

ドイツの電力システム内では、ますます変動型の再生可能エネルギーの比重が高まっており、それが国内の系統管理に対して新たな課題を突き付けています。以前は従来型電源が需要に合わせて電力を供給していましたが、現在は天候の変化によって電力が突然流れこむようなことが起こっています。系統運用者は系統の安定性を確保するため、「再給電指令(Re-dispatch)」によって需要と供給のバランスを保つべく、大変な努力をしています。

現状を最も簡単に説明するため、北ドイツに強風が吹いている日を想定してみましょう。

ドイツのエネルギー転換によって、風力による発電量は新記録を次々と打ち出しています。2015年には、風力がドイツ国内の総電力消費に占める割合は50%も上昇しました。この間、陸上風車の容量は3.3GW増え、洋上風力の容量も2.2GW増えました。2016年2月には、風力の瞬間出力が過去最高の33GWを記録しました。

この新たに増えた電力はすべて、どこかへ運ばれる必要があります - 特に産業地帯である南ドイツが最も必要としています。そのため、風が特に強く、北部の電力需要が少ない日には、再エネ電力は南ドイツへ電力を運ぶと想定される送電線の容量を超えて系統に流れ込みます。そうすると系統混雑が発生し、系統運用者は系統の安定のために再給電指令を出す必要に迫られます。

電力系統の安定を保つため、系統に給電される電力量は、常に電力の需要量と等しくする必要があります。通常、この調整は電力市場を通じて行われます。市場では、例えばすでに卸市場で取引された電力量を供給するなどして(CLEWファクトシート「メリットオーダーシート」も参照)、発電設備運用者が需要量に等しい量を発電します。系統運用者は、前日市場の取引結果をもとに作成される発電所の「給電(dispatch)」リストを受け取ります。

例えば風の強い日で、南ドイツが買い付けた北ドイツの風力発電所による電力を運ぶための南北の送電系統が混雑する場合、系統運用者には、3つの異なる再給電指令を発する権限が与えられています:

    • 系統運用者は、北部の風力の給電量の増加に対応できる余力を作る(make space)ため、北ドイツの従来型電源に対して発電量を抑える指令を出すことができる。
    • 系統運用者は、一時的に風力発電設備を停止(捨電)することができる(再エネの優先給電原則のため、これは最終手段としてのみ利用できる)
    • 南ドイツの電力消費者に電力を販売する小売事業者が北ドイツの風力発電の電力を調達しており、かつ北ドイツの風力による電力が系統を通して南ドイツへ供給できない場合、系統運用者は電力需要に対応するため、南ドイツの従来型電源設備に対して発電量の増加を指示することができる。

これらすべての再給電指令は、電力消費者に対して結果的に追加コストとなります。

    • 系統運用者が発電所に対して生産制限を指示した場合、系統運用者は発電所に対して本来発電から得られたであろう収入を補償しなければならない(発電事業者が節約できた燃料費は除く)
    • 系統運用者が再エネ発電事業者に対して系統からの解列を命じた場合、逸した収入について部分的に補償しなければならない
    • 南ドイツの従来型電源に対して追加の発電を指示した場合、市場価格より高い部分のコストを補償しなければならない

2014年に再給電指令が出された日数は330日に上り(2013年は232日)、電力量にして5,197GWh、コストにして1億8670万ユーロ(2013年は1億3260万ユーロ)だったと、連邦ネットワーク規制庁は報告しています(p.100 monitoring report 2015

再エネ発電事業者は、給電量制限の補償として8260万ユーロを受けとっています。これは、捨電された再エネ電力量にすると1,581GWhになります。しかし、連邦ネットワーク規制庁は、この電力量は2014年の正味の再エネ総発電量の1.35%にすぎないと指摘しています。再エネ電力に支払われた金額の合計(2015年は240億ユーロ)と比較すると、これはドイツの再エネ成長にかかった費用のほんのわずかを占めるにすぎないのです。

送電系統運用者の1つである50Hertzは、2015年のドイツ国内の再給電指令にかかるコストは5億ユーロと試算しています。連邦ネットワーク規制庁の長官 Johen Homann は、2020年までにこのコストが年間10億ユーロまで上昇する可能性があると警告しています。

再給電指令のコストは、電力料金の請求時に支払っている託送料の一部として、消費者に転嫁されます。

頻繁に系統安定対策が取られているものの、ドイツの電力系統はヨーロッパで最も信頼性が高い系統の1つです。平均的な消費者で、1年間の停電時間は約12分であり、これは多くの場合再エネの給電とは関係ありません(系統安定についてはこの記事も参照

系統運用者と連邦ネットワーク規制庁は、産業団体や再エネ発電事業者とともに、南北送電系統のボトルネックを解消するために、迅速な送電系統の拡張を求めています。連邦ネットワーク規制庁は、2024年までに3,050kmの系統更新と2,750kmの系統新設が必要だと評価しています(p. 21 monitoring report

研究者には、南北系統が新設されても、北ドイツの風力発電の成長と、今後7年間で原子力発電所が閉鎖されることによって生じる南ドイツの従来型電源の容量の減少に十分に対応することはできないと指摘する者もいます。彼らは、より分散型の電力供給システム、蓄電、デマンドサイドの柔軟性、さらにはドイツ語圏の電力市場を異なる2つの取引地域(price zone)に分けることを提案しています。

    • Clean Energy Wire のドイツ電力系統に関する意見はこちら
    • Clean Energy Wire のドイツ国内系統のループフローに関する記事はこちら

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著者:ケアスティン・アップン(Kerstine Appunn)/Clean Energy Wire スタッフ特派員

元記事:Clean Energy Wire “Re-dispatch costs in the German power grid” by Kerstine Appunn, Feb 16, 2016. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳

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