ヴァーチャルパワープラントの図(出典:Statkraft)

デジタル化がエネルギー転換の新たな局面に火を点ける

2017年12月26日

情報コミュニケーション技術は、再度、ドイツのエネルギー分野に大変革をもたらそうとしています。エネルギー転換発祥の地は、多数の風力と太陽光をベースとして、自動車の充電や熱供給もおこなうことができるより柔軟で効率的な電力システムを必要としています。

世界第4位の経済大国ドイツの脱炭素化のスピードを速める可能性が非常に高いため、デジタル化はエネルギー転換の次の局面において決定的に重要となります。しかし、それは多くの既存のビジネスモデルによってひっくり返されたり、データプライバシーやサイバーアタックに関する懸念を引き起こすことになるでしょう。

「デジタル化がエネルギー転換を完全に新しいレベルへと引き上げることに疑いはありません」と、デジタル産業協会bitkomのエネルギー専門家ロバート・スパンハイマー氏は述べます。

技術と社会を専門とするシンクタンク Stiftung Neue Verantwortung のファビアン・リーツ氏は、これに同意します:「デジタル化は、電光石火のごとくエネルギー分野全体に接近しています。それはゲームのルールを変え、パワーバランスをずらし、これまで不可能だったことを可能にします。」

原子力と化石燃料から自然エネルギーへの移行を意味する「エネルギー転換(Energiewende)」は、すでにドイツのエネルギー分野を変容させています。自然エネルギー電力は、いまや国内の電力消費の約3分の1を占めるようになりました。この先10年程度で半分を供給するようになると見込まれています。

エネルギー転換の次の局面は、電力会社が「これまでで最大のITプロジェクト」と呼ぶ複雑なITシステムが舞台の中心となるでしょう。従来型の発電所が気象に依存する太陽や風力に置き換わり、電力システムの中心的な柱になるにつれて、前例のない方法での需給調整が必要とされるようになります。ドイツが野心的な気候目標を達成しようとするのであれば、グリーンな電力はより効率的に使われなければなりません。

デジタル技術の影響は、家庭の暖房を携帯電話で遠隔操作できるようになるといったことや、インターネットに接続された電力の「スマート」メーターの導入といったことを遥かに超えたものとなるでしょう。

「問題の核心は、近隣間での余剰電力の融通や、小さな規模での柔軟性の活発化といったような、デジタル化に連想されるコンセプトにあります」と、スパンハイマー氏は説明します。

エネルギー分野は、デジタル技術の採用という面で、メディアや小売りといった他の産業よりも遅れています。しかし、いまやビッグデータ、ヴァーチャルパワープラント、スマートグリッド、インターネット・オブ・シングズ、シェアリング・エコノミーやブロックチェーンといった言葉でざわめいています。

出典: BCG (2015)

デジタル技術のおかげで、まったく新しいビジネスモデルを携えた企業たちがエネルギー市場に参入することが可能になっています。こうした企業は、一般的な電力消費者を電力トレーダーに変貌させたり、インターネットをベースとするネットワークの中で産業機械や蓄電池と家電を結びつけたりします。

しかし、こうした進展にもかからわらず、長期的にデジタル化がエネルギー分野のビジネスや人々の行動になにをもたらすのか、依然として不透明なままです。

「それは、インターネットが発明される前にその影響を予言するようなものですね」と、リーツ氏は述べます。

アゴラ・エネルギーヴェンデのデジタル化の専門家であるステファニー・ロペヌス氏は「エネルギー転換にとって、デジタル化はクォンタムリープであると言えます」と述べます。

「ITとコミュニケーション分野は、エネルギー分野と融合しなければなりません。これは産業だけでなく、社会のパラダイムシフトであり、そこには機会とリスクがあります。いまや、私たちは私たち自身に問いかける必要があります:私たちは何を欲しているのでしょうか?」

エネルギーの大転換を可能にするもの

狭い意味で「デジタル化」とは、アナログな情報をデジタルな形式へと移転させるプロセスを指します。しかし、エネルギー分野の文脈では、情報コミュニケーション技術の広範な影響を言い表すようになってきました。

リアルタイムな電力フローを読み取ったり、やりとりするセンサーは、一般的にエネルギー分野のデジタル化のスタート地点であると考えられていて、電力フローの遠隔操作がこれに続きます。

このような発電事業者と需要家の間で双方向コミュニケーションを可能にする「スマートメーター」は「スマートグリッド」の基盤であり、これが発電と需要のローカルな変化を検知して即座に反応することで効率性と柔軟性を高めます。

ドイツの電力系統内で変動する自然エネルギーの割合が高まることに対応する上で、このような段階的なステップはきわめて重要になるでしょう。

エネルギー転換におけるもっとも巨大な課題のひとつは、原子力や石炭や天然ガスに依存せずに、天候に依存する風力や太陽光発電と需要を一致させることです。

従来型の電力システムでは、電力需要に応じて化石燃料や原子力発電所のスイッチをオン/オフしていました。自然エネルギーシステムは、需要に応じてではなく、風や太陽に応じて発電するため、従来型では対応不可能です。

下記の図は、2022年の典型的な3週間の電力需要と自然エネルギー供給を示したもので、これは将来の課題を描いています。

出典:Agora Energiewende

ドイツは、すでに150万件以上の太陽光発電と約3万基の風車の導入を誇っています。これらの数字はさらに大幅に増加する方向に進んでいます。それらの出力は、今後、さらに追加されていくであろう数百万台の電気自動車の需要やヒートポンプとコーディネートされなければなりません。

「完全に分散化された自然エネルギー供給はデジタル化抜きには不可能です」と、bitkomのスパンハイマー氏はClean Energy Wireに述べています。

「私たちはエネルギー転換の次の局面にたどり着きました。インターネットなしでエネルギー転換は完了できないのです。問題は、もはやどの技術が安い電力を供給するかではありません — それは風力と太陽光であって、それに疑問をもつ人はいません。これらの電力の特性にどうのように対応するのか、また、それをもっともコスト効率的にどのような方法で統合するのかという問題へと関心は移っています。」

自然エネルギーの発電量を予測する気象予測はますます洗練されており、これがネットワークに組み込まれることは、重要なデジタル技術の応用です。(詳細については、Weather forecasts aim to make renewable power predictable と、ファクトシート Volatile but predictable: Forecasting renewable power generation <日本語翻訳> を参照)

人工知能(AI)も決定的に重要となるでしょう。Googleが所有するAlphabet社のAI企業DeepMindは、ピーク需要と自然エネルギー供給を予測するこの技術に莫大なポテンシャルがあると見ていることをフィナンシャルタイムズに述べています。

電力需要と変動する自然エネルギー供給の調整は、もうひとつのカギとなるステップです。このアプローチは、現在、アルミ溶鉱炉といった大規模な産業利用に限定されています。

しかし、将来的には家庭にも適用されることになるでしょう。例えば、柔軟な価格設定の契約のもと、自然エネルギー発電がわずかな時に電気自動車を充電することは、高騰する価格によって抑制されるかもしれません。

家庭のヒートポンプと同じように、自動車のバッテリーはヴァーチャル・パワー・プラントの一部になるのかもしれません。つまり、クラウドベースのITコントロールシステムが多数の分散型発電事業者と柔軟性をもつ需要家をプールするかたちです。電力の分配と取引をスマート化することで、ヴァーチャル・パワー・プラントは系統を安定化させ、既存の電力システムへの自然エネルギー電力の統合が可能になります。

例えば、ドイツのスタートアップ企業ネクスト・クラフトベルク社は、自らを「発電所を所有しない発電所運用者」と呼び、原発数基分と同等の設備容量になる4,000件以上の自然エネルギー発電所のネットワークを使い、電力取引と系統バランスをおこなっています。

ヴァーチャルパワープラントの図(出典:Statkraft)

デジタル技術は、やはり、こういった企業のカギとなります。[詳細はファクトシートHow can Germany keep the lights on in a renewable energy future?を参照]

「需要に柔軟性をつくり出すことは、コミュニケーションを通じてのみ可能となります。これは、デジタル化が力を発揮することができる領域です」とスパンハイマー氏は述べます。

電力・熱・輸送における化石燃料から自然エネルギーへの移行は、よく「セクターカップリング」と呼ばれていますが、ドイツの脱炭素経済への移行の本質的な部分であると考えられます。これは、自然エネルギーがそれらの分野での化石燃料の使用を置き換えることが可能であり、また、例えば電気自動車やヒートポンプは燃焼型エンジンやオイルヒーターよりも少ないエネルギー使用で済むため、システム全体の効率性を著しく改善することも可能です。

デジタル化は、輸送分野においてモビリティの脱炭素化を可能にする上で必要不可欠です。スマートフォンからカーシェアリングサービスにいたるまで、これからのまったく新しいインフラに適用されるアプリケーションは、自動運転車からの「洪水のように現れるデータ」を必要としています。

翻訳註:自動運転車は1日あたり4,000GBの情報処理をおこなう

「輸送と熱の統合は、まだまだ多くの課題を抱えています。例えば、仕事から帰ってきて、みんなが同じ時間に電気自動車を充電したら、何が起こるでしょうか?ピークアワーの同時発生という問題は、自然エネルギーの発電に影響を与えるだけでなく、需要にも影響します。また、もしスマートに管理された充電アプローチが適用されるのであれば、電気自動車はシステムの安定化にも貢献します。」と、アゴラのロペヌス氏は述べます。

効率的に需給をあわせることで、エネルギー転換のコストが下がります。再給電対応によって生じる高価な電力系統拡張の必要性を減らし、系統拡張の遅延コストを減らします。

欧州経営技術大学院(ESMT)シニア講師のクリストフ・バーガー氏は、柔軟性の供給と需要のための市場がブームになるほどに自然エネルギーの普及が進んだことから、エネルギー転換は分岐点に達したと述べます。

「ほんの10年前には、Tennetのような系統運用者は1年に数回ほど系統に介入していました。2015年には、Tennetは1,400回の介入をおこなっています。心配して、「ああ、供給安全保障がリスクにさらされている」と言う人もいます。しかし、一方で「すばらしい、それは柔軟な供給と需要をともなう新しいビジネスモデルの発生を示す指標です。さあ、はじめましょう!」と言う人もいます。」

Bloomberg New Energy Financeの代表、マイケル・リーブライヒ氏は、自然エネルギーの統合という課題に取り組むビジネスにとって、デジタル化が中心となることを確信しています。

「ハードウェアがいかに安くなろうと、ソフトウェアは常により安くなるでしょう」と、リーブライヒは春におこなわれたベルリンでのイベントで述べています。

「デジタル化は、エネルギー転換の次の局面を媒介し、新たな取り組みを可能にするものです。すべての問題を解決する魔法の弾丸ではありませんが、コーディネートの仕方を習得するツールなのです。」と、アゴラのロペヌス氏は述べています。

分散型の閉鎖経済?

環境NGOジャーマンウォッチは、デジタル化が「エネルギー転換の民主化を進める可能性がある」と考えています。彼らによれば、デジタル化によって権力の再分配と近隣への共有が可能となり、ユーザーが市場プロセスから独立することができると言います。

しかし、ジャーマンウォッチは、系統に接続している人口が減ることで、彼らはそのコストを引き受けなければならないため、富の閉鎖経済が連帯を損なうことにも警鐘を鳴らしています。(詳細は、ファクトシートGermany ponders how to finance renewables expansion in the futureを参照)

バーガー氏は、分散型独立のトレンドを軽視することはできないと考えていて、次のように述べます。

「ドイツでは、安い太陽光発電と蓄電池にアクセスできる人たちが増えています。極端な場合、彼らは電力系統から離脱して、エネルギー閉鎖経済に向かいます。私たちがデジタル化を語るのであれば、規模の経済が働くようになったときに起こり得る極端なシナリオにも目を向け続けるべきです。」

産業協会BSWよれば、現在、ドイツの新規太陽光発電のほぼ半分が、すでに蓄電システムとセットになっています。

「グローバル化が進む中で、雇用や地域に高い付加価値を創出することから、多くの国々でこのような分散型アプローチは非常に魅力的です。太陽光発電の「リードサプライヤー」は必ずしもセルの製造者ではなく、小さな貯蓄銀行によって資金調達がおこなわれているであろうプロジェクトを施工する機械工たちなのです。これは、エネルギー転換のデジタル化がどのようにして成長モデルとなることができるかを示しています。地域で安く電力を生み出す技術と、人々がモノゴトを自らの手に取り戻したいという社会運動の組み合わせです。」

しかし、アゴラのロペヌス氏は、ドイツの電力システムが完全に分散化することはないだろうと見ています。

「私たちは、おそらく自然エネルギーを基盤としつつも、集中型と分散型が共存する電力システムを目にすることとなるでしょう。ほとんどの自然エネルギー電力は直接配電網に接続され、「分散型発電」と考えられている一方で、洋上風力発電は集中型の発電所です。また、自給型もバックアップのために系統に接続する必要があります。」

系統コントロールセンター(出典:50Herz)

ビジネスの騒乱

より大量の自然エネルギーを分散型で柔軟に扱う電力システムは、大規模な従来型発電所で生み出したキロワットアワーを販売する既存の電力会社のビジネスモデルを巨大な脅威にさらします。

市場のリーダーであるE.ON社とRWE社は、自らを2つに分割しました。彼らの伝統的なライバルであるEnBW社とVattenfall社と同様に、彼らはいまや、スタートアップやITの巨人といった俊敏な新規プレーヤーとのイノベーション競争の中で新しいビジネスモデルに駆け込んでいます(ぼろぼろの電力会社がスタートアップとどのように競合を強いられているかの詳細については、資料集Utilities and the energy transitionを参照)。

bitkomのスパンハイマー氏は、デジタル化に向けた変化には、将来のエネルギービジネスの全体状況に関連してまだ多くの疑問が残ると言います。

「例えば、集合住宅の屋根に太陽光発電を導入し、蓄電池を併設することに関して、これらはシステムに柔軟性を提供することができるため、未来の電力市場ではまったく異なる動きをするだろうというおおまかなアイディアを私たちはすでにもっています。しかし、それらのサービスの取引システムはどのようなものになるのでしょうか? 誰がそれらを提供するのでしょうか? 新しい会社が現れるでしょうか? 既存の会社はどのよう行動するのでしょうか?
私たちは巨大な変化に直面しています。それゆえに、まったく背景の異なる多くの企業がエネルギー分野に熱心に目を向けているのです。それらの企業の中には、インターネットプラットフォーム上での彼らの経験が既存の電力会社に対する優位性につながるだろうと考えるものもいます。」

アゴラのロペヌス氏は「誰がどのデータを受け取る権限を得るのでしょうか? 誰がスイッチをオフにすることを許可されるのでしょうか? それは、いつなのでしょうか? そのプロセスは市場の力によって駆動されるのか、もしくは系統の安全性を考慮して行われるのでしょうか?」と問います。

ドイツ・エネルギー機構 dena は、これまでの経験からすると、既存の企業がデジタルビジネスを開発して成功するよりも、デジタル企業が新たな産業で勝利する方が容易であると述べています。

dena の産業調査では、「新しいビジネスモデルには、新しい統合ソリューションの基盤となるにふさわしい十分な量のデータを生み出すことが期待されています […] 例えば、GoogleやFacebookといったデジタルビジネス界の大手プレーヤーが、そのデータネットワークと資本の力で、世界のエネルギービジネス領域に夢にも見たことがないような可能性を開きます。」と述べられています。

小規模分散型の電力融通という多くのビジネスアイディアにおいて、カギとなる障害物は高い取引費用です。多くの産業関係者は、「ブロックチェーン」の技術がこの問題に対する革命的ソリューションになりえると信じています。仮想通貨ビットコインにも組み込まれているブロックチェーンのシステムは、中央の媒介者抜きに消費者同士で安く、安全な取引をおこなうことを可能にし、すでに実証プロジェクトで使われています。(詳細は、ブロックチェーン技術のファクトシートを参照)

デジタル化の影響は、大手電力会社だけでなく、小規模な電力会社にも波及しています。例えば、地域電力会社協会(VKU)は、スマートメーターのデータは最初に送電線運用者に送られてしまい、会員電力会社が不利な立場に置かれることを懸念しています。多くの新しいエネルギービジネスモデルは、スマートメーターからの膨大なデータセット(ビッグデータ)の自動分析に依存しており、それはデータの所有権が激しい論争を呼ぶ問題となることを意味します。

エネルギー法律事務所 Becker Büttner Held(BBH)は、デジタル化がビジネスに与える影響について、地域電力会社を対象とする調査をおこないました。10件のうち9件がエネルギー市場の根本的な変化と競争相手の新規参入を期待していると答えました。

しかし、それと同時に、新たなビジネスモデルへの投資準備をおこなっている、もしくはデジタルの提案をおこなっている地域電力会社はごくわずかでした。「エネルギー企業は、デジタル化の課題とそれにともなう行動が必要であることを理解しているものの、エネルギー供給者からエネルギーサービス提供者へと変化するために必要な行動をおこしているのはごく少数にすぎません」と、BBHの調査は結論づけています。

ビジネスコンサルティング企業PWC による電力会社への調査でも同様の結果が出ています。デジタル化の戦略を実行に移していると回答した電力会社はたったの17%でした。経済エネルギー省による調査では、エネルギーと水分野の全企業の約半数が彼らのビジネスにデジタル化はまだ必要ないと回答しています。

しかし、dena は疑問を投げかけているものの、エネルギー産業関係者と政治家は、エネルギー転換のデジタル化を通じてドイツがエネルギー分野の経済成長と競争力を強化し、輸出に成功することに望みをもっています。

ドイツは「先端的市場として、ハードウェアとソフトウェアの双方で(デジタル)エネルギー転換技術の先進的サプライヤーとなることができる」でしょう。

規制機関による追随

dena によれば、デジタルエネルギー転換の潜在的イノベーションを喚起する上で、規制枠組みがカギとなります。

「規制機関は、既存の企業やスタートアップ、社会がこのポテンシャルに気づき、新たなソリューションを通じてそれを利用するように、信頼できる枠組みを構築しなければなりません。」

ベルリンでの専門家イベントで、E.ONの渉外部長ヴェラ・ブレンゼル氏は、デジタル化は将来の政策と規制枠組みの「原則」にならなければならないと述べています。例えば、境界を横断した自由なデータのフローは、顧客に新たなサービスをつくり出す上でもっとも重要であり、デジタル化のポテンシャルに十分なレバレッジを加えます。

bitkomのスパンハイマー氏も、適切なインセンティブを設定する上で、規制が重要であることを強調しています。

「インターネットと電力の市場における無数の市場関係を再定義する詳細な改革がなければ、私たちはあまり前進することができないでしょう。例えば、ヒートポンプやバッテリーのヴァーチャルな群れが提供する柔軟性に価値を与え、そこから取引可能な商品を創り出すことや、近隣での電力取引を可能にすることです。そこでは、多くのパラメーターが調整を必要としています。このプロセスは、すでに大きく揺れ動いています。」

スパンハイマー氏は、スマートメーターの導入を中心に据えているドイツの新しいエネルギー転換のデジタル化に関する法律が「ドイツにおけるスマートグリッド、スマートメーターおよびスマートホームの先駆けとなる」と考えています。そして、これは正しい方向に進む重要なステップとなります。

この法律は、電力の大規模需要家と発電設備からはじまって、段階的にスマートメーターが普及することを規定しています。一般家庭のような小規模ユーザーは、後から追随することになります。

スマートメーターの導入に関して、ドイツはイタリアにも遅れをとっています – 家庭の大半にはアナログのメーターしかなく、電力プロバイダーが請求書を送るために年に1度読み取るだけです。

Stiftung Neue Verantwortung のリーツ氏は、エネルギー転換のデジタル化に関する法律が「発効する以前に時代遅れになっている」ことを指摘し、ブロックチェーン技術のような最新の発展を考慮に入れていないため、「この法律は、エネルギー分野のデジタル化をスマートメーターの普及に留めてしまうかもしれません」と述べています。

バーガー氏は、数ヶ月や数年といった単位で、技術的な発展が容易に立法プロセスを追い抜いてしまうことに同意しています。

「問題はこういうことです:私たちは、どのようにプロセスをスピードアップすることができるのか、そして、すべての技術に対して開かれたプロセスをどのようにデザインすることができるのか? 私たちは、時代遅れな技術や間違った技術の導入による経路依存を避けなければなりません。
誰もがドイツを見ています。地域の先導プロジェクトを実験する自由なスペースがあって、何が起こるか見ることができれば、役に立つだろうと私は思います」

ビジネス財団 2° のディレクターであるサビーネ・ナリンガー氏は、ベルリンでのイベントの際に、企業がすばやく新しい機会をつかみとろうとしている一方で、どの政治家も規制機関も適切な枠組みをつくり出そうと本気で考えていないことを批判しています。

しかし、スパンハイマー氏は、新しい技術に駆け込むことよりも、電力供給の方がはるか重要であると主張します。

「私たちは、最大限の注意を払って取り組まなければならない絶対的に重要なインフラをあつかっているのです。例えば、ドイツは非常に厳格なセキュリティ基準を求めています。多少時間がかかるかもしれませんが、いまや私たちはデジタル化の法律においてきわめて高いレベルのセキュリティをもっているということが全般的に合意されています。」

デジタル化のリスク

エネルギー分野におけるデジタル技術の急速な発展は、データプライバシーとサイバーアタックによる停電への関心を高めています。

ミュンヘン大学の科学者たちは、スマートメーターによって提供されるデジタル化された詳細な電力消費データによって、家庭で流れているテレビ番組を明らかにできることを示しています

ナチス時代とかつての東ドイツでの国家監視の歴史があるため、ドイツではプライバシーは特に敏感な問題です。

アゴラのロペヌス氏は、家庭でのデジタル化の最終的なかたちは未定であることを認めています。「私たちの社会は、家庭のスマートアプライアンスを欲しているのでしょうか? それはどの程度? 人々は外部から自宅への遠隔アクセスを許すでしょうか? 私は、ヒートポンプや電気自動車がフレキシビリティを提供するようになると考えますが、スマート洗濯機が幅広く普及するかどうか、まだよくわかりません。」

供給セキュリティへの影響も定かではありません。ドイツでは停電はごく稀です。dena は「デジタルインフラは、将来のエネルギーシステムの中心的な要素として、ますます決定的な役割を担うようになっています … デジタル統合はドミノ効果のリスクを高めるかもしれません。」

しかし、スパンハイマー氏は、外部の送電ネットワークの助けなしで分散化されたグリッドを再起動することができる可能性があるため、エネルギー転換のデジタル化はサイバーアタックや大規模停電への防御を高めると主張します。

「集中型の系統と比べて、分散型のシステムを大規模にノックアウトすることは、より難しくなるでしょう。」

彼は、電力分野を輸送と統合することにより、新たなセキュリティの課題も突きつけられると述べています。「仮に、私たちが高いセキュリティをもつ分散型グリッドをなんとか設計できたとしても、充電ステーションは新たな脆弱性へと変わってしまうかもしれません。多数の充電ステーションが同時にオフになれば、グリッドを壊滅させてしまいかねません。ITセキュリティは包括的なアプローチを必要とします。」

ロペヌス氏は、電力供給セキュリティに関して、エネルギー転換のデジタル化が「大変革をもたらす」と考えています。

「保護メカニズムがミリ秒単位で作動するため、IT技術は系統容量の活用をより高めます。」

しかし、私たちが系統運用のスイッチルームにいる現実の人間よりもアルゴリズムを信頼することができるのか、専門家や一般の人々の間で疑問が残ります。

「この比較はやや誇張されているかもしれませんが、問題はこうです:あなたはパイロットのいない飛行機に乗りますか?」匿名を希望する専門家が尋ねました。「ここでも問題はよく似ています – コントロールを譲渡するかということなのです。」

* クリーン・エナジー・ワイヤーと同様に、アゴラ・エネルギーヴェンデもメルカルト財団とヨーロピアン・クライメット・ファンドによるプロジェクトの助成を受けています。

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著者:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire特派員

元記事:Clean Energy Wire “Digitalisation of the Energiewende ignites new phase in energy transition” by Sören Amelang, Jul 21, 2017. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳

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