箱に収まる電力会社

ルメナザが可能にする破壊的な電力取引
2019年5月15日

エネルギー転換の進展の中で新たな機会が生まれ、さまざまなスタートアップが新たなビジネスモデルを構築し、産業構造を変革しつつあります。クリーンエナジーワイヤーのスタートアップインタビュー連載第1回「ルメナザ」の翻訳記事をお届けします。


クリーンエナジーワイヤーは、ドイツのエネルギー転換がビジネスに与える影響について取り上げます。世界第4位の経済大国ドイツで進行中の大変動を紹介し、脱炭素に向けてあらゆる産業の破壊をめざすスタートアップたちを取り上げる連載をはじめます。第1回は、ベルリンのソフトウェア企業ルメナザ(Lumenaza)です。

「箱に収まる電力会社(Utility-in-a-box)」と呼ばれるソフトウェアで地域の小規模な電力取引に特化しているルメナザは、進行中の自然エネルギー革命の背後にあるインフラに希少な機会を見出しています。あまり目に触れる機会はないものの、ルメナザは未来の分散型エネルギーの世界を再構築するもっとも卓越したプレイヤーのひとつです。創業者でマネージングディレクターのクリスティアン・フドバ氏は、ルメナザの今後のマイルストーンと課題、自然エネルギーへの補助金の問題についてクリーンエナジーワイヤーに語りました。

企業概要

    • ルメナザの「箱に収まる電力会社(Utility-in-a-box)」と呼ばれるソフトウェアは、地域で生み出された自然エネルギー電力の生産者と消費者をつなぎ、その地域でグリーンかつ透明性のある電力供給を構築できるようにします。そのシステムは、モジュール化され、高度に自動化されており、コンピューター上でエネルギーサービスプロバイダーのすべての機能(自然エネルギー発電量のモニタリング、需給調整、請求手配)を扱うことが可能となっています。
    • ルメナザは、E.ONやEnBWといった電力会社、プロジェクト開発事業者、エネルギー協同組合や新たなエネルギープレイヤーと多くのプロジェクトを実施しています。
    • 小規模な自然エネルギー生産者かつ消費者(いわゆるプロシューマー)に5桁の番号が割り当てられ、ルメナザのプラットフォームで使われています — より詳細な数値については非公開。しかし、創業者でマネージングディレクターのクリスティアン・フドバ氏は、今年にはユーザー数が少なくとも倍になることを期待していると、クリーンエナジーワイヤーに述べています(下記のインタビュー参照)。
    • ルメナザは2013年に設立されています。ベルリンを拠点として、スタッフは35人に成長しています。
    • ルメナザの既存の投資家である EnBW New Ventures に E.ON が参加し、ベルリンの投資銀行 IBB が2018年8月の投資ラウンドで250億ユーロをまとめています。

なぜルメナザが重要なのか

    • ルメナザはドイツの電力分野を揺るがしている3つのメガトレンド(脱炭素、デジタル化、分散化)を完全に取り入れています。
    • 大手電力会社は、分散型自然エネルギーへの移行によって収益性が下がった大規模な化石燃料発電所による従来型の発電事業を補足もしくは置き換えるための新しいビジネスモデルを奪い合っています。ルメナザの例は、こうした大変動がスタートアップに対して急速に進化する市場への参入機会を提供していることを示すとともに、厳しく規制された環境で彼らがどのように成長することができるのかを示しています。
    • ドイツでは、すでに170万件の住宅に太陽光発電が導入されています。これらの急速な増加は、余剰電力を住宅用蓄電池に充電することで補足されています。こうした動きが、グリーンな電力のための地域デジタル市場形成というトレンドの引き金となっています。Sonnenのような卓越した先駆的スタートアップを追って、大手電力会社は時流に飛び乗り、いまや顧客に地元産のグリーン電力を提供しています。ルメナザは、表に出ることは少ないものの、こうした多くの革新的なビジネスアイディアを実行するために必要なソフトウェアを企業クライアントに提供しています。

ルメナザへのインタビュー

クリーンエナジーワイヤーは、ルメナザ創業者でマネージングディレクターのクリスティアン・フドバ氏にインタビューをおこないました。

—— クリーンエナジーワイヤー:ルメナザの観点から、現在の世界のエネルギー転換においてもっとも重要なトレンドは何でしょうか?

クリスティアン・フドバ:エネルギー転換は、システムを構成する要素、つまり太陽光発電、風力発電、蓄電池などが継続して安くなっていくという事実のもと、進んでいます。世界中でエネルギー転換が急速に進んでいるのも、これが理由です。風力発電と太陽光発電は、補助金が必要ない価格レベルまで急速に近づいている、もしくは、すでにそのレベルを超えて安くなっています。私が知るかぎり、補助金の時代は終わりました。

現在、私たちが直面している問いは、分散型のエネルギー資源を効率的に管理するための枠組み条件をどのように微調整するか、また、そういった資源を最大限活用するにはどのように運用すべきなのか、ということです。そして、率直に言って、私たちはプロセス統合とコスト低下のスピードをますます速める強力な政策支援を評価します。

もうひとつのトレンドは、私たちのような企業がデジタルモデルを開発し、応用することで分散型エネルギー資源が新しいビジネスモデルの基盤となることです。いったん一定数の発電事業者を集めると、デジタルマネジメントが唯一の選択肢になります。そして、私たちの観点からすると、デジタル化は徹底的な分散化と表裏一体で進みます。さらに、eモビリティのような新しいトレンドが、まったく新しいダイナミズムを加えることになります。

—— そういった変化を推進するための適切な政策枠組みとはどういったものなのでしょうか?これに関するドイツの方向性について、きわめて懐疑的であると伺っていますが。

ドイツは、自然エネルギーを支援する賢明なインセンティブを導入したことで、かつてはフロントランナーとなりました。私たちが見るところ、最近は、そういったインセンティブの欠落によって必要なイノベーションが阻まれており、他の国に追い抜かれようとしています。例えば、住宅用蓄電池をより魅力的にする最近の新しい規制は、ドイツによって推進されたわけではなく、EUから来たものです。こういったことから、私はドイツを先駆者として描くイメージ対して批判的です。

関連するあらゆるものの価格が低下しているため、支援政策がなくても人々は突き進みます。そのため、私は全般的に楽観視しています。しかし、全体がしっかりと機能するシステムをつくる上では、政治家たちが協調する必要があります。私たちは、脱原発に数十億ユーロを費やし、現在、脱石炭にも数十億ユーロを費やそうとしています — これらのお金のすべてが過去の技術の影響を和らげるために使われており、しかも進展を遅らせようとする人たちのポケットに収まろうとしています。例えば、そういったお金をデジタル化のサミットに使ったらどうでしょうか?いくつかのバリューチェーンをデジタル化することに10億ユーロを使えば、はるかに効率的なシステムを生み出すことができるでしょう。

ドイツで私をイライラさせつつあるもうひとつのトピックが、電気モビリティです。業界が言うところの数十億ユーロに相当する系統への投資は、まったくもって意味がありません。なぜならほとんどの自動車は一日に2時間程度しか稼働しないので、電気モビリティによって増える総電力消費量は10%未満に過ぎないのです。もしこれをインテリジェントな方法で管理するならば、既存の系統で簡単に対処することができるでしょう。多くの人たちが仕事から帰った後で同じ時間帯に電気自動車を系統につないで充電するとしても、彼らがすべて同じ時間に充電する必要はないのです。

—— 話をルメナザのビジネスに戻して、あなたは電力会社を競合と見ていますか、それとも潜在的な顧客と見ていますか?

電力会社に関して、彼らは競合というよりは、潜在的な顧客です。私たちは、E.ON や EnBW とプロジェクトを実施しています。私たちは、E.ON が自身に再投資し、よりグリーンになり、顧客に付加価値を提供する支援をしています。かつて、電力会社も自社開発する代わりに SAP などからソフトウェアシステムを購入していました。現在、根本的に変化しているのは、自然エネルギー電力生産の徹底的な分散化です — 電力は1〜2件の中央発電所や電力取引所のみから来るのではなく、ドイツで言えば170万件の太陽光発電所から来るのです。

ここでシステムを高度に自動化することに関して、規模と効率の問題が発生します。そこでは、年単位でメーターを計測して顧客に請求する電力販売のシステムとはまったく異なるプロセスが必要とされます。今日、メーターは少なくとも15分単位で計測する必要があります。そして、現実に柔軟性を活用して取引を誘発するのであれば、1分単位まで掘り下げる必要があります。データのボリュームで言えば、50万倍に増加することになり、電力取引の背景をもった企業でなければ使うことができない決定的なITのノウハウが必要となります。

—— 例えば、蓄電池の所有者が自家生産した自然エネルギー電力を共有できる可能性を提供する Sonnen Community のような他社のアプローチとルメナザの違いについて説明いただけますでしょうか?

私たちは、そういったビジネスモデルを他の人たちが実施することを可能にします。そういう意味では、Sonnen は顧客でもあります。私たちは、Sonnen Community のようなサービスを提供する上で必要となるソフトウェアを Sonnen に提供します。例えば、EnBW は私たちのソフトウェアをもとに Solar+community を立ち上げました。このようなサービスを提供する企業はすべてを自社でおこなうわけではありません。私たちは、世界最大と言われている蓄電池製造者とも協業しています。

—— ルメナザの次のマイルストーンは何でしょうか?

2つのマイルストーンがあります。ひとつは、私たちのソフトウェアを利用する顧客数を大幅に増やし、ビジネスモデルの基礎をかためるということです。もうひとつは、英国とスペインの2ヶ国の市場に注力することです。私たちは、すでに英国でいくつかの小規模プロジェクトに取り組んでいますが、それらは準備段階のものといえます。私たちは、この2ヶ国のいずれかで大規模かつ重要なプロジェクトを実施したいと考えています — まだ議論の最中ですが。それでも、ドイツが私たちの重点であることは変わりません。

規制は国によって大きく異なるため、電力市場も国によって大きく異なり、そこではソフトウェアを大幅に調整する必要があり、従って私たちのようなエネルギープラットフォームにとっては比較的高い障壁が生じます。そのため、私たちは明確なターゲットをもった上で、パートナーと協業しています。しかしながら、私たちはソフトウェアの共通枠組みと地域統合・調整を切り分け、複数の国にまたがって運営する顧客に魅力的な提案をつくりたいと考えています。

私たちにとって、英国は非常に興味深く、今年の4月1日で自然エネルギーの新規導入に対する価格支援は終了します。ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のもとで検討されている新しい Smart Export Guarantee(SEG)義務によれば、例えば、屋根上太陽光発電について、売電されていた電力を市場に引き込むことができるチャンスがもたらされるかもしれません。ここで、私たちは、いわゆるマイクロ電力販売契約(PPA)を管理するチャンスを得ることができるかもしれません。多くの自然エネルギー設備の固定価格買取制度の期限が終了することになる2年後のドイツにとって、非常に重要な経験を英国で得ることができると考えられるため、英国を非常に興味深く見ています。

また、英国はドイツよりもはるかに柔軟な系統料金の構造があるため、非常に興味深く見ています。これにより、電力の使い方に大きな違いが生じます。例えば、すでにフル充電している蓄電池があれば、電力の価値が高いときに魅力的な価格で提供することができ、その反対もまた然りです。英国ではこういったことを最終顧客の経済的便益に翻訳することができますが、ドイツではいまのところ柔軟性に役割が与えられていないため、活用することが非常に難しくなっています。電力をどれだけ遠くに送るか、いつ使うかといったことに差がないのです。そのため、系統運用者には、系統拡張や新規インフラ建設の代わりに、インテリジェントな仕組みを取り入れるインセンティブがないのです。

——2021年からドイツの再生可能エネルギー導入支援の支払いが終了しますが、これはルメナザにとってどういった意味をもちますか?

私は、どのようなマーケティングモデルが現れるのか、非常に関心があります。私たちは、すでに考えられる多数のパートナーたちと議論をおこなっています。電力を地域で売買することに強い需要があるため、私たちのモデルが発展することを期待しています。

—— ルメナザの成長見通しを妨げる最大の障壁は何でしょうか?

住宅の電力価格は、卸売電力価格に相当する10%を除いて、完全に料金と税金で動いています。総コストも下げる効果をもつインテリジェンスをシステムに取り入れるには、この巨大なコストのかたまりをもっと柔軟にしなければなりません。一般的に言えば、電力価格に時間と地域の要素を加えなければなりません。それは規制機関の立場からは簡単ではなく、また、必ず勝者と敗者が生まれますが、これは私たちが割る必要があるナッツなのです。まず、系統料金が出発点となります。系統の負荷緩和という報酬も生じるはずです。こうしたことを可能にする適切な前提条件を整えることが政策の課題です。英国やオーストラリアといった国々の市場を見ることで、貴重なアイディアを得ることができるでしょう。

—— ブロックチェーンについてはどうお考えですか?誇大広告に過ぎないのか、それとも将来のエネルギー転換の主な柱となるのでしょうか?

いまのところ、私たちはブロックチェーンを隔離したプロジェクトにのみ使っています。大変興味深い技術なのですが、低いコストと高い透明性を実現するため、どこで使うのがもっとも効率的なのか探っている状況です。ブロックチェーンが決定的となるかどうかを述べることは難しいのですが、私は50/50ぐらいと見ています。

—— エネルギー転換のスタートアップにとって、取り組みやすい環境とはどういったものでしょうか?ドイツはどういったことを提供すべきでしょうか?

一般的に、非常に強固に規制されているため、エネルギーはスタートアップにとって特段取り組みやすい分野ではありません。そういった規制は、ニッチを探し当て、成長させることを難しくしています。しかし、国際的に比較すれば、ドイツはまあまあ良い条件がそろっていると言えます。エネルギーのスタートアップの数はあまり多くありませんが、きわめて上手くやっている企業もあります。エネルギー転換は、現実にモノゴトを揺さぶりつつあり、多くの新しい機会を生み出しています。エネルギー転換の初期段階では、多くのスタートアップが太陽光モジュールといったハードウェアに集中していましたが、それらはもはや存在しません。スタートアップは、デジタル技術を中心に取り込んだ新しいモデルへと移行しています。

インタビュー:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire 記者

元記事:Clean Energy Wire “Utility in a box” – Start-up Lumenaza enables disruptive power trading” by Sören Amelang, Mar 20, 2019. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳

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Clean Energy Wire (CLEW) は、独立非営利無党派でドイツのエネルギー転換に関する良質なジャーナリズムを提供する情報サービス。編集長スヴェン・イーゲンターを筆頭に、さまざまなジャーナリスト/専門家の論考、ファクトシート、ライブラリーなどを提供しています。

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