より民主的なエネルギーの世界へ向けて

2018年7月19日

ドイツで急速に拡大するヴァーチャルパワープラント。その中でもNext Kraftwerkeは欧州でおよそ5,000件の独立した自然エネルギー発電所を集約し、電力を販売しています。雑誌「The Beam」第5号に掲載されたNext Kraftwerke 創業者CEOヨッヘン・シュヴィル氏へのインタビュー記事をお届けまします。

Next Kraftwerke 創業者CEO ヨッヘン・シュヴィルとの対話

−− Next Kraftwerkeのアイディアはどこから生まれたのでしょうか?

共同創業者のヘンドリック・ゼーミッシュと私が博士論文に取り組んでいたとき、電力システムの中で変動する自然エネルギーの割合が増えていったら、それは将来どのようにバランスをとるのだろうか、と私たちは不思議に思っていました。このときから私たちは柔軟性について考えはじめ、どのように変動する自然エネルギーの流入をすばやくバランスさせることができるのかに取り組むことになったのです。

−− あなたはなぜ持続可能なエネルギーにかかわるようになったのでしょうか?

最初に、私たちは自然エネルギーを柔軟性の提供者であると明確に考えていませんでした。私たちは緊急電源をつなぐことでヴァーチャルパワープラント(VPP)をはじめたぐらいですから。しかし、私たちが問題により深く立ち入っていくうちに、ビジネスの観点からだけでなく、自然エネルギーに未来があるということがだんだん明確になっていきました。

市民として、私たちは持続可能なソリューションを考える責任を負っています。だから、私たちは自然エネルギー発電所をヴァーチャルパワープラントにつなぐことを考え、その結果、それらは卓越した柔軟性の提供者であることがわかったのです。これは自然エネルギーに競争力があることを示すと同時に、自然エネルギーが生み出すインバランスを平準化することができるということも示しています。

−− 民主化されたエネルギーの世界をどのように定義していますか?また、それに対してNext Kraftwerkeはどのように貢献していますか?

最終的には、参加が重要な問題なのだと思います。そのため、私たちにとって、民主化されたエネルギーの世界では、もっともっと多くのプレーヤーが参加できるということを意味します。この発展はすでにはじまっています。最近では、劇的にコストが低下したことから、発電所をつくって電力を生産することは巨大なエネルギー企業の特権ではなくなりました。例えばヒンクリーポイントでおこなわれていますが、数十億ユーロを新規の発電所に注ぎ込む必要はないのです。私たちのミッションは、以前は参入できなかった市場により小さな発電事業者が参加できるように機会を提供することにあります。また、私たちは柔軟性を提供することで、自然エネルギー電力の拡大を推し進めます。

−− ヴァーチャルパワープラントについて、まったく聞いたことがない人にそのコンセプトをどう説明しますか?

私たちは、中小規模の発電事業者と電力需要家をデジタルでつなぐことで、それらのパフォーマンスを集合化します。そして、私たちは電力市場に電力を販売し、系統を安定化させるために電力をエネルギーシステムに供給します。誤解のないように言うと、私たちはひとつの発電所も所有していません。それでも私たちのテクノロジーは、発電所オーナーの同意のもと、まるで現実の発電所のように出力を上げ下げできます。大局的に見ると、私たちは全体で3,400MWの設備容量を集合化しています。これは巨大な火力発電所2基分の大きさに相当します。ただし、私たちはほぼ自然エネルギー100%です。

では、もう少し柔軟性の問題について深堀してみましょう。私たちの設備容量のうち、およそ1,000MWは柔軟性があり、私たちはこの柔軟性をエネルギーシステムに提供することができます – まるで巨大な蓄電池のように動かすことができます。それは、私たちのテクノロジーを通じて非常にすばやく電力を送ることができるということを意味します。例えば、風力や太陽光の電力が不足する場合だったり、暴風雨が強風をもたらして電力をつくり過ぎてしまうような場合、システムは救援を必要とします。

私たちは、柔軟性をもつ設備をつないでいるので、システムを救援することができます。例えば、すべてのコジェネ設備には柔軟性があり、地域のスーパーマーケットのバックアップ設備ですら柔軟性があり、たいていの流れ込み式水力発電所にも柔軟性があります。また、多くの電力消費者も、いつ電力を消費するかについて柔軟に対応できるのであれば、システムに対して柔軟性を提供します。

これらのすべてにおいて、柔軟性はあくまでも副産物です。それらの設備は市場に柔軟性を提供するためにつくられたわけではありません。それらの設備は、電力、熱、もしくは他のなにかだとしても、本来、柔軟性とは別の目的のために使われています。そして、ここにNext Kraftwerkeの出番があります。私たちは顧客と共に柔軟性のポテンシャルを利用するのですが、それは、たいてい私たちの顧客は系統のような大規模なシステムに柔軟性を提供するにはあまりにも小さいからです。柔軟性が必要なときに生産もしくは消費をシフトすることは、経済的に意味があり、システムの効率性をさらに高めます。

−− 2050年の欧州で自然エネルギーを使って電力需要に対応するということにどの程度楽観的ですか?

私たちは、うまく解決できるだろうと楽観的です。太陽光発電と風力発電は、すでにもっとも安価なエネルギーとなっています。2050年に他の選択肢を考える必要があるでしょうか?私たちは、市場シェアを広げることにも取り組みます。蓄電池は、いまだにコストが高いので、多くの場合、蓄電はまだ手ごろな選択肢であるとはいえません。私たちは柔軟性を提供し、電力をシフトすることで系統を安定化させることに集中します。このようにして、私たちは自然エネルギーが広がっていくことを支援し、グリーンな未来のエネルギーに貢献したいと考えています。

−− あなたのビジネスの独自性は何だと思いますか?

新しい発電所をつくることは安くありません。蓄電設備をつくるには、数百万ユーロがかかります。ドイツの電力会社STEAGは、90MWに相当する6基の蓄電システムに1億ユーロを投資しています。対照的に、私たちは柔軟な電力を非常にコスト効率的に提供することができます。私たちは数百メガワットの柔軟性を1,000万ユーロ以下で集めることができます。

−− Next Kraftwerkeを立ち上げるにあたって、もっとも大きな最初のハードルは何でしたか?また、それをどうやって乗り越えましたか?

最初は法律が巨大なハードルでした。私たちがはじめた当時は、ヴァーチャルパワープラントがやっていいこと、やってはいけないことが法律で規制されていませんでした。幸運にも、ドイツでは2012年の再生可能エネルギー法(EEG)が、私たちの望ましい方向に変わったため、はじめて自然エネルギーが市場に参加して柔軟性を提供することが許可されました。これは、私たちが他の国への拡大を考える際に、必ず法律が重要な要因となる所以です。

−− あなたの成功は何に起因すると考えますか?

私たちのチームです!EEGが2012年に変わったとき、私たちは一夜にしてエネルギートレーダーになりました。私たちはエネルギートレードのやり方を編み出し、いまや短期取引の専門家になりました。それができるのは、私たちが変化を恐れなかったからです。もっといえば、私たちはそれが好きなのです。私たちは、さらなる電力やデータのフローを構築し、顧客にとってベストな解決策につながるアイディアを生み出すことに絶えず取り組んでいます。それが持続可能なビジネスであり、100%グリーンな未来のエネルギーだと考えています。

−− この先の10年間で、テクノロジーの進化が私たちのエネルギービジネスの進め方にどのように影響を与えると考えていますか?

10年前には、コントロールリザーブのためのオープンマーケットすら存在しませんでした。なので、私は今後10年で何が起こるのかを予測することに非常に慎重です。しかし、何が起こったとしても、私たちはそれに適応するでしょう。

−− もし、あなたがNext Kraftwerkeを立ち上げる最初の時点にいるとしたら、何を知っておきたかったですか?

難しい質問ですね!エネルギートレーダーの観点からは、もちろん私は将来の市場価格を知っておきたいですね(笑)。一般的に言えば、潜在的な顧客や他のビジネスパートナーへのアプローチのカギを知っておきたかったですね。このアイディアは正しいぞ、と強い信念をもって。ためらっていてはビジネス戦略になりません。同時に、成功の根拠が何もないまま、アイディアに立ち向かうのは本当に大変です。なので、私は、いま私たちがやっていること – 約5,000件のネットワーク設備によるヴァーチャルパワープラント − は、うまくいくから大丈夫だ、と伝えたいですね。

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インタビュー:アン・ソフィー・ガリゴウ(Anne-Sophie Garrigou, @GarrigouAnneSo)The Beam 編集長

元記事:The Beam “Towards a more democratised world – A discussion with Jochen Schwill, CEO and founder of Next Kraftwerke” ISEPによる翻訳

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The Beamは、ドイツ・ベルリンを拠点として、エネルギー転換とゼロ炭素経済に向けた動向を取り上げる年3回発行のスタートアップ雑誌。編集長アン・ソフィー・ガリゴウを筆頭に、エネルギーデジタル化の最前線から開発途上国のオフグリッド電化まで、視覚的にも鮮やかに伝える。

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