世界の国々が低炭素経済への移行を進めるなかで、追いつめられたドイツ電力会社の運命から多くの教訓を得ることができます。国のエネルギー転換によって中核を揺さぶられ、電力会社は新しいビジネスモデルに奔走します。
デジタル技術が電力市場を破壊する一方、既存勢力は、輸送や熱の電化を保留することがエネルギー転換の次の段階に新しい成長機会を提供するだろうと期待しています。しかし、敏捷な新規プレーヤーとのイノベーション競争において、既存勢力の独占は重荷を背負わせることになります。
オルタナティブはない
ぼろぼろになってしまったドイツの電力会社には、国内市場での波乱に満ちた大変動を前にして、自らを再定義する以外の選択肢はありません。
巨大電力会社 RWE の前CEOで、現在は同社からスピンオフした自然エネルギー企業 innogy を指揮するペーター・テリウム氏は、巨大な発電所から生み出されるキロワットアワーを売るという長期的なビジネスモデルは「過去のものとなった」と述べます。
原子力と化石燃料から自然エネルギーへの移行によってドイツに混乱がもたらされることから、電力産業全体が新たな衝撃波に備えなければならないと、彼は警鐘を鳴らします。
テリウム氏は、2017年はじめに若いエネルギー起業家たちに向けて「これは根源的な変化であり、3つのD − 脱炭素(Decarbonisation)・分散化(Decentralisation)・デジタル化(Digitalisation)− の3つのメガトレンドです」と述べています。
加えて、約40,000人の従業員を抱える彼の会社は、新しいエネルギーの世界で急速に侵食してくる新たな競合他社を見送るスタートアップのように振る舞わなければならないと述べています:「私たちは、他の誰かがやるよりも前に私たち自身をよりよく破壊しなければなりません」
そのように急速に成長し、ドイツの巨大エネルギー企業を破壊することに夢中になっている企業のひとつが Sonnen です。同社は、家庭向けの蓄電池を販売し、仮想電力ネットワーク上でユーザーをつないでいます。
「私たちの目的は、シェアリングエコノミーにもとづく未来の電力会社を築くことです。次のことをきわめて明確にしています:10年以内に E.ON よりも大きくなり、ドイツの電力市場で支配的なプレイヤーのひとつになりたいと考えています」と、Sonnen のマネージング・ディレクター、フィリップ・シュレーダー氏はクリーン・エナジー・ワイヤーに述べています。
現在、Sonnen の売上は E.ON のおよそ1,000分の1以下です。しかし、シュレーダー氏によれば、潮目は変わっているそうです。
「伝統的な電力会社は時代遅れになっています。彼らは、かつてのビジネスモデルで再び利益をあげることはできないことをわかっているので、できるかぎり早期にそこから抜け出そうとしています。」
かつて「The Big Four」と呼ばれていた RWE、E.ON と彼らの競争相手である EnBW と Vattenfall は、業界の変化の早さと、スタートアップやITの巨人たちのようなまったく新しいタイプの競争相手に動揺しています。
「電化社会(the all-electric society)」「スマートグリッド(smart grids)」「蓄電池革命(the storage revolution)」「ブロックチェーン技術(blockchain technology)」といったバズワードに魅了され、電力会社たちは急速に侵食されているビジネス領域をやぶれかぶれで革新しようとしています。
この新しいエネルギーゲームで、かつての勝者が賭けに出るかどうかについて、意見は分かれます。専門家のなかには、電力会社たちは大きすぎて動きが鈍く、自身を再定義するには柔軟性に欠けると考える者もいれば、電力会社の大きさと迫力が新しいルールのもとでも有効であり続けると考える者もいます。
少なくとも、電力会社たちの苦闘はこれから起こるであろう戦いの予兆であることから、注意深く見ていくことが必要であるという点については広範な合意があります。
「ドイツの電力会社たちの行く末は、他の国々に多くの教訓を提供します ― 巨大な教訓です」と、自然エネルギーに関するアドバイザリーと資産管理を行う Alexa Capital の創設者でエネルギー専門家のゲルハルト・ライド氏はクリーン・エナジー・ワイヤーに述べます。
ライド氏は、パリ協定のもとで気候変動の緩和にコミットしている多くの国でも、同様の大変革がエネルギー産業を揺り動かすことになるだろうと考えています。「他の国々はまだこのような変化を経験していませんが、もちろん経験することになるでしょう。もし私が電力会社の重役であれば、私はドイツで起こっていることを非常に注意深く観察し、そこから学ぼうとするでしょう。」
劇的な崩壊
「4大電力会社(Big Four)」は、国内市場で自然エネルギーへの転換にあまりにも躊躇し過ぎていました。代わりにその機会をつかんだのは、太陽光発電を屋根に導入したり、協同組合で風力発電を導入してきた数百万人の市民でした。
また、電力会社たちは、自然エネルギーが彼らのコアビジネスに及ぼす深刻な影響を理解するには鈍すぎました。電力卸売価格は急落し、電力会社の収益と市場シェアは侵食され、数十億ユーロをかけた彼らの発電所の価値は減りました。
さらに追い討ちをかけるように、エネルギーの巨人たちは原子力発電所の廃炉に莫大な費用を負わなければならなくなりました。(ファクトシート Securing utility payments for the nuclear clean-up 参照)
直滑降のスピードを緩めるため、電力会社は数万人の人員削減をおこないました。市場のリーダーである E.ON は、2009年の80億ユーロという記録的収益から、2016年には160億ユーロという記録的損失へと陥りました。
「エネルギー転換の内側では、電力会社ほど酷く経済打撃を受ける分野はありません」と、RWE の再生可能エネルギー部門の前マネージャーであるクリスティアン・シュトゥーム氏は述べます。
E.ON と RWE は、最終的に危機を真剣に受け止め、2016年に自社を2つに分割しました。RWE は自然エネルギー事業を innogy にスピンオフし、従来型の発電設備を保持しました。E.ON は、反対の道をたどり、自ら自然エネルギー電力会社となり、化石燃料事業を新会社の Uniper へと分割しました。(詳細はファクトシートRWE’s plans for new renewable subsidiaryと E.ON shareholders ratify energy giant’s splitを参照)
「どうやって新規の石炭発電所を推進しながら太陽光を議論できるというのでしょうか? それをひとつの会社でしっかりとできるでしょうか?」E.ON の前最高財務責任者で、現在 Uniper の CEO を務めるクラウス・シェーファー氏はフォーチューンマガジンに述べています。「私たちは、それはできないと考えました。」
今日、株価は投資家の信じる未来の方向を明確に反映しています。innogy の市場価値はおよそ200億ユーロと、国内最大のエネルギー企業になっています。RWE は、その半分以下です。innogy 株の過半数を割り引いたとしても、多くの石炭火力発電所を含む RWE の自社事業はネガティブな価値になっています。(概要はファクトシート Germany’s largest utilities at a glanceを参照)
脱炭素化、分散化、デジタル化
電力会社が過去にこのような大惨事を経験しているにもかかわらず、脱炭素化・分散化・デジタル化のトリプルチャレンジが進行するため、ほとんどの専門家はエネルギー分野の変革ははじまったばかりであると考えています。
政府が掲げるCO2排出削減目標が、企業へのプレッシャーをますます強めています。自然エネルギーの割合が堅実に増加し続けている一方で、2030年までの目標は国内の石炭火力発電所の半数を閉鎖しなければならないことを示唆しています。
ドイツが2050年までに気候中立的になるという野心を達成しようとするならば、化石燃料は今後20年かけて段階的に廃止されなければなりません。(詳細はファクトシート When will Germany finally ditch coal?を参照)
British bank Barclays の電力アナリストであるマーク・ルイス氏は、脱炭素経済に向けたドイツの取り組みには、依然として産業全体に対する巨大な不確実性があると述べます。なぜなら、化石燃料による火力発電の未来は、電力市場全体の形態のなかでのバランスに依存するからです。
「ドイツはいまや2030年に向けて明確なエネルギー産業の目標をもっています」と、ルイス氏はクリーン・エナジー・ワイヤーに述べます。「私たちがまだ手にしていないものは、それらの目標を達成するのに必要な政策手段なのです。それがドイツの電力産業にとっての最優先事項であり、すべてがどこへ向かって進むのかにかかわります。」
英国のNGO sandbag.org がまとめた表によると、欧州でもっとも汚染度が高い5つの石炭火力発電所の内、3つを RWE が保有していることから、石炭火力発電所の未来の不確実性は、特に RWE に暗い影を落とします。
化石燃料による火力発電から安定した収益の流れを得るため、RWE と競合の Uniper は、CO2集約的な発電所には不安定な風力や太陽光を補完する重要な役割があり、それゆえに供給安全保障の対価が支払われるべきであるとの議論を展開しました – 専門家が言うところ容量市場です。これまでのところ、政府はこうした要望には抵抗しています。
2030年には電力消費に占める自然エネルギー割合が少なくとも50%に届き、2040年には65%、今世紀半ばには少なくとも80%をめざすことが、ドイツの公式な目標となっています。しぶとく高い排出量を維持する輸送燃料や熱分野の排出を抑えるため、自然エネルギー電力はますますこれらの分野で使われていかなければなりません – そのプロセスはセクターカップリングと呼ばれています。
分散型で、小規模な自然エネルギー導入への注目が高まることから、電力会社が伝統的に専門としてきた集中型の発電所による支配から大幅にエネルギーシステムが変化することが示唆されます。
「エネルギー転換の核心となる技術群 − 風力、太陽光、貯蔵、eモビリティ、ヒートポンプ – のすべてが分散型の構造を示唆することから、分散化は電力市場の恒久的な特性となるでしょう」と、エネルギーシンクタンクのアゴラ・エネルギーヴェンデのアナリストは述べます。
ますます複雑になっていく発電所と消費のネットワークをコーディネートするため、デジタル化は分散化と密接に連携して進んでいくでしょう。
電力需給をバランスさせるため、複雑なITシステムはますますエネルギー転換の次の段階で中心的な位置を占めるようになります。しかし、これは電力会社が得意とするところのキロワットアワーを売電するモデルをひっくり返し、まったく新しいビジネスモデルへの道を切り開くことから、デジタル技術の影響は需給調整をはるかに超えることになるでしょう。
電力会社の業界団体である BDEW は、エネルギーの世界のデジタル化はエネルギー転換を「これまでで最大の国家ITプロジェクト」にするだろうと述べています。
「まさしく脅威的な影響により、デジタル化は伝統的な電力会社の破滅につながる次の大きなステップとなるかもしれません」と、「発電所をもたない発電所運用者」Next Kraftwerke の代表、ヘンドリック・ゼーミッシュ氏は述べています。彼の会社は、数千件の小規模発電所と消費者から成るネットワークを構築しており、それはヴァーチャル・パワー・プラント(VPP)と呼ばれています。
ゼーミッシュ氏は、「未来のエネルギー供給は、現在、消費者が携帯電話のプランを選んでいるのと同じようなかたちで、電力の特徴で契約を選ぶようなプラットフォームになるでしょう。つまり、その日の時間によっては定額制であったり、変動制だったりする、といった特徴が含まれます」と述べています。
多くの専門家たちも、伝統的な電力会社を完全に不要にすることも可能となる家庭間でのまったく新しい電力取引モデルに期待しています。そういったシステムは、デジタル通貨のビットコインも支えているブロックチェーン技術を使って運用されるでしょう – それは安全で安価な処理と電子取引の記録保持を可能とします。
Boston Consulting Group のグラフによれば、今日、エネルギー分野はデジタル化の影響をもっとも受けていない産業のひとつであり、それはまだまだ先は長いということを示唆しています。
Barclaysのアナリスト、ルイス氏は、新しい技術は「今日私たちが想像することができないようなすべての可能性を生み出すでしょう」と述べます。
「ビッグデータ、スマートグリッド、スマートメーター – これらは、人々が自宅でのエネルギー消費に関してより良い情報を得て、よりコントロールをもつようになるということです。これらは消費者に消費電力量と価格を自らコントロールする強大な力を与えるため、私はこれらのいずれも電力会社にとってはポジティブなものであるとは思えません。」とルイス氏は述べます。
innogy の CEO、テリウム氏も innogy がそれらのトレンドに備えていると述べます:「人々はコントロールをもちたい、自給したい、自らのエネルギーを使ったり、貯蔵したり、経済的であれば系統に売電したり、寒く曇った日には系統から買電したりしたいのです。」
Alexa Capital のライド氏は、これらの展開は電力会社にとってトラブルが増える前兆であると考えています。「私たちは現時点でメガトレンドが何なのかをわかっています。そして、それらのスピードが緩まることはありません。これは人々が考えるよりもはるかに素早く起こるでしょう。」
「電力会社の伝統的なビジネスはすべてプレッシャーに曝されるでしょう – 競争圧力とマージンへの圧力の双方で。送電にはじまり、配電に続き、発電へ、そして、小売のビジネスも。バリューチェーンの全体が今後何年にもわたってプレッシャーに曝されるでしょう。」
エネルギーブロックチェーンを専門とするGrid Singularity の共同創業者、アーウィン・スモール氏は、enorm magazineに電力会社は素早く行動しなければならないと述べています。「彼らが傍観したまま単なる銅線の運用者に成り果てるのか、未来に彼らが果たすことができる役割をいま決めるのか、そのどちらかなのです。」
外部からの脅威
エネルギーの世界の大変動がスタートアップ企業やその他の産業の企業が電力会社の本拠地に参入するまたとない機会を生み出すため、電力会社が支配的な立場を守ることは簡単ではありません。
電力会社の内部関係者は、その危機を十分感知していると述べます。新規参入者が既存の産業を解体するという点をわかりやすく説明するため、innogy CEO のテリウム氏は、音楽における Napster、テレビにおける Netflix、書店における Amazon、ホテルチェーンにおける AirBnB、タクシーにおける Uber をあげます。
「私が直面している問いはこれです:誰がエネルギー分野のUberになるのでしょうか?」と問います。
シュツットガルトを拠点とする電力会社、EnBW のイノベーション部長、ウリ・ヒューナー氏も、伝統的な競合他社よりも新規参入者の方がますます重大な危機を会社にもたらすと述べています。
「主要な脅威は私たちの市場スペースからやってくるわけではありません。それは外部からやってくるのです。Google かもしれないし、Amazon かもしれないし、スタートアップなのかもしれません。彼らは自らが得意とするニッチを見つけ出し、急速に成長します。」
Sonnen のマネージングディレクターを務めるシュレーダー氏は、大手電力会社がより俊敏な競合他社からの攻勢に十分耐えられるほど早く動くことについて、大いに懐疑的であると述べています。競合他社のひとつである Sonnen は、2017年中期で300名の従業員を抱え、2016年には70%売上を伸ばし、420億ユーロに達しています。
「電力会社はやるべきことを理解していますが、彼らがそれを実行するのは難しい時代なのです。なぜなら、この市場では大規模プレーヤーが小規模プレーヤーを滅ぼすのではなく、素早いプレーヤーが動きの遅いプレーヤーを滅ぼすからです。Google、Amazon、Apple、もしくはドイツテレコムですら、エネルギーの未来をつくりだす上で従来の電力会社よりも適しています。」
Sonnenは、Tesla の Powerwall と同様に蓄電池を家庭に販売していますが、太陽光のある顧客とない顧客をコミュニティでつなぎ、お互いに電力を取引できるようにし、全体の電力需要をカバーできるようにしています。Sonnen の告知は、既存の電力会社との戦争の幕開けを宣言しています:「エネルギー供給を自らの手に取り戻す … これにより、私たちの世界は化石燃料と匿名のエネルギー企業から解放されるでしょう。」
「私たちの顧客は、分散型で自らの発電所を設置しています。これは、私たちのグリッドがもっとも安い電力や貯蔵設備、柔軟性や負荷管理にアクセスできることを意味します。このプールは簡単に数百万件の家庭へと拡大することができます。」とシュレーダー氏は述べます。
しかし、Sonnen のような小さなスタートアップだけでなく、Next Kraftwerke や Grid Singularity なども新しいエネルギーの世界に目を向けています。この分野は、まったく異なる産業の巨人たちの活動領域になっています。
例えば、自動車メーカーの BMW は熱供給システム製造の大手 Viessmann と組んで Digital Energy Solutions をつくりました。Digital Energy Solutions は、柔軟性の原則にもとづいて電力、eモビリティ、熱を統合し、中小企業のエネルギーシステムを最適化することを目的としています。
web.de や gmx メールサービスをブランドにもつインターネット通信企業 United Internet は、最近、電力販売契約を開始し、産業に驚きをもたらしました。
「私たちは、エネルギーだけでなく、他の産業も巻き込んだデジタル化が多大な機会をもたらす世界にいます。私たちはそこに進むことが可能で、既存の勢力から優位な立場を奪うこともできます。」と、ライド氏は述べます。「それは大手にとっては課題となります:彼らはどうのようにこれらの技術を採り入れるのでしょうか、またそれを本当に素早く実行できるのでしょうか?」
ひとつの戦略は、デジタルの巨人とチームアップすることであり、電力会社は新たな協業を絶えずアナウンスしています:2つ例をあげると、太陽エネルギーを拡大するために E.ON はGoogleとのパートナーシップを立ち上げた一方、高速インターネット接続を構築するために innogy はドイツテレコムに合流しました。
奇跡への期待
ライド氏は、今日、大規模な電力会社であっても自然エネルギーに対する視野は限定的であると考えています。「市場は成長していないが多くの競争が存在する、なぜなら誰もがいまその市場を欲しているからです。これは、後からやってきた者たちがポジションを手に入れることを非常に難しくしているのです。」
一例として、洋上風力発電は、本質的に大規模投資家たちが目印をつけたままの産業です。しかし、洋上風力発電についてのドイツの第1回競争入札では、たった2社の落札でした: EnBW とデンマークの電力会社 Dong は、いずれも価格支援なしで風車を建設することを提案しました。ドイツの他の自然エネルギートップ2社である E.ON と innogy、そして、Vattenfall はこの機会を逃しました。
輸送と熱の電化を保留することは、電力会社の伝統的なビジネスへの期待を提供するのかもしれません。
「もし電気自動車が本当に進展しないのであれば、それは電力会社にとって大きな安心材料であると私は考えます。電気自動車は、長期的な需要成長の最初の新しい重要な要因となるでしょう。」と、Barclays のアナリスト、ルイス氏は述べます。
eモビリティの成長には、充電ステーションという新しい電力インフラの建設も含まれており、電力会社たちはその機会をつかもうとしていいます。innogy はeモビリティインフラに非常に積極的で、E.ON は欧州全域で超急速充電ステーションのネットワークを構築するため、デンマークの起業 CLEVER と最近提携しました。
しかし、電力会社たちは、収入を得るためのまったく新しい方法を考え出さなければならないことをも理解しています。
「私たちは、従来のビジネスモデルの損失を埋めるため、この先10〜15年にわたって新しいビジネスを開発する必要があります。」と、EnBW のイノベーター、ヒューナー氏は説明します。
彼は、電力会社がコアビジネスとしてきた発電所の建設と運用が約30年の投資サイクルにもとづいていた一方で、まったく新しい戦略的アプローチを模索しなければならないことを認めています。
新しいビジネスモデルを創り出すことは、リスクに対する新しいアプローチも含まれます。「スタートアップの10件に9件は失敗します。成功する1件は、他の9件のコストをカバーする必要があります。」と、ヒューナー氏は述べます。
ヒューナー氏は、EnBW の成功したスタートアップの例として、インテリジェント街灯と充電ステーションプロバイダーのSmight と、分散型エネルギーマネジメントシステムの Energy Base をあげます。
EnBW は、コネクテッドホーム、スマートシティ、サステナブルモビリティ、ヴァーチャルパワープラントなどのイノベーション領域での新たなビジネスから2025年までに1億ユーロの利益を生み出したいと考えています。
「今日のエネルギー分野の状況は、80年代のコンピューターとまったく同じです。これを理解しなければなりません。」と、ヒューナー氏は述べます。
イノベーションの文化
電力会社が革新的な成功を収める道のりにおいてもっとも大きな障害は、企業の内側にあります – つまり、企業文化と構造を変容させるということです。
「私たちは、未来のビジネスモデルへの旅に2万人の人々を連れていかなければなりません」と、ヒューナー氏は述べます。「だれもが何をやらなければならないのか知っています。問題は常にその実行にあります。」
innogy のテリウム氏は「ドイツ企業の歴史上もっとも大きな文化的変革の取り組み」に着手した際に同じ問題を述べています。
電力会社たちは、新しいアイディアを育てるため、すべて別々の主体で立ち上げます。そのため、イノベーションは、イノベーションハブと呼ばれる既存の企業ルーチンの外側で発展します。
ヒューナー氏によれば、大企業は既存ビジネスのリスクを低く見積もるため、たいていの新しいビジネスアイディアは大企業には実行するのが難しくなります:「なぜビジネスを共食いさせるようなことをするのでしょうか? これは手ごわい問題です。」
Sonnen のシュレーダー氏は、電力会社にとって企業文化を変えることは困難なプロセスになるだろうと述べています。
「電力会社は経営を変えるために多くの資金を投資しなければなりません。従業員を活性化させるプロセスでは資源と強みが流出するでしょう。トップマネジメントですら力量に欠けることがあり、力量がなければリスクをとることはできません。」
ドイツの多くの自治体電力会社も非効率な経営に苦闘しています。それらの経営陣はたいてい地元の政治家で占められており、彼らはこの業界について話すことができる知識をほとんど持ち合わせていません(詳細はファクトシートSmall, but powerful – Germany’s municipal utilitiesを参照)。
大規模な電力会社は、長年にわたって蓄積してきた無駄や使い残しといった「独占のぜい肉」の分厚いレイヤーの重荷を負っていると、業界内部の関係者は述べます:過剰な報酬を得て生産性が低い従業員、高価なITシステム、その他諸々。
インハウスのイノベーションを補完し、バイパスするため、ドイツの電力会社たちは、近年、ベンチャーキャピタル活動へ踏み込み、自然エネルギービジネスを買収しています。エネルギー市場分析とアドバイザーを行う企業 GTM Research によるグラフは、RWE と E.ON が欧州と北米で上位5位の投資家であることを示しています。
絶滅危惧種?
大規模な電力会社が新しいエネルギーの世界でもトップに留まるチャンスをつかむことができるかどうかについての専門家の意見は、いまだに分かれています。
ドイツ・エネルギー機関(dena)のアンドレアス・クールマン氏は、電力会社が消えてなくなることを議論するのは、あまりにも早すぎると述べます。
「私は、ビッグプレーヤーたちが自ら認識したトレンドに全力で取り組むポテンシャルと強みがあると考えています。彼らは重荷を背負っていかなければなりませんが、私は彼らが転換を乗り越えていくだろうと考えています。それは、多くのスタートアップとは対照的に、電力会社たちは必要な経験と規模をもっているからです。私たちはエネルギー転換の次の段階で、新旧のビッグプレーヤーを必要とするでしょう。」と、クールマン氏はクリーン・エナジー・ワイヤーに述べています。
スタートアップに対して電力会社がもっているひとつの競争優位は、数百万人の顧客です。しかし、シュレーダー氏は、それが電力会社の長期的な生存を保障するという議論に異を唱えます。「電力会社の顧客ベースは、一見した価値よりもはるかに小さくなるからです。」
「電力会社は顧客の保持に多大な問題を抱えています。もし電力会社が顧客により良い価格で新しい契約を提示しても、その際に人々は他のプロバイダーを見て回ることになるので、既存顧客の一部を失うことになります。」
「同様に、例えば E.ON が顧客に次のように尋ねたとします:「貯蔵システムをお探しでしょうか?」すると、人々はこのように答えます:「それは興味深いですね、インターネットで他に良いものがないか、ちょっと調べてみます」」と、シュレーダー氏は述べます。
ライド氏も、多くの電力会社の顧客たちは喜んで電力会社に別れを告げるという点で同意します。
「大規模で国際的な企業たちは、ブランドに悪い評判があるため問題を抱えています。多くの人々が、大規模なエネルギー企業に略奪されていると感じているのです。」
「例えば、シュタットベルケ・ミュンヒェンのように、人々はそれがコミュニティにとって重要であり、社会的責任を負っていると考えているため、自治体電力会社については異なります。」シュレーダー氏は、ほとんどの大電力会社は暗い未来に直面することを確信しています。
「大電力会社はしばらく戦うだけの資金は十分あり、私は彼らのいずれかが転換を乗り越える可能性を除外したくありません。しかし、私は彼らのすべてが乗りえるとは到底思えません。大電力会社のうち、よくて1つか2つが生き残るでしょう。」
ライド氏も同様の懐疑を抱いています。彼は、業界が合併の時代に直面すると考えています:「10年後には大電力会社はひとつぐらいしか残っていないだろうと思います。彼らは分割され、他の人たちに売られてしまうでしょう。市場はまったく異なっていて、そこでは多くの新しいプレーヤーが活躍しているでしょう。」
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著者:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire特派員
元記事:Clean Energy Wire “Battered utilities take on start-ups in innovation race” by Sören Amelang, May 16, 2017. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳