日本の自然エネルギー(再生可能エネルギー)をめぐる状況が混乱している。電力各社は昨秋、突然、自然エネの接続協議を中断すると発表。年末に国の審議会(系統ワーキンググループ)で、「導入(接続)可能量」を出してきたが、基本的に原発事故前の考えや制度に基づく自然エネに冷たい数値だった。
ドイツを拠点とする自然エネのコンサルタント会社のCEOで、欧米の電力系統問題に詳しいトマス・アッカーマン博士が昨秋、来日したのを機に、どうすれば日本の自然エネがもっと増えるのかを聞いた。
――電力会社が自然エネルギーの接続協議を中断するなど、日本では自然エネルギーをめぐって混乱しています。この状況をどう考えればいいでしょう。
トマス・アッカーマン博士:いくつかの面があります。私はここ10年以上、日本の自然エネの発展を見ています。印象的なのは、風力発電の累積導入量が2.6ギガワット(260万キロワット)なのに対して、太陽光発電が新たに12ギガワット(1200万キロワット)も導入されたということです。福島第一原発事故の前には予想できませんでした。とても驚きましたが、前向きなできごとです。
いくつかの電力会社が自然エネの接続を中断している状況は知っていますが、なぜ彼らがそうしているのかは、はっきりとは分かりません。7万件ぐらいの接続申請があって、多すぎて扱えないと言っていると聞きました。同じようなことはドイツやほかの国でもありました。電力会社は「すべてを処理するには時間が必要だ」と言っていました。でも、それは事務的な問題であって、技術的な問題ではありません。日本の電力会社も「7万件の接続申請を処理するほど社員はいません。もう少し時間をください」とはっきり言うべきなのです。
多くの申請が来た時に、誰が接続できて、誰が接続できないか、誰が最初に接続できるかというガイドラインが必要です。欧州各国も、同じような経験をしています。急に洪水のように多くの申請が来た時に、だれをいつ接続するかという基本的なルールをつくるということです。
突然、毎日1000件の接続申請くるのですから、やり方を変えなければなりませんが、事務的な問題です。電力会社は「あまりに多くの申請が来たので、どう扱うかのルールを決めるのに、時間がかかります。いまは接続を中断しますが、すべてつなぎます」とはっきり言わなければなりません。
私が聞いた接続中断の理由は「系統安定化の問題」ということでした。電力会社が「系統安定化」と言う時には、いつも技術的な大きな問題だと印象づけようとします。一般の人には、難しすぎて理解できないからです。多くの人は、「系統安定化の問題」と聞くと、すぐに停電を意味すると考えます。ですが、電力会社は、何が技術的な問題なのか、明白な検証を示す必要があります。私が見た資料では、技術的な問題ではありませんでした。
電力会社はこう言うべきです。「我々はこれから研究し、何が本当に問題なのかを突き止めます。解決策には費用がかかるでしょう。私たちは、だれがそれを負担するかについても議論しなければなりません。そうすれば、さらに多くのことができます」
しかし日本では、議論の過程がまったく見えません。彼らはただこう言うだけです。「安定化の問題がある。私たちは何もできないので、接続を中止するしかない」
何が本当の問題なのか、何の説明もない。技術的な問題の99%は、解決することができる。日本で聞く議論のほとんどは、経済的な問題です。電力会社が期待している最大の経済的な問題は、原発の再稼働です。自然エネは原発と競合する。自然エネが増えれば、原発の運転が減る。これは原発の運転コストが上がることを意味します。これは技術的な問題ではなく、経済的な問題です。「自然エネが増えれば、原発のコストが上がる」と、はっきり言うべきです。
――日本では、技術的な問題と経済的な問題がごっちゃになっているということですか。
アッカーマン博士:10年ほど前には、欧州各国でも同じ議論がされていました。系統安定化の問題を持ち出すと、ごく少数の人々しか分からず、意見を言えないからです。「系統安定化の問題とは思わない」と言う専門家に対し、電力会社は「あなたは我々の電力システムを知らないのだから、この件について意見を言う資格がない」と言いました。「我々の系統はトップシークレットだ。いかなるデータも提供することができない」と。
電力会社が作った「壁」について、私たちが「問題だ」と言うのは難しい。電力会社は「どれだけ接続できるか、を決めるのは私たちだ。電力系統のことを知らないほかの人が言うことを聞く必要はない」と言うのです。
日本の再エネのシェアは、多くの国際的な経験から見て、いまもわずかです。多くの人は「日本は島国なので、欧州と比べることはできない」と言います。例えばアイルランドも島国ですが、電力に占める再エネの割合は日本よりはるかに多い。
――原発が止まっている間に、多くの自然エネが入ると原発が必要なくなるので、電力会社は自然エネの導入に時間をかけようとしているようにも見えます。
アッカーマン博士:日本は、原発なしの電力システムを開発すべきです。日本は実際に、原発なしで電力の安定供給を成し遂げた。なぜ、これだけの苦痛を与えた原発に回帰しようとするのか分からない。しばしば、こんな質問を受けて驚く。「日本は、原発に多くの投資をしてきたのに、なぜ原発を止めなければならないのか」。だが、福島事故のコストがどんなに高くついたのか、考えるべきです。事故は往々にして起きるものです。
原発を考えずに、自然エネによって新しい電力システムを構築するという可能性があるのに、なぜ挑戦しようとしないのですか。福島事故前には、だれも原発なしでやれるという可能性を考えなかった。だが、この3年間で、でうまくやれることを証明した。欧州の多くの人も、すごいことをやったと言っています。私には、いまが自然エネと新たな電力システムを統合するのに大きなチャンスだと思えます。
自然エネのこれ以上の接続を望まない人たちは、原発が再稼働した時に、もはやベースロード電源として運転できないことを恐れているのでしょう。これは技術的な問題ではなく、経済的な問題です。
安全な原発の新設ができるという考えが間違いであることは、福島やチェルノブイリ、スリーマイル島の事故で証明されています。同じ技術者が、自然エネによる電力システムの構築は不可能だと考えている。なぜ、一方で安全な原発をつくることが可能だと考えながら、自然エネによる電力システムを構築できないと考えるのか。どちらも技術的な挑戦なのに、私には理解できません。
技術者は「大事故によるリスクを低減するために、自然エネによる電力システムの構築に挑戦する」と言うべきです。たとえ風力発電のタービンが台風で回りすぎても、福島の事故に比べれば、ダメージははるかに小さいのです。
――日本の電力会社は、自然エネの接続申請が最大需要の100%を超えているということを理由に接続を中断していますが、ドイツでは実際の接続が90%を超えているところも多いですね。
アッカーマン博士:ドイツでは、太陽光発電の上限を52ギガワットに設定しています。でも、それはFITの上限であって、「52ギガワット以上の電気は固定価格で買い取りませんよ」という意味です。接続は52ギガワット以上でも可能です。
――技術的な限界ではないということですね。
アッカーマン博士:ええ、経済的な問題です。現状では36ギガワットになっています。52ギガワットを超えても接続は可能ですが、導入は減るでしょう。しかし電気を系統から買うより安いのであれば、5~6キロワットの太陽光パネルを自宅の屋根に置き、自己消費する人たちは、これからもいるでしょう。
――日本と欧州の電力系統の違いがよく言われますが、欧州ではなぜ、あんなに多くの自然エネを導入できるのですか。
アッカーマン博士:ドイツには四つのTSO(送電系統運用者)があって、相互に電気をやり取りしています。デンマークやスウェーデン、フランス、スペインは、一つのTSOが国全体を見て、他国との電気をやり取りしています。アイルランドや英国もそうです。ドイツの系統連系は、フランス、オーストリア、ポーランド、オランダなどと、極めていい状態にあり、近隣諸国と22ギガワットの電気をやり取りできる利点があります。しかし、連系線をそんなにしょっちゅう使っているわけではありません。
電力会社がエリアごとに分かれている日本の調整力が小さいのは知っています。それぞれの都市のつながりもわずかです。日本全体のもっと大きなエリアで見るべきです。風の強い地域もあれば、そうでない地域もある。地域によって違うのです。風がなければ、ほかの電気をつくればいい。送電会社は、日本全体に一つか、少なくとも50ヘルツ地域と60ヘルツ地域に一つずつにすべきです。その中で調整する。大きな地域での調整が必要なのです。
――現在のように他の地域との調整力を考慮しないで上限を決めてしまうと、2015年春に広域的運用推進機関が発足した後にも、それが継続される恐れはありませんか。
アッカーマン博士:欧州では、発電は自由化されても送電は独占されています。
政府が「すべての自然エネを接続しなければならない」と言った時に、送電線を建設しなければならないとしたら、その費用を託送料に乗せることはできます。しかし、どれだけ接続するかは、送電会社が決めるのではなく、政府によって決められます。
電力会社は、必ずしも社会にとって最善の解決策をとるわけではありません。電力産業から独立した政治家や政府、市民社会が、もっと意見を言うことが必要です。
政治家は、産業界からもっと独立しなければなりません。そして、独立した専門家を見つけなければなりません。本当のことを彼らに言ってくれる大学の研究者やコンサルタントのような人たちです。
もし、電力会社が「系統安定化の問題がある」と言った時に、ほとんどの政治家は「系統安定化の問題があるのであれば、これ以上接続できませんね」と言ってしまいます。ドイツでも10~15年前までは、政治家は、電力会社の言うことをすべて信じていましたが、変わりました。
2014年5月11日、ドイツの電力のうち自然エネの占める割合が76%を記録しました。10年前には、だれもそんなことが可能だとは思いませんでした。「そんな状況になれば、停電する」と、みんな言っていましたが、現実は、停電などにはなりませんでした。政治家や電力会社、自然エネ事業者のそれぞれが、その間に対応策を学んできたからです。
――日本では、送電線を増強しない限り、これ以上の自然エネ導入は難しいのでしょうか。
アッカーマン博士:送電線を増強する前に簡単にできる解決策は、自然エネの出力抑制です。自然エネによる電気の供給が、需要を上回るような状況になるのは、年に数えるほどです。送電線をつくったり、蓄電したりするよりはるかに安くすみます。
電気を捨てることになるので、無駄のように思えますが、水力発電も同じです。雨が降りすぎてダムがいっぱいになれば、エネルギーとして使わなくても、水を流す必要があるでしょう。風力発電も同じです。風が吹きすぎれば、数時間は電気となる風を捨てるわけです。
数時間のために蓄電するというのは、とても高価な解決策ですが、自然エネが増えて捨てる電気が多くなってくれば、いずれは送電線の増強や蓄電という解決策も考える必要があります。しかし、日本は、まだそのような状況とは、かけ離れていると言わざるを得ません。
インタビューを終えて
アッカーマン博士に会ったのは昨秋、電力各社が突然、接続中断を始めた直後だった。彼は、見事にその後の各社の接続可能量の方向を見通していた。「技術的な問題ではなく、経済的な問題」との指摘に、その国が自然エネを増やせるかどうかは、結局、政治的意志と国民の後押しにかかっているのだ、ということを改めて感じた。「10年前は、ドイツの電力会社も同じような対応だった」「いまの日本には、原発を考えずに、自然エネによって新しい電力システムを構築する可能性がある」との言葉には、「まだ、あきらめる訳にはいかない」との意を強くした。
オリジナル掲載:WEBRONZA, 自然エネの接続中断は、経済的な理由だ(2015年1月7日)