ソーラーシップの屋上から見たドイツ、フライブルグ市のヴォーバン地区にあるパッシブハウスと呼ばれる住宅。私の子どもは、子ども時代の4〜5年を写真の真ん中辺りに写っているミント色のアパートで過ごしました。住宅は4部屋あり、4階建てになっています。4部屋あるにも関わらず、この住宅にはバスルームに1つ、寝室に2つと、ドアが合わせて3つしかありません。そのため、屋根裏部屋はキッチンと3階下のリビングとなんの隔てもなくつながっており、3つ目の寝室として使うには問題があります(閉めるドアがありませんからね)。この構造を設計した建築家は、パッシブハウスでは建物全体の空気の流れを確保することが重要と考え、住人がドアを閉めることで空気の流れを妨げられるのを嫌がったのでしょう。しかし、他の建築家が建てた近所のパッシブハウスは、このような住人に不便を強いる設計にはなっておらず、実際そちらのほうがよく売れています。(クレイグ・モリス)

このソーラー団地が消費量の4倍のエネルギーを作りだすことはない

2015年2月24日

フライブルグは「市内」で消費量の4倍のエネルギーを生み出している-この明らかに間違った内容の2011年の記事が、どういうわけか今なおインターネット上で広がっています。

この記事がアクセス数を稼ぎ、より多くの人の目に触れ続けるために書かれたとしたら、上手くやったと言うしかないでしょう。しかし、この記事は不正確な内容を多く含んでいるため、かなり軽率なでっち上げ記事という感じがします。例えば、この記事ではソーラーシップとソーラー団地を明確には区別していません。ソーラーシップは日本語で太陽の船を意味しており、執筆者はこれを「ソーラーシティ」と間違って訳していますが、1つの建物です。また、ソーラー団地とはメインストリートからソーラーシップで隔てられた場所に建つ約50件からなる団地のことを指しています。

私は以前にソーラー団地があるフライブルグ市のヴォーバン地区について詳しい記事を書きました。私はヴォーバン地区の見学ツアーを行っていますし、(間違っているかもしれませんが)確か2006年から年に1度開催されるパッシブハウス会議の予稿集の翻訳も手がけています。執筆者の言う「ソーラーシティ」が、建物1つ(ソーラーシップ)か、ソーラー団地か、はたまたヴォーバン地区を意味しているのかは分かりません。ここでは、執筆者は彼の記事で使われている写真や下の写真にあるソーラー団地について書いていると考えてみます。

ソーラーシップの屋上から見たドイツ、フライブルグ市のヴォーバン地区にあるパッシブハウスと呼ばれる住宅。私の子どもは、子ども時代の4〜5年を写真の真ん中辺りに写っているミント色のアパートで過ごしました。住宅は4部屋あり、4階建てになっています。4部屋あるにも関わらず、この住宅にはバスルームに1つ、寝室に2つと、ドアが合わせて3つしかありません。そのため、屋根裏部屋はキッチンと3階下のリビングとなんの隔てもなくつながっており、3つ目の寝室として使うには問題があります(閉めるドアがありませんからね)。この構造を設計した建築家は、パッシブハウスでは建物全体の空気の流れを確保することが重要と考え、住人がドアを閉めることで空気の流れを妨げられるのを嫌がったのでしょう。しかし、他の建築家が建てた近所のパッシブハウスは、このような住人に不便を強いる設計にはなっておらず、実際そちらのほうがよく売れています。(クレイグ・モリス)
ソーラーシップの屋上から見たドイツ、フライブルグ市のヴォーバン地区にあるパッシブハウスと呼ばれる住宅。私の子どもは、子ども時代の4〜5年を写真の真ん中辺りに写っているミント色のアパートで過ごしました。住宅は4部屋あり、4階建てになっています。4部屋あるにも関わらず、この住宅にはバスルームに1つ、寝室に2つと、ドアが合わせて3つしかありません。そのため、屋根裏部屋はキッチンと3階下のリビングとなんの隔てもなくつながっており、3つ目の寝室として使うには問題があります(閉めるドアがありませんからね)。この構造を設計した建築家は、パッシブハウスでは建物全体の空気の流れを確保することが重要と考え、住人がドアを閉めることで空気の流れを妨げられるのを嫌がったのでしょう。しかし、他の建築家が建てた近所のパッシブハウスは、このような住人に不便を強いる設計にはなっておらず、実際そちらのほうがよく売れています。(クレイグ・モリス)

ここで紹介した家はパッシブハウス工法を用いて建てられています。あまり専門的にならないよう、ここではパッシブハウスとは、建物の断熱性能がとても高く、ドイツであってもセントラルヒーティングシステムが必要ない家としましょう。技術的な目標となるのは、居住スペースの年間暖房エネルギー需要で1平米あたり15kWh程度です。灯油1Lあたりのエネルギーは大体10kWh程度なので、原則的にはパッシブハウスは1平米あたり年間1.5L しか灯油が必要ありません。住宅の大きさは様々ですが、計算を簡単にするため、ここではすべての住宅の居住スペースが100平米として話を進めます。すると、1軒が1年間で使う暖房エネルギーは100 x 15kWh = 1,500kWhとなり、これは灯油150Lにあたります。(注:これでは暖房用灯油ボイラーのサイズが小さすぎて割にあわないため、この手の住宅では灯油による暖房システムを導入していることはありません)

今度は、1家族が暖房以外の用途でどれくらいのエネルギーを消費しているか見てみましょう。単純化のため、ここでは給湯機、キッチンの電気コンロ、その他の機器も全て電化製品ということにしましょう。さらに、1世帯が3人家族とします。下の写真は私の個人の電気代の領収書から抜き出したものです。(1人から4人家族まで)様々な家族サイズの平均的な電力使用量と私のそれを比較できるようになっています。シングル世帯であれば年間1,500kWhは良い結果で、2人家族であれば2,500kWh、3人家族であれば3,500kWhが良い結果となります。ですので、ここでは暖房エネルギー消費が1,500kWh、その他の電力消費が3,500kWhとして考えましょう。注意点として、ここでは家族が移動に使うエネルギー、家族が使う製品の製造時に使われるエネルギーは除外しています。

クレイグ・モリス
クレイグ・モリス

次に、屋根の上のソーラーパネルが5,000kWhの4倍のエネルギーを生み出しているかを計算する必要があります。単純に20,000kWhとしましょう。写真からわかるように、それぞれの住宅は異なる色をしており、各住宅がハッキリ区別できるようになっています。左下近くの青色の住宅で計算してみましょう。大体どの家も24枚(3 x 8枚)のソーラーパネルを屋根上に設置しています。パネル1枚の容量は大体200Wと考えると、1家族分の容量は4.8kW(24 x 200W)になります。ありがたいことにこれ以降の計算も単純にすることができまして、ドイツ国内の4.8kWのソーラー発電設備は平均して1年で約4,800kWhの電力を発電します。フライブルグはドイツでも最も日射量に恵まれており、これに10%上乗せします。

02 Vauban from Craig Morris on Vimeo. / 2013年のヴォーバン地区に関するドキュメンタリーからの抜粋

ですので、暖房と電力に年間5,000kWhのエネルギーを使っている建物の発電量は約5,200kWhになります。これが、これらの住宅がプラスエネルギーハウスと呼ばれる所以です。平均的に見て、この種の住宅は住人が使うとされるエネルギー量よりもわずかに多い量のエネルギーを生み出しています。ただし、「わずかに」です。もし、家に300Wのポンプを半日動かしているような水槽でもあれば、たちまち、消費量が発電量を上回ってしまいます。ほとんどの場合、住人の使うエネルギーの4倍に近いエネルギーを発電するには遠く及びません。たとえ倹約家のシングル世帯が年間600kWhしか電力を使わなかったとしても、暖房エネルギー1,500kWhと合わせればエネルギー消費は2,100kWhになり、ソーラーパネルが発電する電力量の40%程度で、25%にはなりません。

パッシブハウスは何も人目を引く外観をしている必要はありません。これは、高層社会住宅の改修プロジェクトを調査したものです。

ほとんどの場合、この種の全体化した議論はミスリーディングになっています。屋根上のソーラー発電設備は、年間を通じた発電量の最大化を目指して設計されているため、課題は冬季のギャップをいかにして埋めるかにあるからです。夏、特に多くの家族が2週間の休暇に出かけるこの地域の五旬節にあたる6月上旬には、発電量が消費を大幅に上回ります。逆に冬、特に補助暖房まで使うような一時的な需要増の際には、照明やその他の機器の電力需要も大きいでしょうからエネルギーの大幅な不足に陥ります。さらに、この時期はソーラーパネルの発電量が年間を通じて最低になるのです。それでも、これらのソーラーパネルは少なくともその時期相応のエネルギーを生み出します。

このため、パッシブハウス研究所は長年プラスエネルギーというコンセプトに批判的でした。昨年、研究所長の名前で冬のギャップに関する報告を発表しています。また、パッシブハウスをソーラー団地の住宅のようなデザインにする必要がないことを知っておくことも重要です。実のところ、この長屋住宅(同じような住宅が連続的につながった建物)は、通りを挟んだ向かい側のこれまたヴォーバン地区にある多くの他のパッシブハウスほどには売れていません。その理由の1つは、皆がソーラー団地のようなパステルカラーのデザインを好むわけではないということです。通りの向かい側にあるパッシブハウスは普通の家と見た目の区別はありません。元々の計画では、ソーラー団地のパッシブハウスは今の2倍の棟数になる予定でしたが、住宅が売れなかったのです。実際、十分な数の購入者を手早く集めることができなかったため、建設業者はプロジェクトの半分まで完了させることを目指して不動産ファンドを組むことになりました。ヴォーバン地区では通りを挟んだところにある120平米のパッシブハウスは、2000年頃に250,000ユーロ程度で売り出されました。一方、ソーラー団地の同サイズの住宅の価格はソーラーパネル抜きの価格で330,000ユーロです。私は、この詳細を知っていて、この話をあちこちでしているからこそ、この地区の見学ツアーはもうやっていないのです ;-)

(クレイグ・モリス / @PPchef)

元記事:Renewables International, This neighborhood does not make 4x the energy it consumes(2015年2月3日)ISEPによる翻訳

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