アベノミクスでは何十兆円という桁違いの大きなお金が「金融緩和」される一方で、わずかな資金が足りずに倒産に追い込まれる中小企業もある。私たちの暮らしでも切っても切れないお金には2つの種類があるようだ。
「はじめよう、お金の地産地消」木村真樹著/英治出版
一つは、ひたすら利を追い求めて地域社会や環境を破壊しながら一瞬にして世界を駆け巡り、時に投機やバブルを引き起こす巨額で欲望の詰まった「ギラギラしたお金」。もう一つは、人の顔や地域社会との関係性が見える、ゆっくりとした「キラキラしたお金」。本書は、後者のお金の話だ。
民間非営利団体(NPO)は全国におよそ5万あり、ほとんどは融資も得られず資金繰りに苦労している。そうした団体のために著者が東海地方で12年前に立ち上げたNPOバンクはその後、1件の貸し倒れもなく、限界集落の支援や子育て支援、高齢者・障害者福祉、環境保護などに挑戦する人たちを応援してきたという。
その秘密は、1件の融資審査におよそ30人が申請者を取り囲んで質問を重ねながら、その社会事業の過去・現在・未来をバランス良く見るからだという。財務諸表だけで無機質に融資審査する大抵の金融機関とは異なり、人の縁や地域社会とのつながりを通して、出し手と受け手との顔の見えるお金の流れをつくるのだ。これを筆者は「志金」と呼ぶ。
本書は、地域社会に貢献しようと地方銀行に就職した著者が矛盾にぶつかり、悩み模索し挑戦して社会金融家へと成長していく自伝でもある。転機となったキーワードは「当事者」だ。さまざまな社会課題や環境問題などに無関心な傍観者だった人でも、ふとしたきっかけで「当事者意識」を持てば、地域社会の課題解決をリードする社会事業家に成長しうる。
とすれば、この「志金」は単なるお金を超えて、若き社会事業家を拡大再生産しているのかもしれない。
ニッポンの「失われた20年」の足元で、そうした次代の若者が数多く育っていることをうかがわせる一冊だ。
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日刊ゲンダイDigital:明日を拓くエネルギー読本「顔の見える「志金」で地域の課題解決」より転載