私たちの社会や経済がどのように変化し、進化していくのか、そしてどこへ向かっていくのかを「ディスラプションのパターン」で説明する新シリーズの第1弾です。
「ディスラプション」は、現代特有の現象だと思われがちです。しかし、そうではありません。テクノロジーディスラプションは、人類最古の居住地にまでさかのぼる社会的、文明的な大激変の中心で見られます。
RethinkX では、新しいテクノロジー、そしてそれらに付随する新しいアイデア、新しい行動、新しいビジネスモデルが、少なくとも数百年、もしかしたら数万年、数百万年と繰り返されるパターンとして受容され、変化をもたらしてきたことを発見しています。
そして、ディスラプションのパターンは、今後を左右する重要な力学となる可能性が高いと考えられます。つまり、今後10年ほどの間に、もしその力をうまく利用できれば、現在私たちが直面している深刻な環境と社会の問題のいくつかを解決し、途方もない進歩と繁栄の共有がもたらされるかもしれません。あるいは、その力を利用できなければ、長期にわたる停滞と衰退の時代に突入することになるかもしれません。
今日、私たちは、社会のもっとも重要な分野を大きく変える可能性を秘めた、非常に強力なテクノロジーの性能と経済性の両方において、劇的な変化を目の当たりにしています。具体的には、エネルギーの採取・貯蔵・利用、人やモノの移動、食料の入手、使用する素材、コミュニケーションなどの分野です。
太陽光発電・風力発電・蓄電池(Solar, Wind and Battery, SWB)、精密発酵・細胞農業(Precision Fermentation and Cellular Agriculture, PFCA)などの分野では数十年前から重要な変革が進んでおり、さらに通信、データストレージ、デジタル写真、人工知能の驚異的な向上が自律走行電気自動車(Autonomous Electric Vehicle, A-EV)に変革を促しています。そして、これらの革命はすべて、別々のサイロで起きているのではなく、同時に、一緒に、お互いを可能にする方法で起きているのです。
これらのディスラプションはどこにつながっていくのでしょうか? どれくらいの時間がかかるのでしょうか? そして、社会や経済の本質や構造にとって、どのような意味を持つのでしょうか? これらの質問に答えることは、水晶玉を眺めているようなものだと思われるかもしれません。しかし、私たちがこれまでにも何度も何度も破壊的な状況を経験してきたことを考えると、水晶玉は必要ありません。私たちは、ディスラプションのパターンを理解する必要があるのです。
交通・農業・素材・エネルギー・通信の未来を理解するには、いったん過去を振り返る必要があります。2021年、COP26の前夜、RethinkXのアダム・ドーア博士が以下のような説明をしています。
1万年前の祖先が想像もつかないような生活を送っている私たちにとって、彼らのもっとも切実な問題は些細なことです。そして、私たちと彼らの唯一の違いは、私たちがより良いツールをもっているということです… ディスラプションは直感的ではありません。それは私たちに忍び寄る傾向があり、突然、私たちの予想よりもずっとずっと速く展開するのです。たった10〜20年の間に、あらゆる種類のテクノロジーについて、私たちは歴史の中で同じ「ディスラプションのパターン」を何度も何度も目にしているのです。ディスラプションは単に古い技術を新しい技術に置き換えるだけではありません。電気は鯨油が安くなっただけではありません。自動車は馬を速くしただけではありません。農業は、狩猟や採集がより実り多いものになっただけではありません。これらの優れた道具は、エネルギー・輸送・食糧、そして文明をまとめて変えてしまったのです。
過去の経済や社会を詳細に研究することで、根本的に同じディスラプションのパターンが繰り返し発生してきたという、実に驚くべき現象を見ることができます。何度も何度も、新しい技術が開発され、つくればつくるほど性能が向上し、コストが下がる。これは、100年前にT型フォードで起こったことであり、最近ではリチウムイオン電池が再び、運輸業界に革命を起こしています。
では、このパターンはどのように機能するのでしょうか? コストが下がり、性能が向上するにつれて、新しい技術は、社会の重要なニーズや需要を満たすために、より良く、より安価になります。新技術は「離陸点」に到達し、その後急速に旧技術を駆逐していきます。この過程で、新技術はS字型に成長し、旧技術はS字型に衰退し、互いに重なり合ってX字のようなグラフを形成します。宝物を見つけるのと同じように、ここでは X がディスラプション(破壊)を意味します。
例えば、1930年代から40年代にかけて、アメリカでは「イエローデント」というハイブリッドトウモロコシが主流になり、2000年代初頭には遺伝子組み換え(GMO)トウモロコシが非遺伝子組み換え系統に取って代わるというパターンが見られました。
しかし、肝心なのは、新しい技術が単に古い技術に取って代わるものではない、ということです。新しい技術は市場全体を拡大させます。この場合、アメリカでは前世紀よりもはるかに多くのトウモロコシを栽培するようになり、1980年代には、わずか数年の間に、安価な高果糖コーンシロップがコカ・コーラやペプシに使われるサトウキビ糖を駆逐したほどです。安価なトウモロコシ由来のエタノールは、アメリカの自動車燃料では比較的まれなものから比較的一般的なものになり、これもS字型のプロファイルで、2000年代初頭から約15年の間に変化しました。
常にではありませんが、多くの場合、ディスラプションはわずか15年かそれ以下というきわめて短い期間で展開します。
前世紀の3つの事例を紹介しましょう。1938年に登場したナイロンは、1945年までに絹にほぼ完全に取って代わりました(絹自体、今世紀前半のわずか10年ほどの間に蚕の品種改良がおこなわれていました)。合成ゴムは、やはり戦争の影響で、1941年には0%だったものが、1944年には80%以上になっています。1950年にアメリカの家庭で10%以下だったテレビは、わずか8年後には80%以上の家庭で見られるようになりました。
素材や農業の分野では、1870年代に人工の赤い布の染料が天然の染料を駆逐し、1890年代に人工の藍染が天然の藍に取って代わったように、植物由来のものが合成品に取って代わられることが繰り返されてきました。
同様に、過去数十年の間に、アメリカ市場では、安価な合成オピオイド(フェンタニルなど)がヘロインを駆逐したり、安価な合成メタンフェタミン(フェニル2-プロパノン由来)がプソイドエフェドリンを駆逐しています。
このようなディスラプションは、しばしば「予想より早く」展開されます。その理由のひとつは、新しい技術がより良く、より安くなるだけでなく、その裏表で古い技術がより悪く、より高価になるからです。
特に資本集約的な産業では、顧客が古い技術から新しい技術に移行すると、メーカーは古い製品の開発を中止します。また、旧技術の保守・メンテナンスが困難になると、縮小していくユーザー層が旧産業の経営を支えざるを得なくなり、規模の経済性が損なわれていきます。
ボールペンから避妊薬まで、ワクチンからビデオテープまで、飛行機から写真まで、まったく異なる業界のさまざまな製品で、こうした力学が働いているのです。
1950年代後半から1960年代にかけてアメリカの核弾頭の規模が飛躍的に拡大し、フランスでは1970年代から80年代にかけて原子力発電が電力供給の主流となるなど、軍事技術と民生技術の両面でディスラプションが起きていました。
しかし、ディスラプションのパターンは現代生活に限ったことではないことが分かっています。数万年前にも、ホモ・サピエンスがネアンデルタール人に取って代わったときに、Xカーブが見られたからです。これは単なる類推ではありません。韓国・釜山大学のアクセル・ティマーマン博士は Quaternary Science Review に掲載された最近のコンピューターシミュレーション研究で、もし私たちがネアンデルタール人よりも数倍食料を奪い合う能力に優れていれば、中央ヨーロッパのホモサピエンスの集団が、観測した実証データと一致したかたちでネアンデルタール人の集団に取って代わる(そして上回る)ことを発見したのです。
ディスラプションのパターンを研究することから得られるもっとも深い教訓のひとつは、ディスラプションがテクノロジーに関するものだけであることは、ほとんどない、ということです。ここで取り上げたディスラプションはすべて、意図したものであれ、そうでないものであれ、非常に大きな社会的意味をもっていました。
この新シリーズでは、ディスラプションのパターンそのものと、そのパターンによってもたらされる、とてつもなく大きな、しかしあまり認識されていない、次のような帰結の両方に光を当てます。
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- 多くの新技術が、強力な自己強化型フィードバックループによって、コストを劇的に安くし、機能を向上させ、その結果、既存のシステムを劣化させ、市場の仕組みを短期間で変革させる
- 10倍優れたテクノロジーとビジネスモデルが、多くの社会的・文化的文脈の中でいかにして私たちの生活を大きく変えてきたか、また、近い将来、これらのダイナミクスを理解する人々の財政と幸福に多大な影響を与えながら、それらをさらに変えていくことになるか
- 社会的、地政学的、生態学的にもっとも重大な変化のいくつかは、テクノロジーによるディスラプションから、しばしば意図せず、予想外の方法で生じてきた
今まさに展開されているテクノロジー主導のディスラプションは、将来、社会的、地政学的、生態学的に巨大で予測不可能な影響を与え続けるものの、ディスラプションのパターンを真に理解しはじめたとき、私たちはそれを予測する最善の場所に立つことができるのです。
テクノロジーディスラプションは、歴史の原動力であるにもかかわらず、いまだ十分に理解されていません。ディスラプションのパターンを理解することで、人間存在を定義する核となる力学のいくつかに光を当てることができます。私たちは、種としてどこから来たのかをよりよく理解し、どこに向かっているのか、そして、そこに至る過程でどのような選択肢があるのかをよりよく認識することができるようになるはずです。
このシリーズでは、RethinkXで日々おこなっている「Rethink Everything(あらゆるモノゴトの再考)」への参加を呼びかけます。
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著者:ブラッド・リビー(Bradd Libby)RethinkX リサーチフェロー
元記事:RethinkDisruption “The Pattern of Disruption” February 10, 2022. RethinkX の許可のもと、ISEPによる翻訳