核融合は、無限の、安全で、気候変動に優しいエネルギーを提供できる —— 理論上は。ドイツ、アメリカ、中国、日本、イギリス、そして欧州連合(EU)などの国々は、このテクノロジーの開発に数十億ユーロを投資しています。
しかし、一部の推進派が言うように、このテクノロジーは気候中立性を達成するための有効な戦略なのでしょうか? それとも、懐疑論者が主張するように、他の排出削減方法から目をそらす有害なものなのでしょうか?
このQ&Aでは、核融合をめぐるもっとも重要な疑問について、科学的コンセンサスに厳密にもとづいて、取り上げていきます。
注:このQ&Aでは、これらの文章が科学的コンセンサスを可能な限り正確に表していることを読者に理解してもらうために、学術的フォーマットで出典を表示しています。詳しくはセクション11を参照。
本稿は、Clean Energy Wireのフロンティア気候技術に関する新しいパッケージの一部です。さらなるQ&A、ファクトシート、インタビューはこちらからご参照下さい。核融合のスタートアップ企業へのインタビューはこちらから。
1. 核融合とは何か?
核融合とは、軽い原子核が融合してより重い原子核を生成し、その過程でエネルギーを生成するプロセスです。原理的には、このプロセスは太陽で起きていることであり、太陽も原子核の融合によって光と熱というエネルギーを生み出しています。このプロセスを地球上で再現するには、2種類の水素原子(重水素と三重水素)の核融合がもっとも有望と考えられています。これらの軽い原子核は核融合の際に質量を失い、それがエネルギーとして放出されます。
核融合は、プラズマと呼ばれる非常に高温の混合粒子を生成します。この熱を利用して水を蒸気に変え、従来の蒸気タービンや発電機を動かして電気や熱を生み出すことが目的です。核融合のプロセスを作動させるには、通常の条件下で原子をバラバラに保つ原子の反発を克服するために、摂氏約1億5000万度の温度と非常に高い圧力が必要です。
核融合にはさまざまな種類があります。いわゆる磁力核融融合(magnetic fusion)では、強力な磁石を使って核融合に必要な条件をつくり出し、その結果生じるプラズマを所定の位置に保持しますが、慣性核融合(inertial fusion)やレーザー核融合(laser fusion)では、同じ目的でレーザー光線のアレイを使用します。いずれのアプローチも研究の初期段階にあり、工業的・商業的規模での利用はまだ不可能です。
核融合の中心的な課題は、核融合の引き金に必要なエネルギー以上のエネルギーを発生させることです。これはまだ達成されていません。2022年12月、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)のチームが、初めて(狭義の)エネルギー収支がプラスになったことを報告し、実験を繰り返したところ、2023年にさらに良い結果が得られました。ここではレーザー核融合が追求され、核融合反応は非常に小さな核融合室内でレーザーによって発生する圧力波によって引き起こされます。通常は、重水素と三重水素の混合物である燃料で満たされた小さな容器、いわゆるペレットの中で、摂氏1億2000万度以上の温度を発生させます。
しかし、レーザーパルスの発生に使われるエネルギーも全体のエネルギーバランスに考慮されなければならないという事実を、多くのメディア報道や一般的な議論は無視してきました。これを考慮すると、この核融合反応には、生成されたエネルギーよりもはるかに多くのエネルギーが使用されなければならなかったことになります(核融合炉の技術的ハードルについてはセクション6を参照)。

2. 核融合は核分裂や従来の原子力発電とどう違うのか?
核融合(nuclear fusion)と核分裂(nuclear fission)は異なるタイプの核エネルギーです。どちらも原子核内の結合エネルギーを利用しますが、その方法はまったく異なります。核融合は、重水素や三重水素のような軽い原子核を融合してヘリウムを形成します。一方、従来の核分裂では、ウランやプルトニウムに含まれるような重い原子核が分裂します。この2つのテクノロジーにはかなりの違いがあります。
利用可能性
最初の核融合炉は、最初の原子力発電所と並んで1950年代にすでに検討されていました。しかし、当時実際に電力を供給できたのは核分裂だけでした。核融合を利用するためのハードルは、現在もそうであるように、当時も高すぎたのです(セクション6参照)。核融合炉に比べ、従来の原子力発電所は成熟したテクノロジーです。核融合を実現可能なエネルギーテクノロジーにするには、総額数十億ユーロの研究開発投資が必要です。
廃棄物
重要な違いは廃棄物の流れにあります。従来の原子力発電所における核分裂は、半減期が非常に長い放射性廃棄物を生成します(Reid et al. 2021)これには環境リスクと安全リスクがともない、廃棄物の最終保管に関する議論は多くの場合、物議を醸すことになります。一方、核融合ではヘリウムガスが生成されますが、これは放射性物質ではありません。しかし、核融合炉のチャンバー材料には放射性物質が生成され、材料にもよりますが、その半減期は少なくとも100年かかります。これらも安全に処分しなければなりませんが、これは通常の原子力発電所の使用済み燃料棒を扱うよりはるかに簡単です(Zinkle/Snead 2014)。
セキュリティ
核融合における最大の課題のひとつは、そもそも核融合が起こるために必要な特定の条件を達成することです。核融合炉で事故が起これば、これらの条件はもはや存在しなくなり、プロセス全体が停止してしまいます。一方、通常の原子力発電所の原子炉では、1986年のチェルノブイリや2011年の福島のように、事故がメルトダウンにつながり、大規模で長期にわたる環境汚染につながる可能性があります。これは、核分裂が自立的にプロセスを動かすためであり、綿密な制御が必要だからです。問題が発生した場合、連鎖反応は制御不能となり、壊滅的な損害を引き起こす可能性があります。核分裂発電所のプロセスは、核爆弾のプロセスと非常によく似ていますが、ゆっくりと制御されています。
軍備管理
原子力発電所は、核兵器を間接的に製造するために利用される可能性があります。というのも、発電の過程で副産物としてプルトニウムが生成され、それを再処理・濃縮することで、核分裂に必要な特定の原子の濃度が高まり、兵器に適したかたちになるからです。一方、核融合炉は通常の運転ではウランもプルトニウムも生成しません。また、核融合に使われる放射性トリチウムは、核分裂性物質がなければ核爆弾の製造には使えません。核融合炉を使って核兵器を製造する方法は、理論的には他にも考えられますが、比較的容易に監視することができます。このテーマに関するある研究からは「核融合システムが適切な保障措置に対応するように設計されていれば、核融合システムによる核拡散リスクは、核分裂システムによる同等のリスクよりもはるかに低くなり得る」という明確な結論が得られています(Glaser/Goldston 2012)。
原材料
最後に、従来の原子力発電所と核融合炉では、運転に必要な原材料がかなり異なります。核融合炉には重水素とトリチウムが必要になりますが、その量は比較的少量です。重水素は天然に十分な量が存在しますが、トリチウムはリチウムと中性子を反応させてつくらなければなりません。これは、核融合が起こるときに発生する中性子を用いて、間接的におこなうことができます。しかし、再生可能エネルギーや電気自動車のバッテリーにも非常に大量のリチウムが必要であり、その供給量に限りがあることが、核融合の実現可能性にとって問題であると言われています(Junne et al.2020)。しかし原理的には、核融合における燃料問題は比較的容易に解決できると考えられています。一方、原子力発電所は(濃縮)ウランやプルトニウムを必要としますが、これらは核融合に利用可能な材料に比べ、希少で高価、一部は非常に有毒で製造が複雑です。
3. 核融合の利点は?
核融合そのものは、カーボンニュートラルなエネルギー源です(現在、原子炉の建設や反応に使用するエネルギーの生成時に温室効果ガスが排出されるとしても)。さらに、核融合は純粋に物質的な観点から見ても、非常に効率的なエネルギー源です。マックス・プランク・プラズマ物理学研究所によれば、核融合燃料1グラムは理論上、石炭11トンに匹敵するエネルギーを供給できるとされています。
風力発電所や太陽光発電所と比べ、核融合炉は天候に左右されずに大量のエネルギーを生成できるという利点があります(これを「安定した電力(secured power)」または「保証された電力(guaranteed power)」と呼びます。詳細はセクション7を参照)。 また、必要なスペースもはるかに少なくて済みます。核融合炉はまだ存在していないため正確な数値はありませんが、例えば原子力発電所は、発電源にもよりますが、同じ出力の太陽光発電所や風力発電所の平均0.4~4%程度の面積しか必要としません(Smil 2015, Lovering et al. 2022)
4. 核融合の欠点は?
いまのところ、実用化・商業化可能な核融合炉は稼働中も開発中もありません。このため、核融合は現在のエネルギー供給の脱炭素化に貢献できません。IPCCによれば、エネルギー供給の脱炭素化は、少なくとも先進工業国ではごく近い将来、遅くとも今世紀半ばまでには実現しなければならない課題とされています(IPCC 2023, AR6, SYR, SPM.B.6)。風力発電や太陽光発電のような再生可能エネルギーは、すぐに利用可能であり、CO2を大量に排出する石炭やガス発電所を置き換えるのに十分な技術的成熟度があります。対照的に、核融合は、気候変動目標の達成に貢献するには開発が遅すぎます(セクション5も参照)。
IPCCもこの評価を共有しています。核融合は、2022年からの第6次評価報告書(AR6)第3巻の第6章(エネルギー部門における排出量削減のための選択肢と技術に関する分析)には登場しません。核融合は、科学的なエネルギーシステム研究でも一般的に考慮されていませんが、その主な理由は、エネルギーシステムモデリングの入力データとして、コストと効率に関する合理的に信頼できる見積もりが必要だからです。核融合研究は初期段階にあるため、そのような見積もりはまだ利用できません。
核融合発電所がすでに稼動していたとしても、再生可能エネルギーと比べれば明らかに不利です。複雑で高価な核融合炉を運転できるのは、裕福な国か大企業だけです。フランスにある核融合研究炉ITERは、すでに国際社会に亀裂が生じていることを示しています。核融合技術を追求する国々(EU、米国、ロシア、中国、インド、韓国、日本、英国、スイス)は、それ以外の国々よりも優位に立っています(Carayannis et al. 2022)。一方、再生可能エネルギーは核融合炉に比べて「ローテク」です。例えば太陽光発電システムは非常に簡単に設置することができ、気候保護だけでなく、電力網が発達していない低所得国でも、初期の電化や貧困削減に貢献することができます(Bogdanov et al.2021、Ortega-Arriaga et al.2021、Wassie/Adaramola 2021)。
さらに、核融合は長期的には再生可能エネルギーよりも確実に高価になります。ある計算によると、いわゆるトカマク型原子炉(もっとも一般的なタイプの磁場閉じ込め型原子炉)が商業的に競争力を持つようになるのは、早くても2040年です。著者らは、得られる電力のコストを1メガワット時あたり150米ドルとしています(Lindley et al. 2023)。2005年の欧州核融合計画のための研究では、モデルによって異なりますが、50~90ユーロと、より低い数字でした。インフレ調整後の2023年の価格では、約70~125ユーロ(74~133米ドル)に相当します。
それでも、核融合は再生可能エネルギーよりもかなり高価です。フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所(ISE)によると、2024年のドイツにおける陸上風力発電の均等化電気料金は43~92ユーロ、大規模太陽光発電所の均等化電気料金は1メガワット時当たり41~69ユーロでした。しかし、天候に関係なく電力を供給する核融合発電所の価格水準と比較するためには、再生可能エネルギーで生産されたエネルギーを貯蔵するコストも考慮する必要があります。フラウンホーファーの計算によれば、バッテリーシステムを備えた大規模な太陽電池アレイのコストは、2045年にはメガワット時あたり37~76ユーロになるといいます。このような試算が最終的に過度に楽観的であったとしても、再生可能エネルギーがすでに到達し、将来的に到達するであろう低コストは、核融合炉が対抗すべき非常に高いハードルを設定することになります。
5. 商業的に利用可能な最初の核融合炉は、いつごろ登場するのでしょうか?
現在、2種類の核融合技術が開発されています(セクション1参照)。ひとつはプラズマを利用した核融合炉で、高温プラズマ中の水素原子核の運動エネルギーを利用して核融合反応を起こします。トカマク型とステラレータ型と呼ばれる2種類の設計が存在し、研究者の間では現在、どの方式をさらに追求すべきかについて激しい議論が交わされています。現在、政府も民間企業も両方のタイプの核融合炉を開発しています。最初の実用炉の予想時期は、両グループで大きく異なっています。
現在、ヨーロッパ、中国、インド、日本、韓国、ロシア、アメリカによって建設が進められているフランスのITER施設は、2024年、プロジェクトの目標である核融合反応を起こすエネルギーの目標時期を2039年に延期しました。欧州の研究計画によれば、最初の実証炉は、試験目的で欧州の電力網に接続される可能性があり、約20年後の2050年代半ばまでに運転試験が予定されています。エネルギー供給会社の発電所の一部となる核融合炉は、もっと後になると予想されています。
しかし、核融合のスタートアップ企業は、ITERのスケジュールは技術の進歩を示す良い指標にはならないと主張しています。プロジェクトの政治的性質、多くの国家間の複雑な調整、世界各地から納入されるコンポーネントの統合、官僚主義、そしてその巨大さが、ITERを本質的に遅いものにしているといいます。民間企業はこのような制約に縛られることなく、はるかに速く進めることができます。
そのため、民間企業のスケジュールはより野心的です。米国のヘリオス社は、早ければ2028年に発電を開始したいと考えています。同じく米国を拠点とするコモンウェルス・フュージョン社は、2030年代初頭に世界初の系統接続規模の商業用原子炉を建設することを目指しています。ドイツの新興企業プロキシマ・フュージョン社は、2031年に連続運転が可能な原子炉を立ち上げる計画で、「核融合エネルギーの商業的応用への扉を開く」といいます。
しかし、最初の核融合炉が計画されて以来、スケジュールは再考を余儀なくされてきました。例えば2004年、ITERの研究者たちは、最初の実証炉は2033年に運転開始できると考えていました。それから8年後、研究者たちはこれを2040年代初頭に延期し、2018年にはついに2050年代と発表しました。核融合研究の進展をレビューした研究では、次のように述べられています。
「したがって、公的機関・民間企業を問わず、企業によるロードマップは、核融合の実現に関するタイムスケールの信頼できる情報源とは見なされていないことを明言することが重要である。多くの開発者は商業化への道筋を公表しているが、それは「ムーンショット型」のアプローチ、すなわち、すべてのマイルストーンが問題なく達成され、遅延もなく、各段階のすべての活動に必要な資金が確保されていることを前提としている。[…] これは、タイムスケールが実現不可能であるという意味ではないが、こうした予測はしばしば投資を呼び込むために楽観的に描かれており、それを裏付けるデータが欠けていることが多い。」 (Griffiths et al. 2022)
過去に過小評価されたのは運転開始スケジュールだけでなく、コスト予測も同様でした。南フランスのカダラッシュで進められている国際的なITERプロジェクトの場合、2008年の時点では約59億ユーロ(参加国のプロジェクト・パートナーが自らの責任で拠出する現物出資を除く)と見積もられていました。その2年後、EU委員会はすでに、EU単独で73億ユーロを拠出しなければならないと想定していました(EUは総コストの45.5%を負担するため、これは3倍に相当します)。2016年、ITERは費用見積もりを220億ユーロに引き上げました。2022年5月、欧州議会は決議案の中で、さらなる「大幅なコスト増および/またはITERプロジェクト実施のさらなる遅延」のリスクがあるとの懸念を表明しました。2024年7月にプロジェクト管理者が延期された新たなスケジュールを提示した際にも、50億ユーロのさらなるコスト増が話題になりました。
プラズマ核融合とは異なる第二の核融合は、レーザー核融合または慣性閉じ込め核融合です。アメリカのローレンス・リバモア国立研究所(セクション1参照)の成功は、このアプローチに強い追い風を与えました。そのため、もっとも安価で、もっとも効率的で、もっとも早く利用可能なコンセプトの競争は、大きく開かれています。強力な資金力を持つ多くのスタートアップ企業が、レーザー核融合技術の迅速な商業化を目指しています。しかし、将来的なコストとスケジュールの見積もりは、依然として信頼できません。
6. 核融合炉が機能するための技術的なハードルは何ですか?
核融合研究は1980年代以降、かなりの成功を収めていますが、解決すべき問題はまだたくさんあります。専門文献には、機能する核融合発電所が実現するまでに克服すべきハードルが数多く挙げられています(例えば、Donné et al. 2017; Takeda/Pearson 2018)
- 第一に、プラズマを利用した核融合炉は、エネルギーが豊富なプラズマを確実に生成して扱い、それを利用するのに十分な時間安定させることにまだ成功していません。
- 第二に、プラズマを封じ込め、高熱と放射線の両方に耐える特殊な材料がまだ不足しています。
- 第三に、発生した熱をどのように回収・放散し、原子炉の外で電気や熱の生産に利用できるかは、まだ十分に解明されていません。
- 第四に、核融合反応そのものを利用してトリチウムを生産し、それを取り出して処理し、燃料として核融合プラズマに戻すという、本物の「トリチウム・サイクル」を確立することがまだできていません。これは理論的には可能であり、実際には核融合に不可欠です。というのも、現在までのところ、トリチウムの供給源は特定の古いタイプの原子力発電所だけであり、それらは徐々に停止しているからです。したがって、2030年代半ば以降、核融合研究は供給問題に直面する可能性があります。
もうひとつの核融合であるレーザー核融合や慣性核融合にも、まだ解決すべき問題が山積しています。例えば、連続的な核融合反応を実現するには、原子炉での燃焼時間や新しい燃料ペレットの継続的な供給に関して多くの改善が必要となります。
核融合研究を批判する人たちの中には、少なくともいくつかの問題は解決不可能だと述べる人もいます。
7. 核融合炉と再生可能エネルギーは両立するか?
商業的に利用可能な最初の核融合発電所が、楽観的なシナリオでは2040年代から、保守的なシナリオでは2060年代から送電網に接続される場合、主要国の送電網は再生可能エネルギーと原子力発電所の混合が主流になる可能性が高くなると考えられます。これは、EUだけでなく、中国やアメリカも、2045年から2060年の間に気候変動に左右されない国になることを表明しているからです。核融合発電所の将来の役割を扱ったいくつかの研究は、このシナリオを想定しています(Hamacher et al. 2013; Nicholas et al. 2021)。他のいくつかの研究では、各国で予測されるそれぞれのエネルギー需要は、理論的には再生可能エネルギーだけでもカバーできることを示しています(Breyer et al. 2022; Zappa 2019)。いずれにせよ、研究者の間では、数十年後には再生可能エネルギーが世界のエネルギー需要の非常に大きな割合をカバーするというコンセンサスが得られています。核融合推進派は、AIを稼働させるデータセンターなどの電力需要の増加により、再生可能エネルギーを補完する追加電源が必要になると主張しています。
問題は、将来の電力システムにおいて核融合発電所がどのような役割を果たせるのか、また果たすべきなのかということです。ガス発電所、石炭発電所、原子力発電所と同様、核融合発電所も、従来のエネルギーシステムでいうところの「ベースロード可能」な発電所です。これは、天候に関係なく、常に一定量のエネルギー需要を満たすことができることを意味します。しかし、エネルギーシステムにおける再生可能エネルギーの割合が高くなればなるほど、柔軟性と迅速な制御性がより重要になるため、連続生産を行う「ベースロード発電所」の重要性は低くなります(あるいは邪魔にさえなります)。重要なのは、太陽光や風力によるエネルギー供給が十分でないときに、発電所が迅速に介入できるかどうかということかもしれません。
原理的には、核融合発電所は出力を調整することができます(Ward/Kemp 2015)。しかし、ランプアップとランプダウンは、発電所の経済効率を悪化させます。さまざまな研究によると、脱炭素化した世界のエネルギー供給システムにおいて、核融合発電所は、安価だが変動する再生可能エネルギーを補完する役割を果たすために、他の2つの技術と競合することになります。ひとつは核分裂原子力発電所、もうひとつは炭素回収貯留(CCS)設備を備えたガス火力発電所です。しかし、核融合炉は最大出力で稼働した場合でも比較的高価なエネルギーを生産するため(セクション4参照)、市場で生き残るためには、補助金やその他の(政治的な)支援が必要になる可能性があります。
再生可能エネルギーが主流となる将来のエネルギーシステムにおいて、核融合発電所が果たしうる役割を具体的に分析した研究では、次のような結論が出ています。
「核融合発電所を開発しようという明確な動機は残っているが、この動機は、核融合発電所が利用可能になる頃には弱まっている可能性が高い。」 (Nicholas et al. 2021)
いわゆるベースロードを供給できる原子炉は、ポスト化石エネルギーの未来においては時代遅れになる可能性がある、と研究チームは警告しています。したがって、核融合研究と将来の原子炉の設計は、柔軟な制御可能性にもっと注意を払うことを緊急に勧告しています。ドイツの研究アカデミーも2024年後半に、太陽光と風力が支配的なエネルギーシステムには、供給安定性を保証するためのベースロード電源は必要ないと述べています。
また、気候変動に左右されないエネルギーシステムで重要な役割を果たし、大量に必要とされる水素の製造においても、核融合炉の役割があり得るとする研究もあります(Gi et al. 2020)。 核融合推進派はまた、この技術は発電だけでなく、工業プロセスへの熱供給にも利用できると主張しています。
8. 他にハードルはありますか?
技術的、財政的なハードルに加えて、世論も核融合にとって問題になる可能性があります。ドイツの原子力発電のような他の技術の例は、社会的な配慮が最終的にその技術が利用されるかどうか、またどのように利用されるかを決定しうることを示しています。
そのため、核融合を支持する人々の間では、この新しい技術に肯定的な社会的枠組みを確保する方法について、すでに議論がおこなわれています(Hoedl 2023)。例えば、英国とドイツの被験者を対象とした研究では、核融合炉が従来の原子力発電と一緒にされた場合、受容の問題に直面する可能性があることがわかりました(Jones et al. 2019)。
ドイツ議会の技術評価局も、「核融合技術が社会的に受け入れられるかどうかは、技術決定の際に環境基準が十分に考慮されているかどうかに大きく依存する。[中略] 受容と信頼の危機を避けるためには、科学、業界団体、一般市民の間で、早期に集中的かつオープンな対話が必要である。」と強調しています(Grunwald et al. 2002)。
9. 核融合におけるEUの役割とは?
欧州における核融合科学技術の発展は、欧州原子力共同体を設立した1957年のEuratom条約によって勢いを増しました。それ以来、Euratomは、核融合プラントの開発を加速させることを目的とした「エネルギーのための核融合共同事業(Joint Undertaking Fusion for Energy)」や「ユーロフュージョン(EUROfusion)」といったイニシアティブに資金を提供することで、欧州の核融合研究を調整してきました。ITER協定は、中国、インド、日本、韓国、ロシア、米国とともにEuratomによって締結され、フランスにあるITER施設の管理と建設を担っています。このプロジェクトの目標は、プラズマを利用した核融合炉が、プラズマに注入された熱パワーの10倍のパワーを生み出せることを証明することです。
Fusion for Energyは、ITERプロジェクトに対するEuratomの貢献を実現する任務を担っています。もうひとつの重要なイニシアティブは、国際核融合材料照射施設(IFMIF)で、日本に建設されITERと並行して稼動する日欧共同プロジェクトです。IFMIFでは、超高温や高エネルギー中性子を含む原子炉内の極限状態に耐えうる材料を試験・選定します。一方、EUROfusionは、核融合研究に協力する29カ国30メンバーからなる汎欧州コンソーシアムです。
欧州の核融合研究は、今世紀後半に送電網に接続された核融合エネルギーを実現するための道筋を描く欧州研究ロードマップで2018年に定められた長期戦略に従っています。ITERはこのロードマップにとってきわめて重要です。なぜなら、このアプローチの科学的および技術的な実現可能性を証明することが目的とされているからです。
核融合研究は1950年代にさかのぼるにもかかわらず、現在までに規制の枠組みを確立しているのはアメリカとイギリスだけです。EU委員会は、国内および国際的なルールが存在しないことが「規制の空白」を生み、核融合発電所に非常に厳しい(それゆえに高価で邪魔な)核分裂発電所規制が適用される可能性があり、開発を複雑にしてしまうと嘆いています。ITER施設は原子炉施設として分類されたため、核分裂にもとづく規制の枠組みが適用されました。しかし、核分裂の規制アプローチが核融合にふさわしくない(セクション2で指摘したように)説得力のある理由があります。
欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は、行動の必要性を強調しました。「核融合に対する具体的な規制の枠組みを設ける必要がある」と彼女は述べ、「民間資本にとっても安全な投資であるという明確な政治的シグナルを送る必要がある」と付け加えました。その後、EUはネットゼロ産業法を採択しました。この法律にはネットゼロ技術のリストが含まれ、核融合も「その他の原子力技術(other nuclear technologies)」に含まれています。同法は、2030年までに欧州で導入されるネットゼロ技術の40%を欧州大陸で生産し、これらの技術の世界市場価値の25%を獲得するという目標を掲げています。また、これらの技術の製造能力を拡大するための課題にも対処する予定です。
民間の核融合セクターを代表する核融合産業協会(The Fusion Industry Association)は、核融合をネットゼロ技術の明確なサブカテゴリーとしてリストアップすることを提唱しています。同協会によれば、核融合と核分裂を混同することは、地域および国際市場において意図しない複雑な事態を招く可能性があるため、この区別はきわめて重要であるといいます。
10. 核融合エネルギーに対するドイツのアプローチは?
ドイツでは、核融合施設を特に規制する法律はありません。原子力の平和利用とその危険からの保護に関する法律であるドイツ原子力法は、ウランやプルトニウムのような核分裂性物質を使用する施設に限定されているため、適用されません。ドイツ最大の核融合施設、マックス・プランク協会が運営するステラレータ・ヴェンデルシュタイン7-Xは、有害放射線に対する包括的な防護の法的枠組みを定めたドイツ放射線防護法の下で規制されています。ドイツ政府の「教育・研究・技術評価」委員会は2024年7月、ドイツとヨーロッパにおける核融合発電所の法的枠組みについて協議をおこない、さまざまな関係者が核融合と核分裂の明確な区別を支持する意見を述べました。
レーザー核融合と磁場核融合の両方を含む「核融合2040」資金プログラムの導入により、ドイツは2029年まで核融合研究に10億ユーロ以上を投資することになります。2024年にこのプログラムを発表した際、当時のベッティーナ・シュタルク=ヴァツィンガー研究相は、産業、新興企業、科学の「エコシステム」を構築することで、ドイツはこの技術における「ポールポジション」を核融合発電所建設の先駆けにすべきだと述べました。この願望はドイツの新政権でも同じで、2025年連立合意書の中で、世界初の核融合炉を国内に建設することを目標に、核融合研究へのさらなる支援を約束しました。
11. なぜこの文章が「科学的コンセンサス」を反映しているのか?
科学者たちは、さまざまな技術がどれほど効果的かについて、驚くほど多くの具体的な知識を蓄積してきました。例えば、IPCCの第6次評価報告書は2000ページを超えています。
出典の選定がこのプロジェクトの中心であることを強調するため、このQ&Aでは通常の編集ガイドラインから逸脱し、学術的なスタイルで出典を表示しました。これらの文章が科学的なコンセンサスを可能な限り正確に表していることを読者に思い出させるためです。
この目的を念頭に置いて、出版日が新しいことよりも関連性を重視し、以下の順序でソースをランク付けしました。
- 可能な限り、本文はIPCCに依拠しています。IPCCは、研究の状況について非常に信頼性の高い要約と評価を提供しています。
- 次善の情報源としては、徹底的なメタ研究(他の多くの研究を評価した研究)や、大規模な研究コンソーシアムや組織による統合報告書があります。これらは、広範な参加者と集中的なレビュープロセスが一般的です。
- 三番目に位置づけられるのが個別の研究です。ただし、これに限っては、査読制度が保証され、広く認知されている学術誌に掲載されたものに限定しており、つまり、各論文が専門分野の有識者による審査を受けていることを意味します。
このQ&Aは、Clean Energy Wireのドイツ語の姉妹プロジェクトである Klimafakten が発表した文章をもとに、専門ジャーナリストが執筆し、関連する専門家がダブルチェックをおこなったものです。この編集プロジェクトは、Clean Energy Wire の Toralf Staud が監督し、Marga und Kurt Möllgaard-Stiftung と Deutsche Bundesstiftung Umwelt の2つの財団が支援しています。
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著者:ソーレン・アメラング、リコ・グリム、ベネット・リベック(Clean Energy Wire)
元記事:Clean Energy Wire “Q&A: Nuclear fusion – Hype or hope for a cooler planet?” by Sören Amelang, Rico Grimm and Bennet Ribbeck, June 2, 2025. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳