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当代一線の論者が原発問題群の「今」を一望(書評)

日本の原子力政策は、いろいろな問題を誤魔化し後回しにしてきた「出来の悪い小学生の夏休み最終日」状態だった。そこに福島第一原発事故が起きて、カオスの2乗のようになっている。

「決定版 原発の教科書」津田大介・小嶋裕一編/新曜社

本書は「教科書」と名付けているだけあって、そうした日本の原発を取り巻く問題群の「今」を見渡す上で、当代一線の論者を揃えたかっこうの入門編だ。

冒頭で編者は、本書ができたきっかけを紹介する。3年前に経産省から連絡があり、当時議論されていた国のエネルギー基本計画で「原発の新設・リプレースが議論の中心になる」から、事前に編者にも意見交換を要請してきたという。

その後、国は原発の新増設に含みを持たせる計画を決定した。他方、その意見交換をきっかけに編者が主催するウェブサイトで議論を重ね、本書で見るとおり、日本の原発の問題群ははるかに広く深く複雑で、とても「原発の新設・リプレース」を議論するどころではないことを明らかにしている。

今夏、国は再び原発の新増設を軸とする議論を始めたが、いっそう現実離れしてきている。この間、東芝はその原子力事業が原因で破たんの危機に陥っている。福島第一原発の「廃炉」計画は画に描いた餅で、汚染水すら手に負えず、費用も膨れあがる一方だ。「ゾンビ」化した東京電力は、その「廃炉」費用を国民負担に転嫁して生き延びている。高速増殖原型炉もんじゅの廃炉を決定した以外は、核のゴミや核燃料サイクルも福島の問題群も、進展どころか時間を浪費し混迷を増している。

かつて原子力委員長代理も務めた鈴木達治郎氏が本書で提言する「対立を越えた根本的改革」は傾聴に値するが、それでも原子力ムラや安倍政権には通じないだろう。もはや「推進か脱原発か」ではなく「妄想か現実的か」の対立となっているのではないか。

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日刊ゲンダイDigital:明日を拓くエネルギー読本「当代一線の論者が原発問題群の「今」を一望」2017年9月20日より転載

1959年、山口県生まれ。環境エネルギー政策研究所所長/Energy Democracy編集長。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経て環境エネルギー政策研究所(ISEP)を設立し現職。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、先進的かつ現実的な政策提言と積極的な活動や発言により、日本政府や東京都など地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。

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