自然エネルギーにより重点をおかない限り、パリ気候変動会議は成功しないでしょう。20年前にベルリンではじめて開催されたCOPから振り返り、パリでは何が焦点となるのか、国別目標案と自然エネルギーの関係を考えてみましょう。
ベルリン会議から20年
足下が濡れていたことを思い出す。あれは石鹸の泡だったかな?グリーンピースのボランティア活動家としての私の最初のアクションは、ベルリンのヴァンゼー湖の浅瀬で靴を履かずにスーツを着て模擬会議のテーブルにつくことでした。そこでは石鹸の泡が周辺に吹き荒れていました。冗談のように聞こえるかもしれませんが、このアクションを通じて、1995年にベルリンで最初の国連気候変動会議が始まることを、メディアが象徴的な写真で伝える機会を提供しました。COP1(気候変動枠組条約締約国会議)では、当時は他の政治家からはまったく知られていない、就任して数ヶ月の環境大臣アンゲラ・メルケルが議長を務めました。
私たちは、地球温暖化を止めるために緊急行動が必要だというメッセージを送りました。その場で私たちが示したかった皮肉は、政策立案者たちが気候変動の脅威を話している真っ最中に、前代未聞のスケールで世界のCO2濃度は上昇しているということでした。海水面の上昇というかたちでシンボル化された気候変動の影響は、実際に、すでに起こっていました。それ以来、現在までに、私は数多くの気候変動会議に参加してきました。
振り返ってみると、残念ながら当時のイメージは正しかったことが立証されています。1995年に世界の大気中のCO2濃度は360ppmで、今日の400ppmよりもはるかに少ないものでした。世界人口は今日より20億人少なく、世界のエネルギー需要は1/3少ないものでした。20年かけておこなわれた交渉は、産業発展から化石燃料を取り除くという、本当に必要とされていた転換をつくり出すことはできなかったようです。
2009年のコペンハーゲンでは、京都議定書に続いて拘束力をもつ削減目標について、国家元首たちがそろっても合意することができず、国連気候変動会議はどん底まで落ち込みました。国連の枠組みのもと、拘束力をもって世界のCO2排出を抑制するロードマップに合意するという考え方は、事実上、寒空のCOP15で死に絶えました。
国際交渉に対する信頼低下
京都議定書は、少なくとも2008〜2012年の第一約束期間へのコミットメントへとつながり、先進国37ヶ国と欧州が1990年比で平均5%の温室効果ガス排出削減を約束しました。一方、これには世界でもっともCO2排出が多い米国と中国は加わりませんでした。そのため、20年間にわたる交渉の成果は、世界の排出を抑制するにはあまりにも弱いものであったと言わざるをえません。気候変動会議には、実際には市民社会から(国連のDNAの一部である)合意原則を諦めることを期待する声がますますあがるようになり、また、少なくとも京都議定書に続く拘束力をもった削減目標設定に向けた合意のための取り組みを諦めることも期待されていました。
しかし、パリでの交渉では新しいダイナミズムと成功を経験することになりそうです − 気候変動という問題が認知され続けるという意味で、少なくとも気候変動会議にとっては成功です。中国と米国がすでに二国間でCO2削減に合意したという事実をとっても、明らかです。しかし、それは一番大事なことではありません。
COP21は、主に気候変動会議への期待が高まったという点と、国連の役割が変わったという点で成功に終わるでしょう。今回のCOPは、「拘束力をもった削減目標」ではなく、2013年のワルシャワ会議で定められた「国別目標案(INDC)」が共通枠組みとなったはじめての会議です。これは次のように評価されています:国別目標案は、実際に気候変動会議での交渉の結果として生まれたものだが、法的拘束力をもった合意ではなく、それぞれの加盟国が、作成した誓約を実行し、モニタリングする枠組みとして機能します。気候変動会議の役割は、例えば2050年といった長期的な目標の設定、各国が目標案をより野心的なものへとアップグレードすることの奨励、負担分担の調整、実行の検証といったものへと変わります。
もし期待に沿うような結果を達成できなければ、もっとも可能な結果に期待を合わせる − これは受け入れることができないとしても、理解することはできます。これまでに提出された国別目標案の中身からいくつかのことがわかります。
国別目標案の内容
パリ交渉がはじまるまでに、182ヶ国から155件の国別目標案が提出されました。科学的な評価によれば、これらを合わせても、2℃はおろか1.5℃目標の達成にも削減量は足りないことが明らかになっています。いくつかの評価では、このままでは今世紀終わりまでに2.7℃(Climate Action Tracker)もしくは3℃(UNEP)上昇すると述べられています。また、各国の目標案の中身はそれぞれ異なっています。なかには、排出削減に向けた具体的なステップや、いつまでに実行するかといった内容がない誓約もあります。化石燃料をクリーンエネルギーと主張するものさえあります。さらに、原子力発電を8倍に増やすインドの計画のように、激しい論争を巻き起こす可能性があるものも含まれています。これについては、費やされる時間、膨大な額の資金、発電所建設にかかる化石燃料など、経済的、政治的、技術的にきわめて疑問と言わざるをえません。
国別目標案には自然エネルギーの目標が必須
国別目標案の誓約におけるコミットメントの度合いは劇的に高められなければなりません。まず、加盟国は、より大胆で野心的な自然エネルギーの目標を設定しなければなりません。これまでのところ、71件の国別目標案に定量的な自然エネルギー目標値が含まれていて(2件はほぼ完全に自然エネルギーで電力供給することを宣言)、32件が定量的な目標なしで自然エネルギーを増やすことを計画し、31件は目標なしで自然エネルギーに言及し、16件はまったく自然エネルギーに触れていません。固定価格買取制度に言及しているのはたったの10件で(3件がすでに実行していることを報告)、100%自然エネルギーの目標を設定しているのは、182ヶ国のうち8ヶ国のみです。まずまずのスタートといったところでしょう。しかし、これではエネルギー分野の転換を誘発したり、投資家が確信をもって太陽光や風力に投資できるようにシグナルを送るにはまったく不十分です。
これまででもっともポジティブな要素は、世界でもっとも人口の多い中国とインドが自然エネルギーを増やすきためのきわめて具体的な計画を実際に作成しているということです。自然エネルギー導入の大幅な増加はこの2ヶ国で現れます:中国は2020年までに104GWの風力発電と72GWの太陽光発電を導入する計画です。インドは2022年までに36GWの風力発電と96GWの太陽光発電を導入する計画です。
私が希望を感じるのは、国別目標案を作成することで、気候変動会議が必然的に自然エネルギーの驚異的な成功にますます注目する点にあります。気候変動会議でCO2削減目標に合意する/しないにかかわらず、世界のエネルギー分野は、温室効果ガスの主な排出源でもあるのですが、過去20年間にわたって革命的な進展を経験してきたのです。自然エネルギーは、劇的な石油価格の下落にもかかわらず、化石燃料による発電所への投資額を追い越し、成長し続けています(REN21「自然エネルギー世界白書2014」)。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)による分析では次のように述べられています:適切な政策により、自然エネルギーは2030年までに世界で2,400万人の雇用を生み出すことができるでしょう。そして、環境と人間の健康にかかわる外部性を価格として長期的に世界のエネルギーミックスに組み込んだ場合、自然エネルギーへの転換は純貯蓄を生み出すことになります(IRENA “REthnking Energy: Renewable Energy and Climate Change“)。
いまのところ、気候変動会議会議ではこうした進展はまったくといっていいほど見過ごされている一方で、今後、自然エネルギーは気候変動交渉において重要なテーマとなってくるでしょう。会議場では、世界でもっとも影響力のある自然エネルギーネットワークのIRENAとREN21のコーディネートのもと、今回はじめて「自然エネルギートラック」と呼ばれるプログラムがホストされています。そこでは市民社会のさまざまな団体が、100%自然エネルギーを目標として設定すること、気候変動条約文書に野心的な自然エネルギー指令を盛り込むことを公式に求めています。
まとめると、湧き上がる洪水の比喩に戻ってきます:パリCOP21は気候変動国際交渉の新たな時代の幕開けを示すことになるでしょう。しかし、単なる気候変動国際交渉の新しい語り口ではなく、本当に新たな進展を欲するのであれば、加盟国のコミットメントに責任をもたせる仕組みをつくり出さなければなりません。さらに、国別目標案は、世界の気温上昇を2℃以下に抑えるというベンチマークに対応させる必要があります。そのためには、加盟国は国別目標案の自然エネルギー導入を劇的に高め、100%自然エネルギーという目標を設定し、それをどのように実行するのか、説得力のあるロードマップを作成しなければなりません。
元記事:World Future Council, The Blog of the Climate and Energy Commission: Power to the People “COP REloaded?“(2015年12月2日)ISEPによる翻訳