再エネの未来へ転換するというドイツの取り組みの実現には、国内の送電系統に対する大規模な投資が必要になります。このコストは電力消費者が負担しており、電気代の請求書には系統利用料が含まれています。ここ数年の系統利用料の急激な値上がりにより、このコストの計算方法と分配方法について議論が巻き起こっています(政府の改革案を受けてアップデート)。
系統利用料は、すでに一般家庭の電気代の4分の1を占めるほどになっています(詳細は「ファクトシート:ドイツの家庭の電力支出内訳」をご覧ください)。1kWhあたりの平均額は7セントを超えており、再生可能エネルギーの普及のために消費者が支払う再エネ賦課金の額を超えています。
ドイツでは、今後も変動型再生可能エネルギーの割合を向上させる予定で将来のエネルギーシステムを考えています。ドイツの電力系統は、これに対応するために巨大な投資を必要としており、系統利用料は今後も数年は上昇を続ける見込みです。2017年初頭には利用料は平均して10%程度上昇すると見られていました。
送配電系統への投資だけを見ても、2011年の38億ユーロから2015年には約60億ユーロまで上昇しました。さらに数十億ユーロがバルト海と北海の洋上風力の系統接続に向けた支出として確保されています。また、国内北部の再エネの豊富な地域から南部の電力消費の大きな産業地帯へ電力を運ぶスーパーハイウェイの建設にも多額の資金が必要となります。
連邦ネットワーク規制庁(Bundesnetzagentur)は、系統拡張にかかるコストの総額を試算することは困難だと述べています。試算では、2024年までに180億ユーロが陸上の系統拡張に費やされ、150億ユーロが洋上プロジェクトの開発に費やされると述べられています。当局は、系統を地下ケーブルにする計画の場合は、さらに追加のコストがかかると警告しています。
最新のデータは入手できませんでしたが、系統利用料の総額は数年前には170億ユーロほどだったものが、今は200億ユーロまで上昇していると考えられます、と系統の専門家で、Regulatory Assistance Project(RAP)のAndreas Jahn氏はClean Energy Wireに対してコメントしています。
現在は3分の1を占めるまでに成長した再生可能エネルギーにより、元々大規模な従来型電源から安定して供給される電力システム用に設計された系統の弱点が明らかになっています。系統運営者は、系統安定化のために需要と供給を調整する必要から、常にシステムへの介入を余儀なくされています。この追加コストは、最終的には系統利用料の一部に組み込まれて消費者が負担しています。(詳細は、CLEWの「ファクトシート-ドイツの系統における再給電指令コスト」をご覧ください)。
系統安定のために取られる対策の実施頻度が増えているにも関わらず、ドイツの電力系統は依然として世界で最も安定した系統の1つです(詳細はCLEWの「ファクトシート-ドイツの電力系統はエネルギー転換にあっても安定している」をご覧ください)。
不公平で不透明か?
電気代全般の上昇、特に系統利用料の上昇により、系統利用料の制度改革を求める声が上がり始めています。批判は主に3つの観点から現行システムが不公平だと訴えています:
1つ目に、エネルギー集約型産業は費用負担が免除されており、その他の消費者が肩代わりして高い費用を支払っているという批判です。産業界は2017年に最高で10億ユーロの払い戻しを受けています。この払い戻しの資金確保のために消費者の電気代に加算される賦課金により、支払額はキロワット時あたり0.378セントから0.388セント(ct/kWh)に上昇し、一般家庭と免除措置を受けない企業はこの額を支払うことになります。連邦ネットワーク規制庁は、産業界が受け取る払い戻しの額は今後も上昇すると述べています。その理由は、系統利用料と免除措置を受け取る企業の数の両方が上昇するためです。緑の党のベルベル・ヘーン議員などは、「現在5,000社ほどである賦課金減免措置を受けられる企業の数は、毎年上昇していきます。その理由は、ビジネスは免除対象に入れてもらうために「創造的なプロセス」を駆使するためです」と批判しています。
2つ目は、系統利用料の額が国内でも地域によってかなり異なるという批判です。最も賦課金が大きい地域の負担は、最も小さい地域の2倍以上になります。これは旧東ドイツの地方で特に顕著で、理由は賦課金がまばらに住んでいる人々の間で分配されることにあります。これらの地域で大型の再生可能エネルギー発電設備が設置されると、系統の拡張とそれにともなう投資が必要となります(グラフ参照)。地域間の格差は広がっています:ドイツの南北に広がる地方部を多く抱え、特に重要な系統運営者であるTenneT社は、2017年に系統利用料を80%値上げする予定です。
結果的に、系統利用料の額が電気代に占める割合が数%の地域もあれば、それが半分近くを占める地域も存在します。ブランデンブルク州北部の年間電力消費量が3,500kWh程度の平均的な家庭の系統利用料支払額は416ユーロになりますが、ブレーメン州の平均的な家庭は196ユーロしか支払っていません。大口消費家では、負担の差はさらに顕著になります。Agora Energiwendeの試算では、ブレーメン州のパン屋が年間80,000kWhの電力を消費する場合の負担額は2,942ユーロになりますが、ブランデンブルク州北部のパン屋では7,974ユーロになります。2017年1月の政府の系統利用料改革案は、それより以前のプレスリリースとは逆に、改善に向けた圧力があったにも関わらず、ドイツ全体で系統利用料を一律化することは含まれませんでした。
3つ目の批判は、現行システムは系統運営者が巨大な利益を得ることを可能にしているというものです。電力系統は、競争による価格低下圧力が機能しない独占ビジネスであり、系統運営者の利益と電力消費者の利益のバランスをとるために複雑な規制が必要になります。連邦ネットワーク規制庁は系統運営者が課す利用料を認可していますが、システムが不透明であり、運営者が消費者に対して不当に高い料金を請求できる過大な余地を残しているという批判があります。
2019年には、連邦ネットワーク規制庁は系統運営者の利益水準に対してさらに厳しい上限を課す予定です。しかし、エネルギー政策シンクタンクのAgora Energiewendeは、実際のインフラコストや、系統運営者が消費者から受け取る利益水準には透明性がないと、自社の分析から述べています。
—-
著者:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire特派員
元記事:Clean Energy Wire “Power grid fees – Unfair and opaque?” by Sören Amelang, Jan 26, 2016. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳