地域再生可能エネルギー政策と持続可能なまちづくり

脱炭素先行地域の「先」も見据えた取り組みを
2023年5月31日

本稿では、脱炭素先行地域を目指す自治体や企業に対して、その主要な要素となる再生可能エネルギー(再エネ)の現状や検討事項とともに、より長期的な視点での地域のエネルギー転換を見据えた議論と政策の必要性についても述べる。

地域の懸念に対応しつつ促進する

再エネの現状と検討事項について考える上で、2022年10月に公表された「再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会」の提言内容を把握しておくことは有益である。この検討会は、太陽光を中心として再エネが急速に普及してきた一方で、乱開発と言える状況も発生しており、安全面や景観面など地域の懸念が高まってきたことから、再エネ発電設備の事業実施の各段階に応じた課題を整理し、その解消に向けて求められる制度的対応や運用のあり方などについて、経産省・農水省・国交省・環境省が共同で検討を進めてきたものである。

この提言の中では、土地開発前段階・土地開発後〜運転中段階・廃止および廃棄段階での事業規律を高める制度を挙げ、「速やかに検討」または「法改正含め制度的対応を検討」をおこなうとしている。加えて横断的事項として、地域との合意形成に向けた適切なコミュニケーションや責任主体の明確化、地域との信頼関係、非FIT・非FIP案件の事業規律、地域と共生した好事例の展開についても言及されている。全体として、再エネ事業の事業規律を高める方向で制度を整備していくことが示されている一方、適切な促進のための具体策は乏しい。

ここから、地域にとって考慮すべきことを2点挙げておきたい。まず、国の制度は順次整備されていくが、それでも多くの課題が残るため、地域で適切な規制と支援をおこなう必要がある。例えば、土地開発前段階での計画乱立への対応策として林地開発許可の対象基準の引き下げなどが進められているが、地域にとって保全すべき場所は多様である。そのため、国の一律の基準ですべてを守りきることは難しく、地域ごとの対策の検討が求められる。他方、どこでどのような再エネ事業を進めるかを検討し、どういった政策的支援をおこなうのかも地域が選択していくことになる。

次に、再エネに対する受容性が低下していることから、再エネ事業を含む「脱炭素先行地域」にも地域からの期待と懸念が同時に生じうる。脱炭素先行地域は地域に経済的効果をもたらし、レジリエンスなどの副次的なメリットも生じさせる。その一方で、大規模プロジェクトであるために、地域とのコミュニケーションを丁寧に進めなければ、懸念が高まってしまう可能性がある。再エネ電力100%をどのように達成するか、再エネ設備周辺の住民の合意は得られるのか、外部から再エネ電力を調達する場合には外部にリスクを押し付けることにならないのか、など計画策定時から検討しておくべき点は多いだろう。

これらを考慮した上で、自治体や企業には、脱炭素先行地域の先まで見据えて地域の未来に貢献する再エネ政策および事業を検討し続けることが求められる。なぜなら、脱炭素先行地域は一大プロジェクトではあるものの、まち全体を変えていくための第一歩であり、今後も地域のエネルギー転換のプロセスは長く続いていくからである。

地域再エネ政策の三本柱

今後の脱炭素・再エネ事業を地域にとって望ましいものへ誘導していく上で、地域の再エネ政策が果たす役割は大きい。以下では、地域の再エネ政策の三本柱として、「地域の未来像」「推進体制作り」「政策パッケージ」について簡潔に述べる。

地域の未来像」とは、どのような地域の未来像を持ち、それに向けてエネルギー対策とそのコベネフィット(副次的な便益)がどのように役立つのかが、多様なステークホルダーに共有されていることであり、三本柱の中でもっとも重要である。「推進体制づくり」は、行政内部の縦割りを超えた連携体制と、行政と民間の協働の2つの意味がある。「政策パッケージ」は、いくつものレベルの政策手法を組み合わせて再エネを適切に規制し、促進することである。

政策パッケージに組み込むべき政策手法は多く、促進区域の設定や地球温暖化対策実行計画区域施策編など脱炭素先行地域の評価項目に含まれるものもあるが、ここでは条例ゾーニング市民参加手法を紹介する。

条例は、地域に応じた適切な規制と支援をおこなう上で有効である。立地規制も含みつつ、地域振興型の再エネ事業の促進を打ち出しているニセコ町の「ニセコ町再生可能エネルギー事業の適正な促進に関する条例」(2022年4月施行)は多くの自治体にとって参考になる。

ゾーニングとは、再エネ導入を抑制する場所や促進する場所を区分けしたものであり、条例と組み合わせることで実効性をもつ。

市民参加手法にはさまざまなものがあるが、脱炭素を検討するための熟議をともなった市民参加の手法として「気候市民会議」を試みる自治体が増えている。

再エネおよび脱炭素については技術もビジネスモデルも日進月歩で変わっていくため、未来像も適した推進体制も政策パッケージも絶えず変化することになる。例えば、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)や垂直型太陽光発電、PPA(電力購入契約)、蓄電池や省エネ技術も含めたエネルギーマネジメントシステム、熱利用、電気自動車や地域のモビリティとの統合など新しい要素が次々と加わってくる。こうした変化に追いついていくことは大変だが、地域の課題に新しい解決策を提示する可能性がある。

地域に根ざした脱炭素の取り組みを

気候変動問題への対処と地域の活性化を両立させていくことに苦慮している多くの自治体にとって、脱炭素先行地域は大きなチャンスである。だからこそ、一度冷静になって、脱炭素先行地域の計画が地域に根ざしたものになりうるかを自問自答しながら検討を進めていくことが肝要である。

脱炭素先行地域の計画を地域再エネ政策の三本柱と比較してみれば、対象区域のみでなくまち全体の未来像に貢献するものになっているか、地域のニーズに本当に合っているか、行政が事業者に依存し過ぎていないか、地域住民や地域企業が参加し主体的に関わっていけるか、他の政策と組み合わせて戦略的に進められているか、など問いかけるべきことは多く出てくるだろう。

結局のところ、地域に合わない計画や事業は長続きせず、自律的な発展も見込めないのだから、脱炭素先行地域というツールを地域がうまく使いこなせるか、そのために何が必要かを地域再エネ政策全体の中で多様なステークホルダーとともに検討していくことが重要となる。

オリジナル掲載:『地球温暖化』(株式会社日報)2023年3月号

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@energydemocracy.jp 地域再生可能エネルギー政策と持続可能なまちづくり – 脱炭素先行地域の「先」も見据えた取り組みを/山下紀明 – https://energy-democracy.jp/4989 本稿では、脱炭素先行地域を目指す自治体や企業に対して、その主要な要素となる再生可能エネルギーの現状や検討事項とともに、より長期的な視点での地域のエネルギー転換を見据えた議論と政策の必要性についても述べる。 #エネデモ #脱炭素先行地域 #地域再生可能エネルギー政策 #政策パッケージ ♬ HelloHello – DJ Grumble

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環境エネルギー政策研究所 主任研究員(理事)/名古屋大学大学院環境学研究科博士課程(知の共創プログラム特別コース)。2005年3月京都大学大学院地球環境学舎環境マネジメント専攻修士課程終了(地球環境学修士)。同年4月から環境エネルギー政策研究所で自治体のエネルギー政策策定や地域エネルギー事業の立上げ支援を行う。

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