再生可能エネルギーの社会的合意形成には人々のリスク認知が少なからず影響を与えます。本稿では日本のTwitterにおけるメガソーラー言説を分析した研究から、極端に偏って形成されてきた日本のオンライン上の再生可能エネルギー言説空間の構造と見逃されてきた機会を指摘します。
再生可能エネルギーのリスク認知とソーシャルメディア
大規模な再生可能エネルギープロジェクトは非常に複雑であり、不確実性が高いものです。新しく計画されるプロジェクトが喧伝する便益は、あくまでも計画時点の想定にもとづくイメージであり、同時に、計画には常に想定外のリスクが潜んでいることが一般的です。
ときには想定外のリスクが具体的に顕在化することが原因で再生可能エネルギーに対する反対運動に発展することがある一方、再生可能エネルギーに関して起こり得るリスクに対して人々が抱く印象=「リスク認知」が少なからず合意形成に影響を与え、推進/反対の対立が生じ、プロセスが停滞することがあります。
例えば、大規模な太陽光発電事業の中には、潜在的リスクをめぐって地域トラブルが発生し、反対運動・紛争につながっている事例があります。そのような反対運動・紛争を取り上げた新聞記事を分析した研究では1 山下紀明, 丸山康司(2022)「太陽光発電の地域トラブルと自治体の対応」『どうすればエネルギー転換はうまくいくのか』(丸山康司・西城戸誠編)新泉社. 、太陽光発電に関するトラブルの要因として、「自然災害」「景観」「生活環境」「自然保護」などへの懸念が挙げられていたことが明らかになっています。
反対運動・紛争は、それぞれの地域の固有の文脈の中で生じる一方で、人々のリスク認知はメディアから情報を受けとることで形成されます。複雑で、さまざまな不確実性がともなう再生可能エネルギープロジェクトについて考える際に、人々はメディア上の多くの矛盾する議論のうち、どれを信じるかを、情報の信憑性または情報源の信頼性によって選択することになります。
その際、科学的・制度的なコミュニケーターへの信頼が重要となります。しかし、日本では政府やNGO、従来のメディアへの信頼は低く、ますます低下する傾向が確認されています2 Edelman, 2022, 2022 Edelman Trust Barometer – Global Report. 。「情報衛生(information hygiene)」3(1)定期的にニュースをチェックし、常に情報を得る。(2)エコーチェンバーを避けるため、異なる視点からの意見を取り入れる。 (3)確証バイアスを避けるための情報を検証する。(4)情報を共有する前に真偽を確認することで、誤った情報の拡散を避ける。の考え方と実践には一定の効果があるものの、誤った情報の流布が加速する状況では限界があるようにも思われます。
そして、今日、人々の意見は、新聞・テレビ・ラジオなどのマスメディアからの情報だけでなく、オンラインのソーシャルメディア上での議論の影響をますます強く受けるようになっています。新聞やテレビニュースといった従来の情報源への不信感が高まる中で、ソーシャルメディアは世論形成の重要な場となっています。オンラインのソーシャルメディアは、低コストでアクセスしやすく、積極的な参加を可能にしますが、以下のように欠点も多くあります。
- 影響力のあるオピニオンリーダーとのエコーチェンバーが起こりやすい
- 注目を集める投稿はごくわずかしかない
- 感情的な内容や誤った情報は、合理的な内容よりも早く拡散する
- 検証されていない情報が、不特定多数の人々に直接届く可能性がある
- シェアの多さが、投稿の質と正当性を社会的に証明するものとみなされる
- ネット上に「専門家」の意見が溢れている
これまでのところ、再生可能エネルギープロジェクトがオンラインでどのように議論されているかについての学術研究は十分におこなわれておらず、特に日本の状況については直感的な議論が散見されるにとどまっていました。
Twitterにおけるメガソーラー言説分析
こうした背景や問題意識にもとづいて、日本で特に話題になることが多い「メガソーラー」という言葉に注目し、Twitter(現X)のデータを使って言説分析をおこないました。具体的には、2021年9月に「メガソーラー」に関して発信されたすべてのツイート58,533件(リツイート、リプライ、メンションを含む)を収集し、社会ネットワーク分析およびコンテンツ分析をおこないました。
分析にあたっては、以下の問いを設定し、日本の「メガソーラー」をめぐるオンライン上の議論の構造と内容を解析しました。
- 日本のメガソーラーに関連するTwitter上のネットワーク構造の全体像はどのようなものか?
- 日本のメガソーラーに関して、Twitter上ではどのような意見が多いのか?
- 日本でのメガソーラーに関する議論は、どの程度地域によって異なるものか?
- Twitterユーザーが日本のメガソーラーについて話している主なトピックは何か?
- オピニオンリーダーは誰なのか?
- 日本のツイッターではメガソーラーに関するどのようなコンテンツがもっとも多くシェアされているのか?
社会ネットワーク分析の結果
収集したツイートのネットワークサイズを調べたところ、27,286人のユニークユーザーが2021年9月の1ヶ月間に58,685ツイートを発信していました。ネットワークタイプは中・小規模のコミュニティが連携する「コミュニティクラスター」であると見ることができます(図1)。
このコミュニティクラスターには以下のような特徴がありました。
- 中・小規模の否定派グループの多くは、そのテーマに関する専門的な経歴を持たないオピニオンリーダーを擁している
- グループ内での共有がもっとも多くなっているとともに、グループ間でもかなりの情報フローがある(上位5グループ間の共有率は12%)
- 孤立率は5%であり、ほとんどのユーザーがすでにコミュニティとつながっていることを示している
- 多くの異なるハブが別々のクラウドを持つことで、ネットワークの長期的な安定性が保たれている
コンテンツ分析の結果
さらに、収集したツイートから10%(531件)を抽出して、それらのツイートからメガソーラーに対する態度を「否定/中立/肯定」の3つに分類しました。
その結果、メガソーラーに否定的なツイートが73.6%(391件)と突出しており、当該期間のTwitter上の日本のメガソーラーに関する言説は、ネガティブな意見で占められていたことが明らかになりました(図2)。一方で、メガソーラーに肯定的なツイートは、わずか5.4%(29件)でした。
リツイートと引用の平均回数は、否定的ツイートで376.28 RT、肯定的なツイートで8.31RTと、圧倒的に否定的なツイートが多くなっていました。その結果、メガソーラーに関する情報をTwitterで探した人は、否定的な情報ばかりを目にすることになっていました。
地域性の有無
次に、「メガソーラー」と発信するとき、それが一般的なものとしてのメガソーラーなのか、ある特定の地域のメガソーラープロジェクトを指しているのか、上記で抽出した否定的なツイート391件を分類しました。
その結果、メガソーラーに関する否定的なツイートの60.6%(237件)が一般的なものとしてのメガソーラーを話題にし、39.4%(154件)は特定の地域のメガソーラープロジェクトや政策を話題にしていました(図3)。
この結果から、多くのTwitterユーザーはメガソーラーに一般的な問題意識を抱えており、自分にかかわりのある特定のプロジェクトだけに関心を持っているわけではないということがわかります。これは、特定の地域のプロジェクトを取り上げ、Facebookで反対運動が展開されることが多い風力発電での議論とは異なっています。
影響への懸念
メガソーラーへの否定的な意見は、人々が抱くさまざまな懸念をともなって現れます。では、メガソーラーにまつわる懸念として、具体的にどのようなものが掲げられていたのでしょうか。図4は、メガソーラーに関する懸念のツイートを個別に見て分類した結果です4分類項目は Borch, K., Munk, A. K., & Dahlgaard, V. (2020) “Mapping wind-power controversies on social media: Facebook as a powerful mobilizer of local resistance.” Energy Policy, Vol.138, p.111223 のコードセットを元に下記の通り設定しました。
1. 環境(森林伐採、土壌・河川・海洋の汚染、野生生物・絶滅危惧種への悪影響)/ 2. 安全(地滑り、火災、電気ショックの恐れ)/ 3. 景観アイデンティティ(景観への視覚的悪影響、文化遺産への影響)/ 4. 利益(メガソーラープロジェクトが地域社会にもたらす利益)/ 5. 信頼(政治家、開発事業者、行政、専門家に対する不信感、陰謀の疑い、偏見・非協力的・偏った利害関係者、不正確で隠蔽された情報の疑い)/ 6. プロセスの公正さ(地域社会の関与の欠如、利害関係者間のコミュニケーションの問題、開発事業者の圧力)/ 7. 共通認識(現行の法律や許認可の背後にある論理への不満、調査・科学・事実の評価、妥当性を含む証拠に関する議論、すでに存在する証拠の問題、無視された、あるいは使われなかった証拠、事実・定義・法律の解釈をめぐる意見の相違)/ 8. マクロ経済および気候変動への影響(メガソーラーが国民経済にもたらす恩恵への不信、電気料金の上昇、気候変動緩和のための再生可能エネルギーの効率性への不信)/ 9. ミクロ経済への影響(メガソーラーによる雇用創出や地方活性化への不信感)/ 10. 道徳・倫理・共感(非人道的な事柄、人命や価値観の軽視)/ 11. 場所への愛着(自宅や日常生活への影響、幸福感、生活の質)/ 12. 健康(自らの健康への懸念)/ 13. 原子力発電(メガソーラー/再生可能エネルギーの代わりに原子力発電の利用を求める)/ 14. 海外からの影響力(メガソーラープロジェクトを通じて、海外/企業が日本に影響力をもつ) 。
もっとも多かった懸念事項は環境への悪影響でした。特にメガソーラープロジェクトによって森林が破壊されてしまうことへの懸念が多く言及されています。
次に、政治家、ディベロッパー、伝統的なメディアに対する不信感が強く示されていました。国会議員が「既得権益をもつ裏切り者」と呼ばれているケースもあります。
また、安全性、特に土砂崩れに対する懸念が大きく示されていました。この背景には、2021年7月に熱海で豪雨および土石流災害が発生していたことがあり、メガソーラーがその近くに立地していたことを地滑りの原因として指摘する声が多く発信されていました。その後の静岡県による検証では、盛土への地下水流入が原因であるとする解析結果が公表されています。
新聞記事では生活環境への影響に関する懸念がよく取り上げられていますが、オンライン上ではあまり議論されていません。また、同じく新聞記事でよく言及される景観への影響に関する懸念も、ツイートでの言及は5%でした。
これらの懸念項目それぞれを「特定の地域プロジェクト/一般的なメガソーラー」で分類したところ、図5のような結果となりました。
特定の地域のプロジェクトを話題にしているユーザーは、安全性の問題やプロセスの公平性により大きな関心をもっていました。特に、土砂崩れが生命を脅かすという懸念と、外国の開発事業者が地元のステークホルダーの意見に耳を傾けないという批判が強く見られました。
一般的なメガソーラーを話題にしているユーザーは、日本におけるメガソーラーの実現可能性を問題に掲げていました。例えば、太陽光発電はコストがかかるため、原子力の方が適しているという意見や、日本には大規模な太陽光発電プロジェクトに利用できる十分な土地がないという意見が見られました。
極端に偏っているオンラインの言説空間をどう変えていくか
本稿では、Twitterデータを使った「メガソーラー」の言説分析の結果を概観してきました。この調査研究から、日本のTwitter上での言説空間がメガソーラーに対する懸念・懐疑・批判・否定へと圧倒的に偏っていたことが明らかになりました。
その構造的特徴として、多くの中小規模クラスターによって構成される大規模なメガソーラー批判のネットワークが存在しています。それらはネットワークとしての安定性をもっているため、ネガティブな議論が今後も長く続く可能性は高いと考えられます。
加えて、Twitter上では話題となっているトピックについて専門的なバックグラウンドを持たないオピニオンリーダーが情報の流れをコントロールしていることが、本稿の元論文から明らかになっています。
また、ほとんどのツイートはメガソーラーに対してネガティブな感情を含むものであり、これらの投稿はより広く共有されるため、さらに多くの人に届くことになります。そのため、予断なく太陽光発電の情報を探していたユーザーであったとしても、ネガティブな側面を強調するメガソーラーに関するツイートに接する可能性が高くなっていました。絶え間なく「生活や環境を脅かすメガソーラーは危険であり、意思決定者は信頼できない」という情報に接していれば、その人のリスク認知がネガティブな感情の影響を受ける可能性が高まります。
これらを踏まえると、メガソーラーに対する懸念・懐疑・批判・否定に反論や異論を唱える声が圧倒的に不足していることは明らかであり、それゆえに日本ではメガソーラー批判のエコーチェンバーが形成されていると見ることができます。
このような状況において、再エネの専門家や実務者が人々の共通の懸念に対して的確に応答し、誤情報や偽情報を訂正していくことは、より高いレベルでのより広範な合意形成につながるでしょう。
しかし、地方や国の政治家、専門家、開発事業者に対する全般的な信頼が低下傾向にあるため、あらゆるレベルでの合意形成は困難に直面しています。難しいことではあるのですが、人々の懸念に対応することは重要です。このような懸念の声を無視すれば、人々が不安を感じたまま、感情を煽るような投稿の影響を強く受け続けることになってしまうでしょう。
Twitterは、日本でもっとも人気のあるソーシャルメディアプラットフォームのひとつであり、政治的な話題にあまり関心を持たない若者を含む多くの人々と信頼できる情報を共有する場となる潜在的可能性もあるはずですが、これまでのところ、その機会は逃されてきました。
さらに、本稿の元論文の調査分析の後、2022年にTwitter社はイーロン・マスク氏による買収を受け、Xへと社名およびサービス名が変更され、アルゴリズムを含む仕様も大幅に変更されました。今後のソーシャルメディアプラットフォームのあり方がどのように変化するのか、それにともなってユーザーの行動や認知がどのように変化するのか、不透明ではあるものの、再生可能エネルギーに関して極端に否定へと偏っているオンラインの言説空間のバランスを変えていくためのナラティブが必要とされています。
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本稿は、Christian Doedt and Yasushi Maruyama (2023) “The mega solar Twitter discourse in Japan: Engaged opponents and silent proponents” Energy Policy, vol. 175, p.113495.をもとに主要な知見を要約しています。
@energydemocracy.jp 日本のTwitterにおけるメガソーラー言説分析 − 熱心な否定派と無口な肯定派/クリスティアン・ドート&山下紀明 – https://energy-democracy.jp/5354 #エネデモ #メガソーラー #Twitter #言説分析 #リスク認知 #ソーシャルメディア #社会ネットワーク分析 #エコーチェンバー #オピニオンリーダー #ナラティブ ♬ Feelings, Mutual – Ljones
- 1山下紀明, 丸山康司(2022)「太陽光発電の地域トラブルと自治体の対応」『どうすればエネルギー転換はうまくいくのか』(丸山康司・西城戸誠編)新泉社.
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- 3(1)定期的にニュースをチェックし、常に情報を得る。(2)エコーチェンバーを避けるため、異なる視点からの意見を取り入れる。 (3)確証バイアスを避けるための情報を検証する。(4)情報を共有する前に真偽を確認することで、誤った情報の拡散を避ける。
- 4分類項目は Borch, K., Munk, A. K., & Dahlgaard, V. (2020) “Mapping wind-power controversies on social media: Facebook as a powerful mobilizer of local resistance.” Energy Policy, Vol.138, p.111223 のコードセットを元に下記の通り設定しました。
1. 環境(森林伐採、土壌・河川・海洋の汚染、野生生物・絶滅危惧種への悪影響)/ 2. 安全(地滑り、火災、電気ショックの恐れ)/ 3. 景観アイデンティティ(景観への視覚的悪影響、文化遺産への影響)/ 4. 利益(メガソーラープロジェクトが地域社会にもたらす利益)/ 5. 信頼(政治家、開発事業者、行政、専門家に対する不信感、陰謀の疑い、偏見・非協力的・偏った利害関係者、不正確で隠蔽された情報の疑い)/ 6. プロセスの公正さ(地域社会の関与の欠如、利害関係者間のコミュニケーションの問題、開発事業者の圧力)/ 7. 共通認識(現行の法律や許認可の背後にある論理への不満、調査・科学・事実の評価、妥当性を含む証拠に関する議論、すでに存在する証拠の問題、無視された、あるいは使われなかった証拠、事実・定義・法律の解釈をめぐる意見の相違)/ 8. マクロ経済および気候変動への影響(メガソーラーが国民経済にもたらす恩恵への不信、電気料金の上昇、気候変動緩和のための再生可能エネルギーの効率性への不信)/ 9. ミクロ経済への影響(メガソーラーによる雇用創出や地方活性化への不信感)/ 10. 道徳・倫理・共感(非人道的な事柄、人命や価値観の軽視)/ 11. 場所への愛着(自宅や日常生活への影響、幸福感、生活の質)/ 12. 健康(自らの健康への懸念)/ 13. 原子力発電(メガソーラー/再生可能エネルギーの代わりに原子力発電の利用を求める)/ 14. 海外からの影響力(メガソーラープロジェクトを通じて、海外/企業が日本に影響力をもつ)