メガソーラー後のビジネスを考える

2015年10月2日

私が相談を受ける内容でいまだに断トツのナンバーワンは「太陽光の次のビジネスは何ですか」です。2MW未満の買い取り価格が大きく引き上げられた木質バイオマスに関心を示す方が大変多く、長い時間をとって説明をすることもあります。今回は、この木質バイオマス発電も含めて「ポストメガソーラービジネス」を考えてみたいと思います。

視点を広げて見る再生エネビジネス

まずは、一度視点を広げることからです。近視眼的にメガソーラーに引きずられていては、何も見えてきません。太陽光の次は木質バイオマスと考える方々の多くは、再生エネビジネスというものをいわゆる「創エネ」、それも「電力」の観点からしか見ていません。

これまでも繰り返しているように、私たちが使う最終エネルギーの形態は「電力」だけではありません。電気は全体の4分の1にすぎず、残りは「熱」や「交通」で使われます。特に熱の割合は大きく、日本でも最終エネルギーの半分近くになります。

また、エネルギーが足りない場合、解決策はエネルギーを創り出す「創エネ」だけではなく、消費量を減らすことを忘れてはなりません。いわゆる「省エネ」や「エネルギーの効率化」を進めることです。

ビジネスは、必要であったり、困っていたりするところにこそチャンスがあります。メガソーラーで花開いた再生エネビジネスは、九電ショックの後、新しい段階に入りました。これまで忘れられていたかのようだった「熱」「交通」、「省エネ」「エネルギー効率化」への対応が今後さらに必要となり、求められることになります。

エネルギーミックスのからくりとエネルギー需要量

再生エネ、原発の割合がどうなるかと話題となった将来のエネルギーミックスの議論を考えてみましょう。そこであまり語られなかったのが、ベースとなるエネルギー需要量がこの先どう変化するかということです。

エネルギーをどうやって供給していくかを考えるためには、将来のエネルギーの必要量がどうなるかを予測しないと始まりません。需要量の想定なしにエネルギーが足りる/足りないの議論はできません。

現在、日本で使われている電力量は、年間およそ1兆kWh弱です。震災後、電力需要は減り続けています。ちなみにアメリカは4兆kWhで、人口が2倍なのに電力消費は4倍にもなっています。無駄使いと言わざるを得ませんね。

さて、今回政府が決定したエネルギーミックスは、2030年に再生エネで22~24%、原発で20~22%となったことは既報の通りで、記憶に新しいでしょう。ところが、そのベース(つまり、合計の100%)である全体の電力需要量については、ほとんど伝えられていません。

実は、2013年の実績である9,666億kWhに対して、2030年は送配電のロスを加えて1兆650億kWhという想定です。その根拠は、毎年1.7%の経済成長を前提に計算していて、そのままでは1兆3,000億kWhになってしまうものを、「徹底した省エネ」で17%削減してここまで下げるというストーリーです。

抜け落ちたエネルギーの効率化

こんなものが現実的と言えるでしょうか。人口が減り続ける中、平均1.7%の経済成長率という想定自体が夢物語を紡いだものでしかありません。電力需要は自然なままでも増えないでしょう。さらに需要削減の努力を加えて、将来は減るというのが現実的です。原発が止まっていた時点でのエネルギーミックスの議論で、「将来電力需要が減る」となると、再稼働の理由が無くなってしまうのを恐れたという事でしょうか。

正直言って、今回のエネルギーミックスの数字は砂上の楼閣のようなこのベースの上に乗っかっているので、実現性が低いと思っています。原発の割合はせいぜい示された数字の半分で、その分再生エネがカバーすると思われます。

ドイツでは、ご存知のように2030年の電力のおよそ50%を再生エネでまかなう計画を進めています。現在の電力需要がおよそ6,000億kWh弱で、2030年の電力需要量は、それより10%程度少ない電力量と想定しています。

日本と同様に少子化による人口減少が問題となっているドイツですが、経済成長は日本よりずっと順調です。そんなドイツの電力需要の想定がマイナスで、日本は「徹底した省エネ後」に10%程度の増加とはどういうことでしょうか。

実は、ドイツで大きく需要削減がうたえるのは、エネルギー効率化をしっかり組み入れているからです。一方、日本のエネルギーミックスでは「徹底した省エネ」と書くだけで、エネルギーの効率化については、ほとんど語られていません。

エネルギーの効率化とビジネスチャンス

ここで言う「エネルギーの効率化」と日本が示す「省エネ」とは何が違うのでしょうか。

結論から言うと、どちらもエネルギーをできるだけ使わなくするという点においては、同じ役割を果たします。その結果エネルギーを使わなくなった分だけ、電気をつくらなくても済みます。しかし、ここからは厳密な定義というより、語感からして、相違点があります。

省エネは、どうしても我慢という言葉が裏に透けて見えます。「夏のエアコンの設定温度を28度にして(我が家ではこの温度にしていますが)暑さに耐える」などです。夏は暑さに、冬は寒さに耐えるイメージです。一方、効率化は、これまで10必要だったエネルギーをより少ないエネルギー、例えば8か7で、同じ効果を出すことができるということです。つまり、使用量が減っても生活実感は同じです。

前者の省エネは、人が耐えることに期待し、後者の効率化は、技術の開発が背景にあるように思えます。

つまり、効率化は、技術の進歩によってより少ないエネルギーで必要な機能を発揮できるようになることとも定義できます。例えば、私たちはエアコンや冷蔵庫が経年の改良によって格段に少ない電力で動くことを経験的に良く知っています(ただし、これらのことも日本では、通常省エネとまとめて称されていますが)。

人間が我慢するためには、精神修養的な標語で効果を求めますが、後者の効率化では、技術革新が絶対に必要で、そこには必ずビジネスが存在することになります。

ここで多くの日本人が勘違いしていることがあります。日本の省エネ(ここではエネルギーの効率化も含めましょう)が世界トップクラスだという神話です。財界の首脳陣がよく「乾いた雑巾を絞っている」と言いますが、確かに石油ショック後に企業の工場などの省エネは素晴らしい実績を示しました。

ところが、データを見るとその後あまり進歩していないのです。この間に、ドイツを含めた他国が追い抜いてしまいました。また、一般の家を考えるともっと悲惨で、断熱、窓、扉、換気とどれをとっても貧弱で、エネルギーが簡単に抜けてしまい、漏れ放題です。日本は決してエネルギー効率の高い国ではありません。

こう考えると、日本で今後エネルギーの使用量を減らす方策は山ほどありますし、その成果は十分期待できます。つまり、裏返せば、ビジネスチャンスも同様にあり、ビジネスの観点からそこに目をつけない手はありません。

自治体主導のエネルギー効率化ビジネスの成功例

さて、もっと、具体的なお話をしましょう。私がこれまで何回か紹介している南ドイツの町での事例を見てもらうと、より理解がしやすいと思います。

人口2,500の町ヴィルトポルズリート(Wildpolsried)は、ドイツ南部のバイエルン州の南西の端にあります。現町長が主導して、20年近く前から再生エネの取り組みを進め、市民風車を中心に町の需要の7倍もの電力を再生エネで創り出しています。と言うのが、私がいつも書く「宣伝文句」です。

実は電力だけでなく、熱でもすでに再生エネで需要の100%をまかなえるまでになっています。そして、今回のテーマ「エネルギーの効率化」についても、地味ですが重要な成果を収めているのです。

ドイツなど欧州での家庭の暖房は、お湯を家屋の中で循環させるケースが多くなっています。ちなみに、このお湯を何でつくるかと言うと、これまでは重油ボイラーなど化石燃料でおこなってきましたが、近年木質バイオマスなど再生エネによる熱をつくり出すことがトレンドになってきています。また、個別の家屋にボイラーを持つのではなく、集中的に熱をつくってお湯を熱導管で送るケースが増えてきています。ヴィルトポルズリートは後者で、熱源は主にバイオガスのコジェネによるものです。

再生エネ発電700%の町は、どうやってエネルギーを効率化させたか

さて、本論です。暖房用のお湯を家の中で循環させるのは、電気モーターです。ここでもエネルギー効率化の技術革新はしっかり進み、モーター消費電力は格段に減ってきていました。

町長がこの点に気づいたことが、その後のエネルギー効率化政策につながりました。町で使っていた古いモーターを最新式に変えただけで、最大9割も節電できるということが分かったのです。

新しいモーターに入れ替えるには、当然ですがコストがかかります。しかし、場合によっては、数年もかからず初期投資は回収され、その後は電気代が格段に下がるのです。

町長が考えた仕組みは3つあります。

一つは、エネルギーの診断を町の費用で実施することです。具体的には、エネルギーを診断できる人間を町で雇い、希望する町民が自宅のエネルギーの改善点を無料で知ることができるようになりました。診断は、断熱やこのケースのようにモーターを変えるとどのような効果があるかなど多岐にわたり、費用や回収年数などまで教えてもらえます。

町長が次にしたことは、初期費用を出しても良いというモチベーションを誘発することでした。町は予算を組み、モーターの取り換えに対して補助金を出しました。日本のように半額とか何割とかいう大きいものではなく。わずか1割です。しかし、診断で効果を知っていた町民は補助金を使って交換をはじめました。

補助金は何年にもわたるもので、毎年、一定の割合で交換が進むように設計されていました。例えば毎年1割の家屋、合計10年かけてすべてのモーターを更新するという方法です。残念ながら、単年度予算の日本がもっとも不得意とするやり方です。

さて、最後の施策は、町の経済的な活性化を目指したものです。具体的には、町長はモーターを町で共同購入したのです。数がまとまること、また、長期にわたって安定的に買うことによって、購入価格は下がります。さらに、施工は町の中の業者に限りました。長期間続く仕事は、町にビジネスチャンスを作り出しました。

こうした戦略的なエネルギー効率化政策のもと、新しいモーターに変えることで、すでにモーターの電力消費は最大10分の1になり、町民が払う電気代(町全体から出ていくエネルギー費用)が減少しています。

「町から外へなるべくお金を出さない」これがキーワードです。町から出ていく費用の大きな部分がエネルギー費でした。エネルギーの効率化がエネルギー使用量を減らし、結果として町からのお金の流出を減らします。また、効率化を実施する業者を町内に限ることで、町に仕事をつくって、町にお金を戻したのです。

どうでしょうか。まさに、エネルギー効率化というツールを地域活性化に結び付けた好例です。皆さんの周りでも同様のビジネスと地域活性化のチャンスはたくさん転がっているのではないでしょうか。ぜひ、このヒントを生かしていただきたいと思います。

日本再生可能エネルギー総合研究所 メールマガジン「再生エネ総研」第60号(2015年8月25日配信)より改稿

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日本再生可能エネルギー総合研究所代表/Energy Democracy副編集長。再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信をおこなうエネルギージャーナリスト。民放テレビ局にて、報道取材、環境関連番組などを制作、1998年ドイツに留学し、帰国後バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所を設立、2013年株式会社日本再生エネリンク設立。

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