ドイツでは、送電網への接続を待つ風力発電所や太陽光発電所、蓄電池プロジェクトがますます増加しています。その一方で、既存の再生可能エネルギー発電所が発電のピーク時に出力を停止せざるを得ず、その補償金が支払われるケースも増えています。
こうした状況を受け、ドイツ政府はコスト削減を目的とした「系統接続パッケージ」と呼ばれる改革案の策定を進めています。しかし、この改革が実施されると、これまでドイツのエネルギー転換の要であり、長期にわたって投資の安全性を保証してきた「再生可能エネルギーの優先接続」が剥奪される可能性があります。
研究者たちの間では、再生可能エネルギーの導入を送電網の拡充とうまく統合させる必要があるという点では一致しているものの、今回の改革案が果たして適切な解決策なのかについては、多くの疑問の声が上がっています。

ドイツの「系統接続パッケージ」とは?
ドイツ経済・気候保護省は、再生可能エネルギー発電施設に認められている現在の「電力網への優先接続権」を定めた法改正を計画しています。ニュースメディア「Table.Media」がリークした内部草案によると、同省は再生可能エネルギー事業と、そこで生産された電気を運ぶ送電網の容量との整合性を高める方針を詳細に示しています。この草案では、新規事業に対する優先的な系統接続の縮小、送電網がボトルネックとなっている地域での出力抑制(発電停止)に対する補償金の制限、さらには送電網の増強費用の一部を再生可能エネルギー投資家に負担させることなどが提案されています。
再生可能エネルギーに対する電力網への優先的な接続権は、同国のエネルギー転換における中心的法案である「再生可能エネルギー法(EEG)」の大きな柱となっています。この法律では、送電事業者が再生可能エネルギー事業からの接続申請を優先的に扱うことを義務付けているだけでなく、送電網に供給された電力に対する対価の支払いも保証しています。これにより、投資家は長期的な計画を立てやすくなり、資金調達もスムーズにおこなえるようになっています。
ドイツの再生可能エネルギー普及において、電力網への優先接続は大きな推進力となってきました。現在では、国内の電力需要の約60%を再生可能エネルギーが占めるまでになっています。しかし、電力網の整備はこの拡大スピードに追いついていません。また、変動の激しい風力や太陽光の発電電力量に合わせて需要側を柔軟に調整し、電力網への負荷を軽減する仕組みの活用も、ドイツでは遅れをとっています。
この提案は、ドイツ政府が進める再生可能エネルギー支援枠組みの抜本的な改革案の一部です。経済省による、エネルギー転換に伴うコスト抑制に向けた一連の取り組みの流れを汲むものですが、草案の内容は今後変更される可能性があります。
リークされた今回の提案書は、欧州委員会が加盟国の送電網の拡充、近代化、およびデジタル化を加速させるために進めている施策「欧州系統パッケージ」とは無関係です。

このパッケージの目的は何なのか?
ドイツ政府は、風力・太陽光発電や蓄電池、電力の大口需要家の拡大を、送電網の整備状況とより適切に連動させることを目指しています。
経済エネルギー省の広報担当者はCLEWに対し、「新たな発電所は、そこでつくられた電気が適切に送電され、消費される場所に建設されるべきだ」と語りました。同担当者はさらに、その地域の実際の発電状況や送電網の構造を考慮せずに、新設された発電所からの電力買い取りを保証することは、「もはや適切ではない」と付け加えました。
経済省は今回の一連の提案を通じて、再生可能エネルギー由来の電力を抑制するのではなく、より有効に活用するための仕組みづくりを目指しています。具体的には、再エネの普及と送電網の拡充を連動させる狙いがあります。同省は、これまではプロジェクトの立地や規模を決定する際、既存の送電網の容量不足(ボトルネック)を考慮に入れるメリットがなかったと主張しています。
そのため同省は、今後の風力および太陽光発電プロジェクトについて、送電網の増強があまり必要のない地域に建設すべきだと主張しました。また、送電の停滞を解消するために現地へ蓄電施設を併設することや、必要な送電網拡張にともなう費用を「責任を持って負担する」ことも求めています。これらすべての施策は、結果として消費者の電気料金引き下げにつながるという考えです。
さらに、送電網事業者が接続申請の優先順位を決めるための基準を設定できるようにする計画もあります。これにより、特に大規模な蓄電システムに関連して、単なる投機目的の計画と真剣なプロジェクトを区別できるようになります。近年、送電網事業者には「申請が殺到」しており、接続申請の総量はドイツの総発電容量をはるかに上回っていますが、その多くは実現性の低い投機的なものとなっています。
再生可能エネルギーの拡大により、ドイツの電源構成はかつてないほどクリーンになり、温室効果ガスの排出量も大幅に減少しました。

主な提案内容は何か?
キリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)による連立政権は、7月17日に改革案の草案に合意し、産業団体や各連邦州へ諮問に回しました。2026年1月に経済・気候保護省(BMWK)が提示した以前の草案と比較すると、再生可能エネルギープロジェクトへの支援削減は緩和されています。
主な提案内容は以下の通りです。
- 新規再生可能エネルギー事業の設置場所を誘導するための「リディスパッチ」条項:系統運用者が「容量制限あり」と指定した区間において、再生可能エネルギー投資家は、将来的な出力制限にともなう財務リスクを自ら負うことになります。具体的には、前年度の発電電力量の5%以上が系統に送電できなかった「ホットスポット」において、新規投資家が即時の系統接続を認められるためには、最長6年間にわたる将来の出力制限に対する補償を放棄しなければなりません。ただし、無補償となる出力制限量は、年間発電量の10〜20%を上限とします。系統運用者は今後これらのエリアを指定しますが、その際、電源種ごとに区別する必要があります。つまり、日中に発電が集中する太陽光発電が支配的なエリアであっても、発電パターンが異なる風力発電であれば、新規接続が可能になるということです。なお、以前の草案では、この条項は出力制限が3%に達するエリアに適用され、期間は10年間とされていました。
- 蓄電池プロジェクト、データセンター、産業施設などの新規接続要請に対し、系統運用者が新たな手続きを導入できるようになります。送電網のボトルネック(渋滞)が予想される地域では、例えば蓄電池を活用するなど、系統の状態に合わせて送電量を調整することを条件とした柔軟性合意(flexibility agreement)のもとでのみ接続が許可される場合があります。
- 系統運用者が、地域ごとに異なる建設費用を発電事業者に転嫁できるようにします。経済気象省は、新規の再生可能エネルギー事業者に送電網の近代化や拡張費用の一部を負担させることで、限られた系統容量を効率的に利用する動機付けになると主張しています。この「建設賦課金(construction levy)」は、個人の住宅用太陽光パネルにも適用される可能性があります。具体的なルールや対象地域については、連邦ネットワーク庁(BNetzA)が決定します。
- 2028年までに、申請から試運転に至るまでの系統接続プロセス全体のデジタル化を標準とします。
- 電力需要の増加に合わせて送電網を近代化・拡張するという系統運用者の義務は、引き続き維持されます。
ドイツはなぜ、これまで通りのやり方を続けることができないのか?
電源構成に占める再生可能エネルギーの割合が高まる中、ドイツは投資意欲を高く維持しつつ、いかにしてシステム統合コストを抑えるかという課題に直面しています。
再生可能エネルギーを支える現在の法的枠組みは、その導入量が電力システム全体にほとんど影響を与えなかった時代につくられたものです。しかし、再エネが中心的な役割を担う未来へと向かう過程では、システム自体の適応が欠かせません。そのためには、新規の再エネプロジェクトへのインセンティブを継続するだけでなく、送配電網、蓄電設備、バックアップ電源、連系線への投資、さらには需要側の柔軟性を高めるための施策を並行して進める必要があります。こうした個々の取り組みの連携がスムーズであればあるほど、システム全体の開発コストを抑えることができるでしょう。
一方、経済省によると、リディスパッチ措置として知られる送電網の混雑緩和にかかる費用は、年間30億ユーロに達しています。この措置は、一部の再生可能エネルギー発電設備の出力を意図的に抑制する一方で、他の地域の発電設備を稼働させるというもので、出力を制限された事業者には補償金が支払われます。
電力市場の専門家の間では、再生可能エネルギーへの投資や発電量を送電網の空き容量とより適切に一致させるために、時間帯や場所に応じたきめ細かな価格設定(プライスシグナル)が必要であるという見解で一致しています。これにより、エネルギー転換期における電力供給の信頼性と、無理のない料金設定の両立を後押しすることを目指しています。

計画に対する反応はどうだったのか?
カテリーナ・ライヒ経済相率いる保守派のキリスト教民主同盟(CDU)と連立を組む社会民主党、および野党の両者は、流出した草案を批判した。化石燃料への依存が地政学的なリスクとなりつつある今、この案はエネルギー転換を遅らせる恐れがあるというのがその主張だ。
再生可能エネルギー業界は、今回の変更、特に電力の出力制御に対する補償金を廃止するという案は、多くのプロジェクトの採算性を損ない、リスク評価を著しく困難にする恐れがあると警鐘を鳴らしました。クリーンエネルギー各社はこの提案を「再エネへの攻撃」だと批判し、システム全体のコストを下げるためには、政府は変動型料金制度の導入などを通じて、既存のインフラを最大限に活用することを優先すべきだと主張しました。
この提案がエネルギー転換をどの程度遅らせるのか、そして再生可能エネルギーの導入を本当に「効率化」できるのかは、依然として不透明なままです。投資家がさらなるリスクを回避するようになれば、再生可能エネルギーの拡大にブレーキがかかり、エネルギー転換の進展そのものが危ぶまれる恐れもあります。
オーロラ・エナジー・リサーチ社の分析によると、再生可能エネルギーによる電力の3%以上を抑制しなければならなかった地域は、現在のところ比較的限定的であることが分かりました。同社のリサーチ・アナリストであるルーカス・ギュナー氏は、CLEWの取材に対し「したがって、この概念に基づいた再エネ向けのリディスパッチ規定が導入されたとしても、それが直ちに広範囲な補償金の喪失につながる可能性は低いでしょう」と述べています。その一方で、「これにより、ドイツ全土のプロジェクトの採算性に関する不確実性が生じることは軽視すべきではありません」と付け加えました。
研究者たちはさらなる詳細の発表を待ち望んでいます。一部の優遇措置には賛同しているものの、送電容量が不足している地域において、送電網の拡充を継続するよう系統運用者に促し続ける必要があると多くの研究者が指摘しています。
フラウンホーファーIEEのマルティン・ブラウン氏は、「送電網の状況は、今後予定されている拡張プロジェクトや変電所の新設、設備の強化などによって大きく変化する可能性があります。そのため、『容量制限区域(capacity-limited grid areas)』の指定は、状況に応じて柔軟に変更され、透明性が高く、かつ一時的なものであることがきわめて重要です」と述べています。
アゴラ・エネルギーヴェンデの電力政策専門家、フィリップ・ゴドロン氏は、CLEWの取材に対し、「再生可能エネルギー事業者は、自ら直接コントロールできないリスクを背負わされる恐れがあり、それが発電コストを押し上げる可能性がある。そのコスト増は、送電網側の節減額を大幅に上回ってしまうかもしれない」と述べた。ゴドロン氏によれば、効率的な規制を実現するためには、送電網の運用事業者が透明性を大幅に高める必要があるという。そうすることで、送電網の容量や接続申請の状況、負荷超過、将来の予測といった、きわめて重要な情報の把握が可能になる。
「現在の提案は、ドライバーが必要な場面でハンマーを振り回すようなものです。本来あるべき適切な解決策とは、広い地域を一律に制限するのではなく、特に系統負荷が高いエリアに焦点を絞るべきです。また、系統運用者に対しては、そうしたエリアでのネットワーク容量の拡大を優先するよう義務づけるべきでしょう。さらに、既存の枠組みも考慮に入れなければなりません。風力発電に適した用地の割り当てについては、地方自治体が主導し、系統運用者も関与するかたちですでに確立されたプロセスが存在します。そこに競合するような新たな仕組みを導入すれば、不確実性が生じ、最終的には風力発電の導入目標そのものを危うくしかねません」
この後はどうなるのか?
政府各省庁は法改正案の内容で合意し、業界団体や各連邦州への意見聴取を開始しました。関係各所からの意見書提出期限は2026年7月22日までとなっており、同月29日までには閣議決定が行われる見通しです。
その法改正案は夏季休会明けに議会での審議に入りますが、そこで修正が加えられる可能性があります。
ドイツは2030年までに電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合を80%に引き上げることを目指しており、フリードリヒ・メルツ首相率いる連立政権も、この目標を堅持する方針を表明しています。
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著者:カロリーナ・キルマン(Carolina Kyllman)Clean Energy Wire 記者
元記事:Clean Energy Wire “Q&A: Will Germany’s upcoming electricity grid reform slow down the energy transition?” by Carolina Kyllman, July 29, 2026. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳
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