エネルギー転換の進展の中で新たな機会が生まれ、さまざまなスタートアップが新たなビジネスモデルを構築し、産業構造を変革しつつあります。クリーンエナジーワイヤーのスタートアップインタビュー連載第7回「e.GO Mobile」の翻訳記事をお届けします。
スタートアップ e.GO Mobile は、アーヘン工科大学と連携し、ドイツのメディアではテスラのイーロン・マスク氏と比較される電気自動車の先駆者ギュンター・シュー氏が率いています。同社は、サブコンパクトカーの販売を開始し、電気ミニバスを開発し、ビーチバギーの生産でフォルクスワーゲンとパートナーシップを結んでいます。
e.GO Mobile の共同創業者シュー氏は、排出のない輸送に必要とされる優先順位や燃料電池の見通し、ドイツの他の大規模自動車メーカーについて、クリーンエナジーワイヤーに語りました。
企業概要
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- モビリティスタートアップである e.GO Mobile は、都市での電気サブコンパクトカー e.GO life を15,900ユーロの価格で開発しました。ドイツ国内の顧客は、電気自動車購入者向けのプレミアムにより、4,000ユーロ価格を下げることができます。引き渡しは5月にはじまり、同社によれば4シートモデルの予約は3,300件に達しているといいます。e.GO は、2020年までに年間15,000台の生産を目指しています。
- e.GO Mobile は、ドイツ最大の工科大学のひとつであるアーヘン工科大学で2015年に設立されました。電気自動車の先駆者であるギュンター・シュー氏が創業者であり、彼は現在ドイツポストDHLでも使われている配達用電気自動車 StreetScooter の開発者でもあります。
- e.GO Mobile は、燃料セルレンジエクステンダーを備えた電気ミニバス e.GO Mover も開発しています。シュー氏は、別のベンチャーでハイブリッドなサイレントエアタクシーを開発中であり、これは騒音なしで緊急の配達を可能にする4つのエンジンを備えています。
- ドイツ最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲンは、今年のはじめに、同社の電気自動車モジュラープラットフォームの最初の外部パートナーとして e.GO Mobile と契約を結びました。フォルクスワーゲンは「自社のモデルオファーを補完する電気自動車を市場に呼び込む」ことを意図しています。
- e.GO Mobile には、現在300名の従業員がおり、メディアレポートによれば、年間100,000台の電気自動車の生産を目指しています。
なぜe.GOが重要なのか
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- e.GO とその競合であるソノモーターズの事例から、eモビリティへの移行によって、新しい企業が自動車市場に参入する上での固有の機会がもたらされているかがわかります。その背景には、電気自動車の生産が従来の燃焼エンジンよりもはるかに容易であることがあります。
- e.GO とフォルクスワーゲンの協業は、スタートアップと既存の自動車メーカーが相互メリットのあるパートナーシップを構築できることを示しています。
- 多くの自動車メーカーは、プレミアムラインナップの末端からeモビリティに参入しています。対照的に、e.GO はeモビリティを可能なかぎり手ごろなものにすることを中心目標としています。
e.GOへのインタビュー
クリーンエナジーワイヤーは、e.GO Mobile の共同創業者でCEOのギュンター・シュー氏にインタビューをおこないました。
クリーンエナジーワイヤー:輸送分野での低炭素システムへの移行はうまくっているのでしょうか?今日、私たちはどの地点に立っているのでしょうか?
シュー:現在、電気推進システムへの移行のみがあります。そして、特に都市では、本当の輸送転換からはまだほど遠い地点にいます。多くの活動があり、非常に重要な感性があり、多くの方法があります。しかし、それらの方法は部分的に分岐しています。もし高速充電ポイントの大規模なネットワークを普及させたり、自転車専用レーンを確保したり、カーシェアリングを推進したり、シャトルサービスを実施するとなると、これらのアプローチのすべてが道路容量と競合することになります。これらのアプローチのいずれも実際に成功することはないでしょう。そのため、集合的な発想が必要となります。それは都市の内部だけでなく、都市間でも必要です。私は一貫した包括的なコンセプトはまだ見出せていませんが、多くの人々がこのことを感じ取り、方法を実行に移そうとする政治的な意思をもっていることをすばらしいと思っています。それでも、一貫したアプローチへと結実する重要な知見を取り入れた政策はまだです。
―― 電気自動車が輸送における排出削減の唯一の解決策ではないとお考えでしょうか。
環境面からいえば、eモビリティを巨大なスケールで進めていかなくてはなりません。しかし、税金で大規模な普及を可能にすることはできず、環境を理由にそれを実施すべきでもありません。私はこのトレンドを過剰に支持すべきではないと考えています。現実の市場が必要であり、それがなければ持続可能ではありません。同時に、モビリティは社会的に受容され続けなければなりません。モビリティは重要な公共財であって、100,000ドルもしくはユーロを注ぎ込めるような億万長者のための電気自動車に留まってはいけません。それでは不十分なのです。
数十億の税金を使うことなく、社会全体が参加できなければなりません。そのため、私たちは環境面からも、経済面からも合理的な解決策を探求する必要があります。しかし、蓄電池は今後10年以内に劇的に安くなることはないため、制約に直面することになります。今日、国際的なレベルで蓄電池は部分的に補助を受けていて、バッテリーセルを生産するために必要な投資のほとんどが価格計算に等しく組み込まれていません。いくつかの進展はあると思いますが、これらの2つのトレンドを足し合わせると、蓄電池の価格はしばらく今日の水準に留まったままでしょう。しかし、その価格で燃焼エンジンと同様の早さと航続距離をもつ自動車をつくることはできません、不可能です。ほとんどの人たちは、経済的な理由から燃焼エンジンのモデルを選択し続ける結果になるでしょう。
それでも、私はそれに満足できません。都市内部だけでなく、都市を超えて自動車がもっとも必要とされる場所で、十分に考え抜かれたエコロジカルな解決策が必要です。たくさん運転する必要がある人も可能であれば電気自動車が必要ですが、ハイブリッドカーを運転するべきであり、蓄電池を追加するのであればエコロジカルに意味があるものでなければならないので、燃料電池であるべきです。しかし、価格を下げるのであれば、小規模で高度に産業化されたユニットであるべきです。製造の産業化が私の研究領域であり、この産業化を推し進める企業は世界のどこにもなかったので、私と同僚で新しい会社 e.GO REX を立ち上げました。大規模な自動車メーカーがこうした産業化のアプローチをとってラインナップに加えるには、規制に対応したパワーユニットを手に入れるまでに3〜4年かかるでしょう。私たちは認可を得たパワーユニットを1年以内に導入することができ、これによってより多くの自動車を市場に送ることができると期待しています。こうしたアプローチは、eモビリティをよりロジカルで説得的なものにします。これが燃料電池会社を設立した理由です。
―― 将来的には燃料電池が小型車に組み込まれるとお考えですか?
私たちは、燃焼エンジンとギアボックスでやってきたことと似たようなかたちでよりコンパクトな燃料電池をつくることができます。しかし、燃料電池にあわせて自動車をデザインしなければなりません。現状の自動車はエンジンブロックとギアボックスを中心に組み立てられています。私たちのデザインはこれとは異なるものになると思われますが、いったんある基準や準規範が明確になれば、それが手ごろでコンパクトな燃料電池システムを載せた小型車への道を切り拓くことになり、私たちはそれに貢献したいと考えています。例えば、従来の自動車に載っているトランスミッショントンネルを再構築するとしたら、タンクの中に組み込みます。この目的のために個別の解決策をデザインしてきましたが、これは他の自動車にも移転できます。
−− 現在、e.GOがもっとも重要だと考えるマイルストーンは何ですか?
私たちは、今年はじめに第3の自動車を発表しました。正確には私たちの自動車ではないのですが、フォルクスワーゲンが彼らのモジュラー電化ツールキット(MEB)と私たちの車体アーキテクチャーを使って組み立てたファンカーです。フォルクスワーゲンがデザインし、現在、私たちがエンジニアリングをおこなっており、私たちの工場で組み立てる計画です。これは、フォルクスワーゲンCEOのハーバート・ディース氏と元開発部長のフランク・ウェルシュ氏のすばらしいアイディアからはじまったもので、電気モビリティがもっと受け入れられるような仕掛けをつくる必要があると2人は述べています。しかし、それは展示会用の自動車や100,000ドルの自動車では不可能です。本当に感性に訴えかける手ごろな自動車が必要だったのです。
テスラの電気自動車はいくつかの面で非常に不合理に感じるかもしれませんが、人々の意識に対しては非常に大きなステップとなったので、イーロン・マスク氏に5回ぐらいお辞儀しなければならないでしょう。ユーザーインターフェースやとてつもない加速など、楽しむ要素があります。私たちは、新しい自動車の市場にいる人々の心をとらえなければなりません。欧州、カリフォルニアなどのすべてのショールームにこうしたバギーを置くというフォルクスワーゲンのアイディアがすばらしいのは、このためです。これを見た人は「わあ!すごく楽しそうですね!」と言った上で、もっと合理的な電気自動車か普通の電気自動車を買うかもしれません。私はフォルクスワーゲンのこの戦術が好きなのですが、彼らのような巨大企業が経済的に少量の自動車をつくることができないのは明らかです。だから、私たちが手伝うことができるのはすばらしいことだと思っています。また、フォルクスワーゲンは他の自動車メーカーにモジュラー電化ツールキットを提供したいと考えていますが、それがすばらしいものであったとしても、まずは実践する必要があります。私たちはテストしたことがありますが、これは実際にすばらしいものでした。しかし、フォルクスワーゲンは内部では他の自動車メーカーとこれらのモジュールを共有する準備ができていません。フォルクスワーゲンがコンポーネントの販売可能性を試す一方で、私たちは小規模で率直なパートナーとして貢献することができます。
−− 輸送分野におけるエネルギー転換を推し進め、e.GOが躍進する上で、どういった改革がもっとも重要でしょうか?
自動車開発の初期段階での登録プロセスを簡略化する必要があります。例えば、常にフルスケールの許可や認証が求められますが、暫定的な段階ではごくわずかに特別な許可を得ることしかできません。これが開発を大きく妨げます。多くのサプライヤーがこれを主張していますが、私はサプライヤーの関心が e.GO の進め方により向くようになればと期待しています。なぜなら、現在、彼らは私たちのスピードを実際に遅くしているからです。いまのところ、彼らは私たちのスピードについていくことがまったくできていません。
完全に認証された自動車の連続生産の準備が整うまでには3年かかります。私たちは2年でもできると思いますが、3年目はサプライヤーの習慣と検証プロセスに完全に依存することになります。そこでは、ソフトウェア開発への注力など、サプライヤーたちが異なったアプローチでモノゴトに対処できるようにならなければなりません。
−− ここまで何回かフォルクスワーゲンに言及されています。大規模な自動車メーカーはようやく正しい軌道に乗ったとお考えでしょうか、それとも彼らはまだ追いつく必要があるのでしょうか?
フォルクスワーゲンは、EUの2030年までの輸送分野からのCO2削減目標である60g/kmに対して、驚くべき一貫性をもって結論を出しました。フォルクスワーゲンは、いまや電化にすべてを賭けていて、そうでなければこの目標回廊を達成することができないのです。欧州の自動車メーカーとしてフォルクスワーゲンが気候目標に完全にコミットした勇気は、大変すばらしいと思います。同社の以前の不正行為についての多くの怒号はまだありますが、いったん立ち止まって、同社の取締役と経営陣すべてが承認した抜本的な転換を称賛すべきだと思います。これは、CEOハーバート・ディースだけが望んだ変化ではないのです。他の誰であったとしてもここまでの一貫性を期待できなかったでしょう。戦略の転換は、株主、経営陣、そして、会社全体にとって大きなリスクとなります。しかし、私はいくつかの詳細を知っていることもありますが、フォルクスワーゲンは実行できるだろうと見ています。
新しい電化のツールキットを含めて、この規模での転換を他の大規模自動車メーカーがやるとは思えません。
−− ダイムラーや BMW はどうでしょうか?
まず、彼らの将来の実行可能性が脅威に曝されているわけではないことを確認しておく必要があります。彼らは、大型高級車のプレミアムセグメントからハイブリッドを含む電気モビリティに乗り出すという、テスラがはじめた道筋を辿ることはできるでしょう。その戦略は彼らのブランドと価格に合致しているので、彼らはこの市場へのアクセスを見つけることができます。しかし、フォルクスワーゲンのような自動車メーカーは、主にボリュームセグメントを対象にしているので、異なったアプローチが必要になります。そのため、私はプレミアムカーメーカーについてはそれほど懸念しておらず、フォルクスワーゲンのポルシェやアウディをそこに含めていません。プレミアムというのは、あらゆる面で優れている自動車を意味します。自動車産業に長い間かかわってきた私の経験から、彼らは対応できると自信をもっています。アウディの e-tron やポルシェの Taycan を見ていただければ、それはまさに「わあ!」と言ってしまいたくなる自動車だということがわかると思います。
しかし、マスに届くことができるかどうかが正念場となります。そして、フォルクスワーゲンは社会全体の見本となる賭けに出ているのであって、あなたのようなジャーナリストも含め、私たちみんなが参加する必要があります。私たちは、この勇気をまだ見ぬ顧客のイノベーションへと昇華させなければなりません。私たちみんながイノベーターとなって、ID. Buzz のような電動モデルの実験に取り組む勇気をもつことで、フォルクスワーゲンの計画は機能するでしょう。黒い森に住む祖母を毎年訪ねる旅にそういった電動モデルは適さないと嘆くのではなく、私たちはそういった試みを進めていく必要があります。それには別のソリューションが必要です。あらゆる局面でムーブメントが必要であり、メディアを通じて広報することも必要です。この道筋は社会全体にとって正しいのですが、ビジネスの観点からは控えめに言ったとしても、大変野心的だと思います。
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インタビュー:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire記者
元記事:Clean Energy Wire “Start-up e.GO Mobile hopes to speed up transport transition with cheap subcompact” by Sören Amelang, May 31, 2019. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳