1880年代の電灯と電動機にはじまった電化は、1世紀以上にわたって産業・家庭・都市生活を変え、「電気の時代」を現実のものにしてきた。本稿では、電力がいかにして効率性と技術革新を梃子に化石燃料を置き換えつつあるのかを、6つの歴史的転換点を手がかりにたどる。輸送や暖房など、かつては電化困難とみなされた分野まで射程に入った今日、電化の長い道のりのなかで私たちがどこに立っているのかを描き出す。
本稿は、世界のエネルギーシステムの根幹としての電力の100年にわたる隆盛をたどる、Emberの電化シリーズ の第2弾です。電化の歴史的な勢いと、化石燃料を代替する役割の加速について探求します。
日常となった電化
電力需要は、1世紀以上にわたり、20年ごとに倍増し、容赦なく波のように各分野や地域に拡大してきた。
電化は、気候変動対策が主な動機であり、長く不確実な道のりの第一歩に過ぎないと認識されがちで、最近になってはじまった現象だと誤解されることが多い。しかし、この捉え方は電気の歴史を読み違えている。電化は1880年代、電灯の発明と産業用および家庭用機器への電動機導入とともに、1世紀以上前にはじまった。それ以来、電化は着実に拡大し、建物、産業、そして最近では暖房や輸送にまで及んでいる。
この過程が円滑に進むことは稀だった。電化の波が押し寄せるたびに、技術的、政治的、経済的な抵抗に直面してきた。しかし、電気の核となる利点、すなわち効率性、柔軟性、そしてより質の高いエネルギーサービスを提供する能力が、繰り返し決定的な優位性を示してきたのだ。
重要なポイント
- 電力は有用エネルギーの3分の1を占めている。1970年代のオイルショック以降、1人当たりの最終エネルギー需要の増加はすべて電力によって賄われており、2007年には石油を追い抜き、有用エネルギーの最大の供給源となった。最終エネルギーとしての化石燃料の需要は、すでに3分の2の国でピークに達しており、産業部門では2014年、建物部門では2018年、道路輸送部門ではおそらく2019年ごろに頭打ちになっている。
- 現在、エネルギー需要の約75%は電化が可能だ。電力は照明と機械で圧倒的なシェアを誇っており、これらは最終エネルギー消費のわずか14%に過ぎないが、現在、輸送や低温熱などの、最終エネルギーの約50%を占める、より大きな分野で急速に拡大している。
- 成長の3分の2はすでに電力によるものだ。2018年から2023年の間に、世界の最終エネルギー需要の増加の63%を電力が占め、化石燃料はわずか5%しか貢献していない。この傾向が続けば、大きな変化が起こる。電力需要が年間約3%のペースで成長し続ければ、今世紀末までに最終的な化石燃料の需要が構造的に減少する可能性がある。
本稿では、電化という長きにわたる破壊的な進展における6つの重要な瞬間をたどり、いかにして電気が勢力を拡大し、そして、なぜ再び勢いを増しているのかを示す。Pinto、Fouquet、IIASAから、ほとんど利用されていないデータセットを活用し、有用エネルギーと最終エネルギーの両方を考察する。
電気の歴史を6つの瞬間で振り返る
電化の歴史は、 Hughes、Nye、Freeberg などの著者による多くの書籍で取り上げられてきた。その豊かな歴史の中から、私たちは2025年の状況に関連する洞察を与える6つのターニングポイントに焦点を当てる。
1. 急速な参入(1910年代)
電化の第一波は発明からはじまった。エジソンは1870年代後半に実用的な白熱電球を開発し、テスラとウェスティングハウスは1880年代に交流モーターとシステムを導入した。これらの画期的な出来事は、照明と、ベルトコンベア、ポンプ、家電製品などを動かす動力に焦点を当てた最初の電力競争を引き起こした。
1910年代までに、電気モーターと電球は、産業および家庭環境において、ろうそく、ガス灯、蒸気機関といった旧来のテクノロジーを急速に駆逐しつつあった。電気は、その応用範囲を次々と拡大していった。最初は産業プロセスや工場を動かし、次いで家電製品や照明を通して家庭に普及していったのである。

電力は、当初は割高であったものの、よりクリーンで汎用性が高く、制御可能なエネルギーサービスを提供した。生産規模が拡大し、インフラが整備されるにつれてコストは低下し、最終的には既存のテクノロジーのコストを下回った。高価なプレミアムプロダクトとしてはじまったものが、急速に大量市場向けのコモディティとなり、経済全体でより迅速かつ広範な普及を可能にしたのである。
英国における電気の普及期、特に電灯に関する以下の記述は、電気照明の価格が1920年頃にガス灯と同等のコストになった途端、いかに急速に移行が進んだかを示している。電灯の需要が急速に増加するにつれて、照明用ガスへの需要は急速に減少した。興味深いことに、最終エネルギー需要自体も60%減少している。これは、電気が光を生成する効率がはるかに高いためである。1920年代を通じてガス需要が急速に減少した背景には、「帆船効果(sailing ship effect)」と呼ばれる現象も影響している。これは、蒸気船が登場したときに帆船の効率が向上したように、より優れた新たなテクノロジーからの競争圧力に対応すべく、既存のテクノロジーが革新と効率改善を爆発的に進める現象である。

現在から見れば、これらの分野での電化は不可避なのだが、当時、激しい論争が繰り広げられていた。ガス業界のロビイストは電灯に抵抗 し、都市のリーダーたちは躊躇し、電気モーターは重工業には弱すぎると否定された。新しいテクノロジーは、あまりにも高価すぎたり、複雑すぎたり、あるいは単に非現実的すぎると考えられていた。しかし、その利点が否定できないものとなるまでは、そう思われていたのだ。
電化の第一波が浮き彫りにしたのは、新しい電気技術が性能だけでなく価格面でも旧来の技術を凌駕すれば、変化はいかに速く進むかということだった。また、電気にはエネルギー効率が高いという特性がある。そのため、新しいテクノロジーによって効率化が進めば、より多くのエネルギーサービスを享受しながら、同時にエネルギー需要そのものを抑制することも可能になるのだ。
2. 急速な追随者たち(1930年代)
電化は豊かな工業国、特に米国、英国、ドイツ、日本でもっとも急速にはじまった。そこでは資本、インフラ、需要の条件がすでに整っていたからだ。20世紀初頭、これらの国々では、電気が工場、家庭、都市生活を変革し、電化が急速に進展した。
しかし、電化は豊かな国々だけにとどまらなかった。電気技術のコストが下がるにつれ、より広範な国々でも利用可能になった。1930年代までに、中国、インド、そして中東やアフリカの一部などの経済圏で、電化の第二波が現れはじめた。その拡大は困難で不均一であり、限られたインフラや資本へのアクセスの制約を受けることも多かった。それにもかかわらず、電化への世界的な潮流は定着しはじめていた。

多くの国にとって、電化は経済的な急務であるだけでなく、戦略的な急務でもあった。安定した電力は、産業の発展、近代国家の建設、そして、ますます増大する地政学的影響力のための前提条件となったのである。
コストが低下するにつれ、電化は初期の先行国以外にも広がっていった。優れたテクノロジーは、手ごろな価格になれば、ひとつの地域だけにとどまることはめったにない。
3. 成長を支える力(1950年代)
第二次世界大戦後の期間は、世界経済の劇的な拡大を記録した。欧州の復興、アジアの工業化、北米の消費ブームにより、ほぼすべての地域と分野でエネルギー需要が急増した。しかし、電力は際立っていた —— 単にペースを維持するだけでなく、もっとも急速に拡大する化石燃料さえも凌駕していたのである。1950年代と1960年代、世界の電力消費量は年率約6%で増加し、石油やガスよりも約20%速いペースで成長した。
電力を際立たせていたのは、エネルギーサービスを提供するまったく新しい優れた方法を切り拓く能力であった。冷蔵、空調、そして幅広い家庭用および産業用機器が、大規模に実用化された。これらのサービスの多くは、冷蔵庫の前の氷室、電動工具の手前の手動工具のように、原始的または限定的なかたちですでに存在していたが、電気はそれらを拡張可能で、手ごろな価格で、利用しやすいものにした。

この時代の電化は、エネルギーの役割を拡大した。それは経済の仕組みを変えただけでなく、人々の生活も変え、増加する世界の人口に快適さ、利便性、生産性をもたらした。
この拡大の多くは、技術的なものだけでなく、制度的なものでもあった。国有化、公共投資、国家計画を通じて電化の推進を主導したのは、政府や公的機関であった。フランス、日本、英国などの国々では、国有化された電力会社が電力系統の拡大を調整し、農村地域を電化し、家電製品に補助金を出した。電化は、経済成長、近代的なサービス、国家の発展をもたらすための、意図的で組織的な取り組みであった。
4. エネルギーショックの中での成長(1970年代)
1970年代のオイルショックは、世界のエネルギーシステムに激しい衝撃をもたらした。数十年続いたほぼ継続的な成長の後、世界のエネルギー消費は停滞し始めた。下図に示すように、石油、石炭、ガスの1人当たりの消費量は1970年代に横ばいとなり、それ以来横ばいのままである。

しかし、電力はより強靭であることを証明した。価格ショック、経済的混乱、省エネへの重点化の中でも、一人当たりの電力需要は上昇し続け、1970年代の二度のショックの影響をほとんど受けなかった。同時に、電力は新たな国や地域へと広がり、以前は電力のなかったコミュニティに電気をもたらした。電化が広まるにつれ、その恩恵も広がった。日常生活はより生産的になり、教育と医療は改善し、平均余命も伸びはじめた。
世界の平均的な消費者にとって、明確な傾向が現れていた。エネルギーへの欲求の高まりは、分子(化石燃料)ではなく電子(電気)への需要へとますます変換されていったのである。
5. 主導権を握る(2007年)
2007年、電力は有用エネルギーの最大の供給源となり、実際に提供されるサービスの面ですべての他のエネルギーキャリアを追い抜いた。今日、電力は有用エネルギーサービスの34%を供給しており、そのシェアは上昇し続けている。建物部門では、電力が有用エネルギーの45%を、産業部門では35%を供給している。

この変化は、一次エネルギーや最終エネルギー消費に焦点を当てた従来のエネルギー統計には必ずしも反映されていない。これらの指標は、化石燃料に固有の熱損失を見過ごすことが多く、そのため電力の役割を過小評価している。しかし、有用エネルギー(= 走行距離や産業生産トン数など、実際にサービスを提供するエネルギー)の観点から測定すると、電力はすでに主導権を握っている。電力は今や、世界のエネルギーシステムの最大の部分であるだけでなく、その成長の主要なエンジンでもある。
6. 化石燃料消費の停滞(2014年)
電化が深まるにつれ、化石燃料消費への影響はより顕著になっている —— 相対的な比率だけでなく、絶対的な量においても。1980年代以降、最終エネルギー消費に占める電力の割合は、ほぼすべての部門で増加している。

時を経て、一連の相対的なピークと停滞は、化石燃料需要の絶対的な停滞へとつながった。電化とエネルギー効率の向上により、3つの主要な最終用途部門のうち2つで化石燃料需要がピークに達し、頭打ちになった。産業部門の2022年の消費(詳細なWEBデータがある最新の年)は2014年のレベルを下回っており、建物部門からの2022年の需要も2018年のピークを依然として下回っている。輸送部門もおそらく今年ピークを迎えるだろうが、確認にはさらに1、2年かかるだろう。2018年から2023年にかけて、最終エネルギー需要の増加の63%は電力によるものであり、化石燃料からの寄与はわずか5%に過ぎなかった。
2000年から2018年にかけて、化石燃料の需要は年率1.8%で成長したが、2018年から2023年にかけては年率0.1%の成長にとどまっている。化石燃料使用の急速な構造的拡大の時代は終わった。需要は今、高い水準で横ばい状態にある。

同様のパターンは国レベルでも観察できる。電力の成長は、次々と各国の最終化石燃料需要のピークアウトを促している。IEAが対象とする155か国のうち3分の2近くが、2019年までに最終化石燃料需要のピークを迎えている。
今日の決定的瞬間
これらを経て現在に至る。私たちは今、電化におけるもうひとつの重要な転換点に立っている。かつては電化が不可能と考えられていた多くのエネルギーサービスが、今や技術的にも商業的にも実行可能になっている。電気は非常に効率的であるため、このシフトは、電力需要が増え続ける中でさえ、全体的なエネルギー需要を抑制し、化石燃料需要を構造的な減少へと押しやるだろう。
可能性の天井はかつてないほど高まっている
電化の現在の段階を定義するのは、今やその射程圏内にある幅広い分野とテクノロジーである。最近まで、電化は主に照明と動力に限られており、あわせても最終エネルギー需要の14%を占めるに過ぎなかった。
過去20年間で、他分野の電化に対する主要な技術的障壁は着実に低下してきた。初期の電気自動車(EV)は航続距離の短さとトルクの低さに悩まされ、ヒートポンプは暖房需要がもっとも高い寒冷地で苦戦していた。EVの航続距離と出力が向上し、新世代のヒートポンプが寒冷な条件下でも効果的に動作するようになったことで、これらの制約は大幅に解消された。
過去10年間で、これらのテクノロジーはコスト競争力ももつようになった。EVの初期費用は、多くの市場で内燃機関車に匹敵するようになっている。ヒートポンプは寒冷地においてさえ、より効率的で意味のある節約を提供する。電気モーターは、より安価で、よりコンパクトになり、広く導入可能になっている。
その結果、道路輸送と低温熱という2つの主要な部門が今、電化に向けて開かれている。これらはあわせて世界の最終エネルギー需要のほぼ50%を占める。ほんの10年か20年前まで、これらの分野は手の届かないものと考えられていた。今日、それらは電化拡大の次のフロンティアとなっている。

1910年代、技術的優位性とコスト低下の組み合わせが、電気技術の急速な導入を促進した。今日、同様のダイナミクスが電気自動車で展開されており、中国や欧州全域のような主要市場でコストパリティに達するにつれ、導入が急激に加速している。
そして1930年代と同様に、新興経済国は急速な追随者(ファストフォロワー)であることを証明している。新興経済国の5分の1は、すでに電化レベルでOECD諸国を追い抜いている。
電力はまた、1950年代に家電製品で見られたように、まったく新しいエネルギーサービスを切り拓き続けている。現代の例のひとつはコンピューティングと人工知能(AI)であり、これは「思考の電化(electrification of thinking)」と見なせるかもしれない。
そして、70年代と同様に、電力が他の燃料を凌駕し続ける —— あるいはそれらを減少へと押しやることさえ —— と予期すべきである。
電力の成長は「乗数効果」をともなう
電化が輸送や暖房という広大な新領域に拡大するにつれ、それに追いつくために電力需要の伸びが急増するだろうと多くの人が想定している。結局のところ、これほど大規模でエネルギー集約的な分野を電化することは、負荷の暴走的な増大を招くレシピのように聞こえるからだ。
しかし、現実はもっと驚くべきものだ。急速な電化は、ほとんどの大胆な脱炭素化シナリオで想定されている規模であっても、世界の電力需要の伸びの大幅な加速を必要としない。ほとんどのシナリオでは、世界の電力需要は2050年まで年率約3%で成長すると想定している —— これは1980年以来、電力が享受してきたのと同じ成長率である。もちろん、一部の地域ではより速い成長を意味するだろう。今後の記事で探るように、OECDの成長は著しく鈍化しており、加速が必要になるだろう。しかし世界レベルでは、深い電化は本質的に、長年にわたる電力需要の成長トレンドの延長線上にある。

電力需要の急増なしに電化できる理由のひとつは、電気技術の効率性にある。EVやヒートポンプなどの新しい電気技術は、化石燃料を使用する同等のものよりも約3倍効率的である。つまり、新たな電力1単位で、2〜3単位の化石燃料エネルギーを代替できることを意味する。言い換えれば、構造変化は需要の加速からではなく、電化自体の乗数効果から生じる。電気モーターが蒸気機関にとって代わったり、照明が電化されたりした初期の波と同様に、電力の1エクサジュールごとに、他の最終エネルギー消費の2〜3エクサジュールを代替できるのだ。
差し迫った化石燃料消費の減少
電力がエネルギー需要の成長を牽引する一方で、化石燃料の使用はピークに近づき、減少へと向かっている。以下のIEAの公約達成シナリオ(APS)のチャートは、世界経済が拡大しているにもかかわらず、総エネルギー消費が横ばいになりはじめていることを示している。これは、電力が輸送、暖房、産業などの分野に急速に進出し、化石燃料を代替しているためである。はるかに高い効率性をもつ電気技術は、同じサービスを提供するのに必要な総エネルギーを削減するため、最終エネルギー需要の伸びは低下する。電力が主導権を握るにつれ、化石燃料需要は横ばいになり、2030年以降は減少する見込みである。

私たちは電化において長い道のりを歩んできた。歴史の大部分において、電力は他の形態のエネルギーとともに成長してきた。しかし、過去数十年の間に、電力はエネルギー需要の成長における主要な供給源となった。そして今、1世紀にわたる勢いを背に、電化はその次の幕へと入ろうとしている。すなわち、化石燃料を代替し、世界のエネルギーシステムのバックボーンとなることである。
謝辞
著者は、本稿で使用された4つの歴史的データセットに感謝の意を表する。Simon De Stercke 作成の IIASA「Primary, Final and Useful Energy Database」、Roger Fouquet 著『Heat, Power and Light: Revolutions in Energy Services』(Edward Elgar Publications、2008年)、Pinto らによる「The rise and stall of world electricity efficiency: 1900–2017, results and insights for the renewables transition」(『Energy』、2023年)、および国際エネルギー機関の「World Energy Balance」。
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著者:Daan Walter, Sam Butler-Sloss, Kingsmill Bond(Ember)
元記事:The Electrotech Revolution “The long march of electrification: A century of growth in electricity has brought us to the Age of Electricity” Jul 22, 2025 = Ember “The long march of electrification: A century of growth in electricity has brought us to the Age of Electricity” Jun 25, 2025. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳
@energydemocracy.jp100年かけて世界を変えた“電化”の物語⚡ 1880年代の電灯💡からEV🚗・ヒートポンプ🔥まで。 100年以上続く「電化の波」が、ついに化石燃料を追い詰めはじめている——そんな歴史と今を、6つの転換点で解説しました⚡️ 👉 詳しくは「電化という長い道のり|Energy Democracy」をチェック🔗 #電化 #エネルギー転換 #再エネ #EV #ヒートポンプ #気候変動 #エネルギー政策 #EnergyDemocracy
