世界的なエネルギー転換期を迎え、数十年以内に太陽光発電、風力発電、蓄電池が優勢になることが不可避かつ不可逆的になります。まったく新しいシステムが生まれようとしているのです。しかし、テクノロジーだけでは私たちを救うことはできません。私たちには、マインドセット、価値観、そしてガバナンスの集合的な転換が必要なのです。
エネルギーシステムは世界的なフェイズシフトの渦中にあり、既存の化石燃料産業は経済的要因によって今後20~30年の間に完全に破壊され、太陽光、風力、蓄電池にもとづく新しいエネルギーテクノロジーにとって代わられるでしょう。
これは歴史上最大かつ最速のディスラプションのひとつであり、入手可能な最良のデータはすべて、文明を完全に脱線させる以外には、これを止めることはできないことを示しています。しかし、それは社会の選択によって、遅らせたり、劣化させたり、加速させたり、最適化させたりすることができます。
本稿では、太陽光発電、風力発電、蓄電池の指数関数的な拡大をもはや防ぐことはできず、エネルギーシステムにおける世界的なティッピングポイントを通過した可能性が高いことを、もっとも確実な科学的予測手法がいかに明確に示しているかを探ります。
つまり、文明規模の大災害が起きない限り、電力システムの相転移による世界のエネルギーシステムの根本的な変革は、単に進行中というだけでなく、変曲点(inflection point)を過ぎたということです。新たなエネルギーシステムの出現は、本質的に不可避なのです。
これは良いニュースではあるのですが、それだけではありません。化石燃料の転換は不可避である一方、化石燃料が今後数十年で(おそらく今後数十年以内に)ディスラプションと経済的陳腐化に直面することを意味します。それは、世界中で最大数千万人の生活を脅かすものであり、ディスラプションの他の分野への影響や波及については、まだ検討すらはじまっていません。また、次のエネルギーシステムを可能な限り最適な形で利用・設計し、旧来の産業が黄昏時を迎える際の市民不安を緩和するようなかたちで実現するには、多くの障壁が残っています。この来るべき変革を理解するためのシステム思考がなければ、次のシステムへの道筋は、地政学的不安定、社会崩壊、経済危機が巨大なスケールで散見されることになるでしょう。
取り組む課題はきわめて重要です。私たちは、その恩恵を最大限に享受し、可能な限り広く分配できるよう、新しいシステムの展開を最適化する方法を認識するだけでなく、「環境・社会・ガバナンス(ESG)」問題へのアプローチと、その潜在的な社会的、経済的、政治的影響を再考する必要があります。また、その道程における幅広いリスクも認識する必要があります。
それでも、そのような知識で武装することで、私たちはより良い選択をすることが可能になり、新しい世界への針路をはるかにスムーズに切り開くことができます。
ディスラプションのパターン
研究者や複雑系理論家たちは、テクノロジーディスラプションの展開によってエネルギーシステムが変容するという主張に追いつきはじめています。
こうした見解の初期の提唱者であるトニー・セバは、10年ほど前、太陽光発電、風力発電、蓄電池のコストと性能が指数関数的に向上すれば、その普及率は指数関数的な「S字カーブ」を描くだろうと予測しました。これらのテクノロジーは、コストの低下と性能の向上により、基本的な経済性から最終的には既存の化石燃料産業と競合することになる、と彼は述べました。
私は2014年にVICEで、セバの著書『Clean Disruption of Energy and Transportation(エネルギーと輸送のクリーンディスラプション、未邦訳)』についてインタビューした最初のメインストリームジャーナリストの一人でした。当時、セバの主張はほとんどクレイジーと見られていました。電気自動車が内燃機関に打ち勝つ? 10~15年以内に内燃機関を駆逐するほど安くなる? 2030年ごろにはソーラーが世界を席巻し、化石燃料を破産させる?
しかし、セバが予測したことの多くは実際に起こっています。彼の予測は、歴史上のテクノロジーディスラプションのパターンにもとづいています。これは非常に一貫したパターンであるため、経験的にマッピングすることができ、経験的に堅実な未来予測に使用することができます。
人類の歴史において、テクノロジーディスラプションがどれほど普遍的なものであるか、多くの人は気づいていません。ナイロンから合成ゴムに至るまで、ボールペンから避妊薬に至るまで、ワクチンからビデオテープに至るまで、飛行機から写真に至るまで、車輪の発明から印刷機に至るまで、人類の歴史におけるテクノロジーディスラプションは常に同じパターンをたどってきました。コストが低下し、性能が向上するにつれて、新しいテクノロジーは社会の重要なニーズや需要を満たす上でより優れ、より安価になります。そして新しいテクノロジーは「離陸点」に達し、その後急速に旧来の技術にとって代わります。新しいテクノロジーの成長軌道と旧技術の衰退軌道は、ともにS字カーブのかたちをとります。
もっとも重要なことは、新しいテクノロジーは単純な1対1の代替ではないということです。それは、システムのルールや特性、そしてその仕組みそのものを変える、その分野内での「相転移(phase transition)」を意味します。これは通常、以前とはまったく異なる方法で運営される、より大きな市場を生み出します。
転換点を超えたソーラー
技術による革新はますます科学的研究の対象になってきています。現在では、テクノロジーディスラプションのパターンがどのように機能するかを考慮しようとする実証的根拠のある研究が数多くあり、それらを用いて、来るべき技術的変化について非常に信憑性の高い予測が立てられています。
エクセター大学のグローバル・システム・インスティテュート(GSI)は昨年、GSI、世界銀行、ケンブリッジ大学、UCL、ケンブリッジ・エコノメトリックスに所属する研究者の共著として、このような研究を発表しました。
彼らの結論は力強いものです:
過去の政策によって技術的な軌道がつくられたため、世界的な太陽光発電の転換点が過ぎ去った可能性がある。つまり、追加の気候変動政策がなくても、太陽光エネルギーが徐々に世界の電力市場を支配するようになるということだ。
この研究では、グローバルなデータ駆動型エネルギー技術・経済シミュレーションモデル(E3ME-FTT)を用いて、2060年までの太陽光発電(PV)普及を予測している。その結果、以下のことが判明しました:
E3ME-FTTによれば、今世紀半ばまでには、自然エネルギーを支援する政策が追加されなくても、太陽光発電がミックスを支配するようになるという。これは、太陽光発電のコストがすべての代替エネルギーのコストを大きく下回るためである。太陽光発電の規模は、現在の急速かつ指数関数的な普及軌道と比較的高い学習率により、拡大する。
論文によれば、風力発電と蓄電池は、非常によく似た指数関数的なS字カーブを描いていますが、太陽光発電に比べればスケーリング速度は遅くなっています。
この研究は、既存のエネルギー専門家による従来の予測は、時代遅れのデータ、直線的な仮定、テクノロジーディスラプションが実際にどのように進化するかについての欠陥のある理解に基づいているため、常に間違っていると指摘しています。国際エネルギー機関(IEA)の世界エネルギー見通し(World Energy Outlook)が毎年一貫して間違っているだけでなく、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の予測も、21世紀の残りの大半は化石燃料が支配的なエネルギー源になると見ているのだから、正しいはずがないのです。
このモデルはまた、ディスラプションがもたらす普及のダイナミクスと「国際的な波及効果」によって、積極的な気候変動政策の実施に大きな障壁がある貧しい国々でさえ、ソーラー革命のプレーヤーになることができることを示唆しています。この論文では、以下のことを指摘しています:
… 世界のほとんどの地域が、低コストの太陽エネルギーを利用できるようになる可能性が高い。そのため、ある地域では、たとえその地域での累積投資額がわずかであっても、生産規模やコストに対する他国の影響によって、太陽光発電ともっとも安価な代替エネルギーのコストが同等になる可能性がある。このことは、途上国が気候変動政策を実施する政府の能力が限られている場合でも、太陽エネルギーの現実的な市場になる可能性があることを意味している。
太陽光発電が今後優位に立つことは、もちろんエネルギー投資の観点からも大きな結果をもたらします。投資家にとっては、この破壊的技術が指数関数的な成長軌道を描いているところに、圧倒的な方向性を見出すべきだということが示唆されます。しかし、同じ分析によれば、今後数十年の間に減損が避けられない化石燃料資産に縛られた何兆ドルもの投資に対する巨大なリスクも浮き彫りになっています。
太陽光発電が覇権を握るまでにはまだ数十年かかる(後述するように、もっと早くなるだろうが)という考えに既存の産業界はしがみつくかもしれませんが、太陽光発電の指数関数的な変曲点は2020年代にはじまる一方、特に石油、ガス、石炭の崩壊は2020年代半ばから2040年にかけてはじまります。これは投資家に大きなリスクをもたらします。
ソーラーだけでは救えない
GSIが使用しているモデルはかなり保守的であることは注目に値します。投資、性能向上、コスト低下、普及という好循環の自己強化サイクルを生み出す破壊的イノベーションにおけるフィードバックループを考慮しようとしていますが、歴史上のテクノロジーディスラプションの実際のパターンにもとづく体系的な枠組みから導き出されたものではありません。また、ディスラプションをひき起こす新しいテクノロジーと駆逐される旧いテクノロジーとの間の自己強化的フィードバックループも無視されています。つまり、このパターンのスピードと相互に結びついた複雑さが過小評価されているのです。そのような非常に保守的なアプローチにもかかわらず、この論文は次のような驚くべき評決を下しています:
これ以上のエネルギー政策の変更がなければ、今世紀半ばまでに太陽光発電が将来的に発電の主流になる可能性が高い。技術コストと普及の共進化が強化されるため、私たちの分析では、現在と過去のデータ傾向から、太陽エネルギーの転換点が過ぎ去った可能性が高いという定量的証拠を立証している。いくつかの主要市場において、太陽光発電と蓄電池の合計コストがすべての代替技術と同等になれば、世界的な普及とさらなるコスト低下は不可逆的なものになる可能性がある。
つまり、世界のエネルギーシステムは、システム用語で「相転移」と呼ばれるような、とてつもない変革の真っただ中にあると信じるに足る、確かな経験的根拠があるということです。相転移は中立的なものであり、何かが良くなったり悪くなったりすることを意味するのではなく、新たなルールや特性に従って構造化された異なる関係によって定義される、根本的な状態の変化を意味します。
このデータは、この相転移がすでに不可逆的であり、今世紀半ばまでに太陽光、風力、蓄電池が支配的な新しい世界エネルギーシステムになることは避けられないことを強く示唆している。
しかし、この研究はまた、この技術的変革自体が私たちを救うわけではないことも強調しています。ゼロカーボン・エネルギーシステムを確かなものにできなければ、太陽光発電が優位に転じたとしても、気候変動の緩和や気候変動目標の達成にはつながらないのです。
なぜか?
この論文では、「レジリエントでも持続可能でもない」太陽光発電中心のシステムになりかねない、さまざまな障壁や課題を指摘しています。
真のレジリエンスと持続可能性を実現するためには、最適な選択が必要です。系統の安定性、熱利用と産業の電化、金融資本が届きにくい地域や部門に流れるようにすること、重要な鉱物の供給を誤って管理しないようにすること、一方で、化石燃料生産に依存する労働者の権利を奪うことなく、混乱が生じないような公正な移行を考える必要があります。
つまり、ここでの重要なポイントは以下の通りです。
- 私たちは、基本的な経済的要因にもとづく、太陽光、風力、蓄電池の3つの主要テクノロジーに関連するテクノロジーディスラプションによって推進される、加速する世界的なエネルギー相転換の真っただ中にいる。
- 確かな実証データによれば、太陽光発電の普及は世界的な転換点を過ぎており、今後30年以内に太陽光発電が人類文明の主要なエネルギー源になる。
- エネルギーシステムの必然的な変革だけでは、気候変動は解決しない。気候変動を解決するために、このエネルギー相転換を活用するには、まだ多くの社会的選択が必要となる。
研究グループは指数関数的な変化に目覚めつつある
この調査結果は、他のいくつかの研究グループによっても裏付けされています。オックスフォード大学の新経済思考研究所(Institute for New Economic Thinking)は、太陽光、風力、蓄電池の指数関数的な成長率により、早ければ2040年にも化石燃料を迅速かつ完全に置き換えることができ、その過程で26兆ドルを節約できることを発見しました。この研究では、さまざまなシナリオがモデル化され、そのうちのひとつは、エクセター大学の研究チームが発見したよりもはるかに早い時期に、エネルギーシステムが転換される可能性を示しています。
この研究はその後、査読を経てJoule誌から出版されています。
ケンブリッジ大学、マサチューセッツ大学、ロンドン大学SOAS、オープン大学、エクセター大学の科学者が参加する別の研究チームは、2021年にNature Energy誌で査読付きの研究を発表し、同様の結論に達しました。
著者らは、「エネルギーシステムの変革は進行中」であり、純粋にキーテクノロジーの指数関数的進化によって、「新たな気候変動政策とは無関係に」、経済的・戦略的に驚くべき意味を持つ、まったく新しい「新興エネルギー地理学(emerging energy geography)」が形成されるとしています。この研究では、「実践を通じた学習と普及のダイナミクスの正のフィードバック」によって、ソーラーパネルが「2025年から2030年までにもっとも低コストの発電技術になる … EVも同じような勝者総取り現象を示すが、その時期はより遅い。熱供給テクノロジーは、家庭の炭素強度が徐々に低下するにつれて進化する。」と見ています。
化石燃料と原子力は2030年までにすべて「ピーク」を迎え、太陽光が「市場の大半」を占め、次いでネガティブ排出に使われる「バイオマス」と風力が続きます。繰り返しますが、これは政府の政策の有無にかかわらず、根本的な経済力学によって起こることなのです:
移行はすでに進行中であり、新たな気候変動政策とは無関係に、エネルギーシステムの現在の軌跡において、いくつかの座礁が起こり、それには世界的に危うい分配マクロ経済的影響がともなうでしょう。
Exponential Roadmap 報告書も重要な研究のひとつで、さらなる政策がなくても、「風力、太陽光発電、蓄電池の現在の指数関数的な軌道は、2030年までにエネルギー関連排出量の半減を達成するのに十分である」と指摘しています。同様に、電気自動車とプラグイン・ハイブリッド乗用車は、「現在の高い指数関数的な成長曲線」を継続することで、たとえその曲線が減速したとしても、2030年までに新車販売台数の100%近くに達する可能性が高いと指摘しています。
ロンドンを拠点とするシステム変革コンサルタント会社、システムIQが最近発表した2つの報告書も、これらの調査結果を裏付けています。2023年1月に発表された報告書「ブレークスルー・エフェクト(The Breakthrough Effect)」は、電力セクターにおいてすでに転換点を超え、強化されたフィードバックループが行動の「中心的な原動力」になると結論づけています。これにより、太陽光発電と風力発電が優位に立つ道が開かれます。また、代替タンパク質や植物性タンパク質も、コスト、味、食感において動物性タンパク質と同等になりつつあります。
重要なのは、この研究が「ティッピング・カスケード」と呼ぶものの存在を明確に指摘していることです。これは、ある分野におけるティッピング・ポイントが、他の分野にも連鎖的に影響を及ぼし、その結果、それらの分野でもティッピング・ポイントを加速させる可能性があるというものです。つまり、ある生態系における気候の転換点が、他の危険な転換点を超えるリスクを加速させ、高めることがあるように、これはテクノロジー領域全体にわたってポジティブにも起こりうるということです。
RMIのキングスミル・ボンドは、世界のエネルギーシステムの転換期が過ぎつつあることを示す豊富なデータをまとめています。化石燃料の需要がピークに達している一方で、クリーンエネルギーは変曲点を通過しているという証拠が積み重なっています。
エネルギーシンクタンクの Ember も、「2023年 世界電力レビュー」の中で、化石燃料が新たな衰退の時代を迎えようとしており、「化石時代の終わりの始まり」だと予測しています。
テクノロジーは私たちを救わない
指数関数的なエネルギーの変化がここにあり、避けられないという良いニュースにもかかわらず、これらの調査や報告書に一貫して見られるテーマは、世界のエネルギー・電力システム全体が急速な変革を遂げようとしている現在のペースであっても、その変化のペースに任せておくだけでは十分な速さにはならないということです。
例えば、Nature Energy誌の研究は、太陽光、風力、蓄電池、電気自動車といった急速なテクノロジー普及のダイナミクスが、この10年、そして次の10年の間にエネルギーと輸送システムを一変させるとしても、世界の平均気温は2.6度上昇すると警告しています。
これは、危険水域(実際には安全ではない1.5℃の「安全限界」をほぼ1度上回る)に達しているだけでなく、人類社会の存続を危うくし、文明の「安全な活動領域」を劇的に縮小させるほどの破局的な事態を招く可能性があると広く考えられています。
このテーマは、ここまで論じてきた科学的文献に共通しています。
しかし、上記の研究の多くは、非線形システムのダイナミクスにキャッチアップしているにすぎず、従来のサイロ化された思考は、ディスラプションがいかに急速に現状を覆しうるかについての理解を妨げています。上記のモデルにはいくつかの限界があります。そのうちのひとつは、複数の生産部門にまたがるテクノロジーディスラプションの複雑な収束をうまくモデル化できていないことです。また、テクノロジーディスラプションがどのように機能するかについて、経験的に確立された理論的枠組みに十分に根ざしていないことがほとんどです。例えば、システムIQの研究では、消費者心理がテクノロジー導入の促進要因や障壁となることを重視しています。この仮定は間違っています。消費者感情はほとんど無関係である傾向があり、意味のある因果的役割を果たすわけではありません。実際には、既存企業よりも競争力をもって安価なコストで重要な市場ニーズを満たすテクノロジーの性能が影響を与えるという、歴史上のディスラプションのパターンと矛盾しています。それは、これらの研究のほとんどが(オックスフォードのモデルを除いて)、何十もの歴史的事例における実際のディスラプションのパターンから導き出されたものではないモデルを用いているからです。
2021年8月、私は Rethinking Climate Change: How Humanity Can Choose to Reduce Emissions 90% by 2035 through the Disruption of Eneryg, Transport, and Food with Existing Technologies の編集責任者を務めました。この本は、RethinkX から出版され、アダム・ドーア、ジェームズ・アービブ、トニー・セバとの共著です。これは、入手可能な予測の中でもっとも堅実なもののひとつだと私は考えています。これは、何度も実証されてきた、はるかに豊かなディスラプションの枠組みにもとづいています。
先行研究に先駆けて発表された私たちの報告書は、先述の研究結果と同様に、何もしなくても、エネルギー分野だけでなく、輸送や食品分野においてもディスラプションの力学が働き、今後20年以内に主要な新技術が大量導入へとスケールアップすることを明らかにしました。この変革を推進する中心的な破壊的テクノロジーは、エネルギーでは太陽光、風力、蓄電池、輸送では電気自動車と輸送のサービス化(transport-as-a-service, TaaS)、食品では精密発酵と細胞農業です。
この報告書は、ディスラプションの実際のペースは、従来のアナリストが考えているよりもはるかに速いだけでなく、先述の研究結果よりもさらに速いことを示しました。その理由のひとつは、これらのディスラプションがセクターを越えて収束し、連鎖的な効果をもたらすこと、そしてそれがセクターを越えたフィードバックループにつながり、エネルギー、輸送、食糧システムの複合的な変革をさらに加速させることを、十分に織り込んでいないからです。
しかし、先述の研究同様、RethinkX の報告書では、このようなディスラプションが生じたとしても、現在のところ、一時的に地球の気温が2℃を突破する可能性があるとしています。「立ち往生(Get Stuck)」シナリオでは、排出量が減少しても、約10年間は気候の危険水域に入り、破滅的な結果がもたらされる可能性があることが示されました。
言い換えれば、1.5℃はすでに過ぎ去ってしまったのです。これはかなり厳しい結果です。しかし、希望を抱かせる強い根拠もあります。報告書によれば、制度的な障壁を取り除き、各国政府を動かして公正な移行を支援することで、私たちはディスラプションを加速させ、2035年までに排出量を90%削減することができます。
また、先述の「ディスラプション加速」シナリオでは、適切な選択をすれば、これよりさらに速く前進できます。エネルギー、輸送、食糧システムの中核産業を包括的に変革することで、CO2排出コストを劇的に削減し、気候を真の安定に戻す作業を開始することができます。
変化がやってくる、シートベルトを締めよう
結局のところ、世界のエネルギーシステムは、今世紀半ばまでに、そしておそらく今後20年以内に結実するであろう、経済力学に後押しされた必然的な変容を遂げつつあるということです。しかし、この変革はエネルギーシステムの相転移にとどまらず、輸送システムや食料システムの相転移も含んでいます。また、以前の記事で詳しく説明したように、人工知能(AI)の台頭による情報の相転移も起きています。
この変容は、文明と社会が近い将来どのような姿になるのかについて、多くの緊急の問題を提起しています。気候変動は、均衡を破り危険地帯へと押しやられつつあるいくつかの惑星の境界線のひとつに過ぎないのです。
私がこの重要な時期を「グローバル・フェイズシフト」と呼んでいるのはそのためです。グローバルシステム全体が、根本的な変容という止めようのないプロセスを経ているからです。しかし、理解すべきもっとも重要なことは、このメタモルフォーゼがそれ自体で私たちの地球規模の深い課題を解決するわけではないということです。間違った選択をすれば、この変容は混沌とした暗黒時代への転落になりかねません。より良い選択をすれば、こうした力学を利用して、惑星の境界の中で豊かさを実現する新たなシステムへと進化することができるでしょう。
加速か、遅延か?
本稿で取り上げた研究はすべて、世界のエネルギーシステムが急速に変化し、新しい状態に移行しつつあることを強調しています。この相転移を止めることはできません。つまり、新しいエネルギーシステムのルールと特性がどのようなものかを理解する必要があるのです。
本稿で取り上げた研究はすべて、S字カーブの軌道は加速させることも遅らせることもできることを強調しています。現在の変革プロセスを止めることはできませんが、誤った選択によって減速させたり、効果を低下させるような方法で展開させたりすることはできます。また、加速させることもできます。研究はまた、さまざまな政策的、制度的な障壁を指摘しています。これらの障壁に対処しなければ、大量導入による指数関数的なS字カーブの拡大効果が、時間の経過とともに劇的に長引いたり、遅くなったりする可能性があります。
これには、高騰を続ける化石燃料への補助金、不十分な規制基準、系統拡張のボトルネックなどが含まれます。
その中でも特に重要なのは、発展途上国での導入に対する投資の不足であり、それ自体がより根強い政治的・経済的な構造的障壁に根ざしています。エクセター大学の論文が示すように、太陽光発電のような技術の経済的普及力学は、太陽光発電のディスラプションがもたらす波及効果によって発展途上国への普及が促進されることを意味しますが、こうした障壁を取り除かなければ、そのプロセスははるかに遅くなるでしょう。
つまり、1.5℃の限界突破にともなう破滅的なリスクを回避したいのであれば、世界規模で総力を結集し、もっとも有望な技術を、もっとも適切な設計で、公正かつ公平な新たな組織と統治機構で展開する必要があります。
そうすれば、人類全体が新興システムの恩恵を活用することで、新たな繁栄の鍵を開けることができるでしょう。
もしそうしなければ、最適とは言えないクリーンエネルギーシステムで終わるだけでなく、地政学的混乱や社会不安の中で、気候変動による生態系の崩壊に脆弱なままとなり、既存産業は経済的混乱に直面することになります。私たちの社会は、新しいシステムの出現と古いシステムの終焉の両方に対して、何の準備もできていないことになります。エネルギーの相転移そのものを頓挫させることはできませんが、その減速は社会の危機と崩壊の可能性を高めるでしょう。
今この瞬間がとても興味深いのは、この世界的なフェイズシフトの最中に、私たち自身を組織する方法のレバーを大胆にシフトさせる集合的アプローチなしでは、私たちの種としての生存と成功が不可能になることがわかるからです。
もし私たちが障壁を維持し、貧しい国々が膿むのを許し、ごく少数派に富をため込み、滅びゆく現存の産業パラダイムにしがみつこうとするならば、私たちの動きはあまりに遅く、無策であるため、自重で崩れやすい中途半端な「移行」の中で、私たちは究極に挫折し、失敗することになるでしょう。
しかし、私たちの真の繁栄は、本質的に他者の繁栄と結びついているという事実に目覚めれば、障壁を取り除き、資本、知識、技術の拡散を促進する扉を開き、すべての人の富を増大させ、分配し、新たな「豊かさの時代(Age of Abundance)」へとより迅速に移行するための絶好のポジションに立つことができるでしょう。
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元記事:Nafeez M Ahmed “Why transformation of the global energy system is now unstoppable” Age of Transformation, June 23, 2023. 著者の許可のもと、ISEPによる翻訳
@energydemocracy.jp 世界のエネルギーシステムの変革が止まらない理由/ナフィーズ・アーメド(2023年8月30日)- https://energy-democracy.jp/5116 私たちは世界的なエネルギー転換期を迎え、数十年以内に太陽光発電、風力発電、蓄電池が優勢になることが不可避かつ不可逆的になります。まったく新しいシステムが生まれようとしているのです。しかし、テクノロジーだけでは私たちを救うことはできません。私たちには、マインドセット、価値観、そしてガバナンスの集合的な転換が必要なのです。 #エネデモ #グローバルフェイズシフト #ティッピングポイント #ティッピングカスケード #テクノロジーディスラプション #相転移 ♬ F.T.B. – Robert Glasper