文明の崩壊は新たな可能性を切り拓く契機となる

2023年11月27日

崩壊は終わりではなく、はじまりです。この時代の恐れと不確かさは、これまでのあり方が時代遅れになっていることを示しています。私たちが未知の世界に足を踏み入れるとき、真に新しいあり方が生まれつつあります。私たちの課題は、こうした機会を捉え、拡張させることです。

今日、私たちの文明が世界規模で経験している変曲点(inflection point)は、前例のないものですが、決して特別なものではありません。

社会と文明は歴史を通じて栄枯盛衰を繰り返し、どの文明も成長と衰退のライフサイクルを経験します。

複雑系科学を駆使して文明の興亡を検証しようとした強力な試みのひとつが、ユタ州立大学の考古学者ジョセフ・テインターによる著書『複雑系社会の崩壊(The Collapse of Complex Societies、未邦訳)』です。1988年にケンブリッジ大学出版局からこの書籍を出版したテインター教授は、西ローマ帝国の崩壊、マヤ文明、チャコ文明など、崩壊した社会の20数事例を検証しました。彼の遠大な理論は、社会が崩壊するのは、社会的複雑性への投資が限界利益逓減点に達したときである、というものです。

テインターが何度も発見したパターンは、文明が新たな問題を解決するために、より複雑で専門化した官僚機構を発展させるというものでした。このようなプロセスが続くと、問題解決のためのインフラが新たに整備されるたびに、まったく新しい問題群が生み出されることになります。そして、それらの問題を解決するためにさらなるインフラが開発され、成長はエスカレートしていきます。

新たな層ができるたびに、新たな「エネルギーの補給」(資源の大量消費)も必要となるため、最終的には、それ自体を維持し、発生した問題を解決するのに十分な資源を生み出すことができなくなります。その結果、社会は何世紀も前から蓄積された複雑なインフラの層を取り除き、新たな均衡に向かって崩壊します。この崩壊は数十年で起こることもあれば、数世紀にも及ぶこともあります。

NASAから英国外務省に至るまで、さまざまな機関がこの分野の研究を委託しているように、文明崩壊という新たな科学が注目されるようになりましたが、それはより大きな全体像のほんの一部しか捉えていません。なぜなら、「崩壊」はしばしば文明再生の前兆であるからです。

崩壊から再生へ

「崩壊(collapse)」という概念を単純化しすぎると、継続的に前進しようとする人間の能力から目を逸らすことになってしまうと主張する学者もいます。彼らは、崩壊が常に正しいレンズを提供してくれるとは限らないと主張します。

2005年、アメリカの著名な地理学者ジャレド・ダイアモンドは、『文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(Collapse: How Societies Choose to Fail or Survive)』を発表し、環境変化が「長期間にわたり、かなりの面積にわたって、人間の人口規模および/または政治的/経済的/社会的複雑性を激減させる」と述べ、それらの経験が社会の前進において重要な役割を果たしていたと主張しました。

このテーマに関して、ダイヤモンドの言葉が決定的となったわけではありません。

その直後、彼の研究を検証していた歴史学の専門家グループが、西洋中心の「進歩(progress)」というレンズのせいで、失敗したと考えられていた人類社会の多くが、実際には驚くほど回復力があったという証拠を、彼は体系的に見落としていたと結論づけました。

人類学者のパトリシア・A・マカナニーとノーマン・ヨフィーが編集した『崩壊を問う:人間の回復力、生態系の脆弱性、帝国の余波(Questioning collapse: Human resilience, ecological vulnerability, and the aftermath of empire、未邦訳)』では、歴史家たちは、それらの社会は崩壊したのではなく、ダイヤモンドが見落としたさまざまな方法で、シフトさせ、進化させ、適応したのだと主張しています。

ノーサンブリア大学の考古学者ガイ・ミドルトンは、2011年に出版した著書『崩壊を理解する:古代史と現代の神話(Understanding Collapse: Ancient History and Modern Myths、未邦訳)』の中で、同様の結論に達しています。社会崩壊の最良の事例をすべて検証した上で、彼はそれぞれの事例における完全崩壊の証拠は限定的であると示唆しています。ある社会が衰退し、特定の建物や集落が放棄され、特定の政権や国家が倒されることはあっても、それが文明全体の崩壊を意味することはありません。多くの場合、特定の政治構造の崩壊は、新たな予期せぬかたちで変革への道を開き、同時に社会的複雑性や経済的繁栄が増し、人口は継続しました。

言い換えれば、これらの文明の「崩壊」は、必ずしもこれらの社会や共同体の「終わり」ではなく、文化や人々の完全な消滅につながったわけでもありません。むしろ、一般的な政治構造が衰退し、消滅する一方で、人々は適応し、変化し、再編成し続けたという証拠を確認することができます。

その一方で、主要な文明の組織構造や能力が実際に消滅するにつれて、その集団が新たな文明とともに生まれた新たな構造に移行することもありました。

このテーマにもとづき、『崩壊の前に:成長の向こう側への道しるべ(Before the Collapse: A Guide to the Other Side of Growth、未邦訳)』の著者であるフィレンツェ大学のウーゴ・バルディ教授は、崩壊は歴史上どこにでもあるものの、それは定期的に新しい文明への道を開くことを発見しました。

人間社会、自然界、人工的な構造など、さまざまな崩壊のケースを検証した結果、彼は崩壊がしばしば、新しい進化的な構造を出現させる前提条件となることを発見しました。彼はこのプロセスを「セネカ・リバウンド(Seneca Rebound)」という言葉で表現し、崩壊後に出現する新しい社会は、往々にして以前よりも速い速度で成長することを発見しました。

バルディの研究は、歴史における文明の興亡は、人類の文化的進化の長いプロセスの一部であることを示唆する、より広範な証拠の一部です。この研究は、捕食者と被食者の力学から森林に至るまで、自然システムの研究に数十年を費やした生態学者、故クロフォード・ホリングの代表的な研究を基礎としています。

ホリングは、すべての生態系が、成長、保全、解放、再編成という4つの段階を経るライフサイクルを経験することを発見しました。彼は、これを「適応サイクル(adaptive cycle)」と呼びました。

出典:Nature Scientific Reports, 2020

それ以来、科学者たちは、適応サイクルが社会システムや組織にも適用可能であり、政治的変化のプロセスを理解するために使用できることを発見しました。ロング・ナウ財団の創設者であるスチュワート・ブランドが述べているように、ホリングのフレームワークは、人類文明という巨大な社会生態系を理解する上で大いに利用できます。

グローバル・フェイズシフト

ホリングのフレームワークを産業文明の歴史に適用することは、非常に示唆に富んでいます。

彼の分類を用いれば、産業文明のライフサイクルの第一段階を、19世紀から20世紀後半までのおそらく200年ほどの間に急速に起こった成長期とみなすことができます。この成長の原動力となったのは、化石燃料による安価で豊富なエネルギーの発見だけでなく、技術革新のスパイラル的な連鎖であり、そのひとつひとつが社会に新たなシステムとダイナミクスを生み出しました。

さまざまな社会集団の長い闘争と適応の過程を経て、新しい文化ダイナミズム、財産権、市民権、統治システム、規範、価値観が、この時代に出現したグローバルな生産システムと共進化し、これらの新しいシステムを管理するようになりました。

文明はその後、1970年から2000年代初頭にかけて安定した第二段階の保全期に入りました。この時期、グローバル・システムは強固なものとなり、相互の結びつきも強くなりました。この時期は、新自由主義的グローバリゼーションの「黄金時代」と重なり、近代性と発展に関する一連の考え方や価値観が世界中に広まりました。同時に、このプロセスは、システムが「自己適応」し、それ自体を維持し続けるように組織化されたため、システムの回復力を低下させました。一見、これまで以上に頑強になったように見えますが、現実にはシステムは脆くなり、適応した条件を変えるようなショックに対応できなくなっていました。

第3段階である解放期は、2005年ごろからはじまり、2010年までエスカレートし、2020年から今日に至っているようです。この時期は、システムが衰退しはじめる不確実性と混沌の時期です。

第4段階に移る前に、解放段階がはじまった3つの基本的な理由について、私の考えを述べておきます。

  1. 産業文明を規定してきた技術は、地球から資源を取り出し、経済や社会に利用してきましたが、その生産性の内部限界に達しているように見える
  2. これらの限界のひとつとして、コストの増大とリターンの減少が進んでおり、それは大規模に激化する社会的・生態的ショックに由来するものであり、それは過剰な拡張のもとで現れる徴候として見ることができる
  3. おそらくもっとも重要にもかかわらず、見落とされがちなのは、産業文明を規定してきたテクノロジーは、より効率的で、より安価で、より高性能な新興テクノロジーに競り負かされていること

一方で、旧いシステムの衰退にともなう不確実性の高まりが、多くのネガティブな二極化の力を解き放っています。かつて成功の包括的な基準であった新自由主義的パラダイムは、大衆への訴求力を失いました。かつて産業文明の成長段階を定義するために共進化してきたグランドナラティブは、もはや通用しません。既存の世界観や規範、価値観は崩壊し、混乱や意見の相違、対立は、憂慮すべきほどエスカレートしています。

瀕死の旧いシステムに亀裂が広がる中で、新しいスペースが生まれます。旧いシステムが下降スパイラルに入ると、弱体化します。そして、その弱体化の中で、二極化するカオスと、変化への新たな可能性が開かれます。そこでは、システムの小さな摂動が、第1段階や第2段階では不可能だった深い影響を与えることができます

このプロセスは、最終の第4段階である再編成期へとつながり、新たな可能性が結集されることで、旧い灰の中に新たなシステムが生まれます。この段階で、新たなライフサイクルの基礎が築かれます。旧いライフサイクルと新しいライフサイクルの間の空間は、「相転移(phase shift)」であり、あるシステムから異なるルール、特性、力学を持つ別のシステムへと変化する、完全な再構成です。

21世紀の最初の20年間は、私が「グローバル・フェイズシフト」と呼んでいる、旧システムの衰退と新システムの誕生の可能性によって引き起こされる、ひとつのグローバル・システムから新たなグローバル・システムへの重大な変容の一部であるように見えます。

現在の苦境には、歴史上かつて見たことのない斬新なものもあります。私たちは、世界的な規模の危機に直面しており、私たちが知っている文明は崩壊する恐れがあります。気候に関する最悪のシナリオだけでも、今世紀中に地球に住めなくなる危険性が指摘されています(エネルギー、気候、食糧、経済の複合的な危機がもたらす複雑で連鎖的な影響については、考えるまでもありません)。

その一方で、私たちははじめて、こうしたプロセスをリアルタイムで見て理解することができるようになりました。歴史上どの社会もなし得なかったような方法で、衰退と崩壊のリスクを認識することができます。システムの衰退が加速するにつれて、次のシステム、新しいライフサイクルへの突破口となる可能性が生じるものの、滅びゆく産業パラダイムの混沌とした破壊的な影響がその可能性を制約し、狭めてしまうリスクもあります。

言い換えれば、危険なのは、人間システムの不安定化(これはまさにシステム衰退プロセスの症状なのですが)が制御不能に陥り、世界的なフェイズシフトを狂わせ、新しいシステムが誕生する前にシステムが崩壊するところまで衰退のプロセスを加速させてしまうことです。

適応サイクルのレンズを通して見てみると、おそらく最大の危険は、私たちが現在の解放段階への加速におけるネガティブリスクに集中するあまり、システム再編成と再生のための膨大な新しい機会を認識できなくなっていることです。

私たちの文明のライフサイクルの第3段階において、一般的な規範、価値観、制度が崩れ去ることは恐ろしいことなのですが、それは次のライフサイクルの出現の前兆でもあります。この急進的な不確実性の中で、真に新しく画期的なものを生み出すスペースは、猛烈なスピードで広がっています。

再生の原動力

つまり、現在の文明のライフサイクルの第4段階で起きている再編成を効果的に加速させ、活気に満ちた新しい文明のライフサイクルの土台を築くことができるように、この解放の段階をスケールアップさせるという壮大な挑戦に私たちは直面しているのです。

これこそが、現代を定義づける、卓越した使命なのです。

それを成功させるためには、地球科学者のウーゴ・バルディが指摘した神秘的な「セネカ・リバウンド」効果の背後にある要因を理解する必要があります。

こうした原動力に関するもっとも深い分析のひとつが、テクノロジー予測シンクタンクのRethinkXが2020年に発表したものです。著書『人類文明再考:5つの基礎的セクターの崩壊、文明のライフサイクル、そして来る自由の時代(Rethinking Humanity: Five Foundational Sector Disruptions, the Lifecycle of Civilisations, and the Coming Age of Freedom、未邦訳)』の中で、ジェームズ・アービブとトニー・セバは、文明がいかに2つの重要なことの組み合わせによって推進されているかを示しました。

  1. 生産システムにおけるテクノロジーの飛躍(technological leaps)
  2. 集団的社会組織システムにおける文化的飛躍(cultural leaps)

この研究は、自然システムのライフサイクルに関するホリングの洞察が、人類の文明だけでなく、今日の私たちの見通しにどのように当てはまるかを理解する上で役に立つと考えられます。

アービブとセバは、文明の生産システムは、エネルギー、輸送、食料、情報、材料の5つの基礎部門を包含していることを示しました。人類の極めて重要なテクノロジーの飛躍は、すべてこれらの部門のいずれかに見られます。例えば、車輪の発明は輸送に革命をもたらしました。文字の発明は情報のディスラプションでした。食料分野での植物の家畜化は、狩猟採集社会から農業社会への移行に役立ちました。

ある分野でのテクノロジーディスラプションが、他の分野に大きな連鎖的影響を及ぼし、イノベーションや変革を促すことはよくあることです。しかし、アービブとセバのもっとも説得力のある洞察は、文明が成功する能力は、人々が必要とする主要なものを生産するテクノロジーの性能を向上させることだけではないということでした。

それは、これらの主要なイノベーションから得られる利益を活用し、分配する能力であり、社会を組織する能力(social and organizational capabilities)を強化する方法です。アービブとセバは、これを社会の「組織システム(organising system)」と呼び、これには世界観、社会規範、価値観、統治構造、政治制度などが含まれます。

出典:Ahmed, A User’s Guide to the Crisis of Civilization (2010)

アービブとセバは、人類の歴史を紡ぐディスラプションのパターンを指摘しています。社会や文明は、資源を採取してモノを生産する能力を向上させるテクノロジーディスラプションによって前進してきました。しかし、こうしたディスラプションは、それまで存在していた道具や製品を単純に「一対一」で置き換えるようなものではなく、まったく新しいやり方を生み出し、それはつまり、新しいルール、特性、力学を持つ新しいシステムでした。例えば、自動車は単に馬が速くなっただけではありません。それは、私たちの生活様式全体を完全に変革し、新たな利点と新たな挑戦の両方を生み出した、まったく別の獣だったのです。

そのため、文明は、ルールセット、価値観、文化的規範など、新しいシステムに適応し、活用できる組織システムを共進化させることが必要でした。しかし、時には社会がそれに失敗することもありました。現状維持の生産ツールに適応した旧いシステムの組織化パラダイムから抜け出せず、新たなシステムのダイナミズムに適応できず、混乱と衰退を招いたのです。

多くの場合、採掘時代の生産手段が収穫逓減のサイクルに至り、社会は崩壊します。文明は、資源を採取し、軍備を拡大し、土地を征服し、採掘量の増加を維持するために巨大な官僚機構が必要になり、システム全体を維持するために規模をより拡大し、さらに同じことを繰り返すというフィードバック・ループに陥ります。

日常的な仕事が危機、疫病、飢饉などをエスカレートさせ、その解決策である拡張の継続は、必ず過剰な拡張と崩壊という結末を迎えました。

ホリングの適応サイクルは、この上昇と下降のパターンを捉えています。アービブとセバは、文明の成長軌道とテクノロジーディスラプションのS字カーブに密接な関係があることを発見していました。ホリングのサイクルのフロントループもバックループも、テクノロジーディスラプションのS字カーブパターンと驚くほどよく似ています。

ホリングの適応サイクルの時系列マッピング

歴史を通じて、テクノロジーディスラプションは同じパターンをたどってきました。『人類文明再考(Rethinking Humanity)』がセバのテクノロジーディスラプションのフレームワークにもとづいて示しているように、ディスラプションは、さまざまな分野における過去のテクノロジーを組み合わせたり再構成したりしながら構築するイノベーションにもとづいて、ゆっくりとはじまります。こうしたイノベーションが、既存のツールよりも効率的かつ効果的に、より広い社会のニーズや需要を満たせば、より広く採用されるようになります。

テクノロジーディスラプションは、それ自体が実践を通じた学習(learning-by-doing)のパターンにそって進む傾向があります。導入されればされるほど、より安価になります。そして、破壊的テクノロジーが既存のテクノロジーよりも10倍も安くなれば(今日、私たちはこれを金額で測っていますが、実際には、既存のテクノロジーの10分の1のエネルギーや資源で済むという話)、経済的に止められなくなります。そして、破壊的なテクノロジーは瞬く間に大量導入へとスケールアップし、普遍化するにつれて平準化します。

テクノロジーの成長と衰退の波は、ホリングの適応サイクルと同じパターンをたどります。新興テクノロジーがコスト、効率、性能の指数関数的な向上を経験する一方で、既存テクノロジーはその逆を経験します。すなわち、コストの上昇、効率の低下、性能の低下であり、これらはリターンの逓減と競争力の低下へと至ります。

これにより、既存テクノロジーは完全に陳腐化し、崩壊に追い込まれます。一方、破壊的テクノロジーは、多くの場合、異なるセクターにわたる複数の既存技術の融合にもとづいており、それ以前よりも大きな規模の新たなライフサイクルを推進します。

これはウーゴ・バルディが発見した、新しい文明がより速く、より大きく成長する前に文明の崩壊が起こるという指摘と類似しています。

出典:RethinkX

ホリングの適応サイクルは、この軌道が社会の組織システムとどのように共進化していくのかを明らかにするものです。適応サイクルは指数関数的な成長の軌跡をたどり、システムが飽和状態に達すると、その成長は頭打ちになります。そして、システムが内部的な限界に突き当たったり、新しい優れたシステムとの競争に直面したりすると、衰退へと向かいます。

旧システムの崩壊を示す衰退曲線を、新システムの誕生を示すS字カーブに重ねると、X字型に見えます。

採掘時代の黄昏

文明は、その基本的なレベルでは、5つの次元の生産にもとづいてのみ誕生し、拡大することができます。つまり、どのように電力を供給するか、どのように移動するか、どのように食料を見つけ、育て、分配するか、どのように知識を学び、交換するか、どのように材料を採掘し、どのようにモノをつくるかといったことです。これらを踏まえれば、社会や文明のライフサイクルにもテクノロジーディスラプションと同じS字カーブやX字パターンが見られることは驚くべきことではありません。

この洞察は、私たちが今まさに直面している世界的なフェイズシフトに大きな影響を与えます。

今日、私たちの文明を定義している既存の産業は、コストの上昇、リターンの減少、業績の鈍化をともなう加速度的な衰退という悪循環に陥り、そのすべてが黄昏時にあります。

気候変動と生態系の非常事態は、包括的な衰退の症状であり、具体的には文明のエネルギー、輸送、食糧システムを規定する主要産業全体に現れます。化石燃料、内燃機関自動車、従来型の農業は、合わせて炭素排出量の約90%を占めています。

気候危機は、深刻化するにつれ、地政学、経済、食糧をはじめとして、それ以外の問題に至るまで他の危機を増幅させています。その結果、システム全体にかかるコストが増大し、既存の産業が利益を上げながら事業を継続する能力が損なわれます。

同時に、こうした採掘産業は、惑星の境界線と自らの限界の両方にぶつかり、自らの重みで崩壊しつつあります。その大きな徴候のひとつが、ニューヨーク州立大学のシステム生態学者チャールズ・ホール教授が提唱した「エネルギー投資利益率(EROI)」という概念です。EROIとは、ある資源からエネルギーを取り出すために使われるエネルギー量を測定する、シンプルですが強力な比率です。

数多くの研究により、世界の化石燃料のEROIは1960年代頃にピークを迎え、現在は末期的な低下傾向にあることが示されています。

出典:Victor Court and Florian Fizaine, Ecological Economics (2017)

フランスの科学者が主導した別の研究によると、このままでは2050年までに、世界の石油埋蔵量から抽出されるエネルギーの半分が、石油を生産し続けるための新たな採掘に回される必要があるそうです。石油を取り出すためだけにこのレベルのエネルギーを使用するのは、あまりにも膨大で、この事業全体を無意味なものにしてしまいます。

この急激な衰退は非常に速いスピードで進行しているため、世界のエネルギーシステムを変革するのが遅すぎた場合、変革に着手するころには、変革を維持するために必要なエネルギーを採掘することが経済的に不可能になってしまうかもしれません。

崩壊のシグナルが鳴り響いているのは、気候やエネルギーの問題だけではありません。最近の研究では、深刻化するエネルギーコストの高騰、気候災害の影響、地球温暖化による水不足、土壌を劣化させてしまう産業技術の影響など、問題が複合的に相まって、同じペースで食料を栽培し続けるシステムの能力が損なわれてしまう可能性が警告されています。

ケンブリッジ大学存続リスク研究センターの研究者、アサフ・ツァコールは、「食料と農業のグローバルシステムは、有限な資源に制約され、経営が不安定になりがちで、飢饉や微量栄養素の欠乏を防ぐことができず、温室効果ガスの排出、気候変動、生態系の崩壊の主な原因となっている」と述べています。これまで通りのやり方(business-as-usual)は、「自己を弱体化させ、自己を衰弱させ、収量とサプライチェーンを混乱させる」力学の中で運営されているため、「グローバルな破局的リスク(global catastrophe risks, GCRs)をさらに引き起こす可能性がある」と警告しています。

崩壊の危機は、2つのことを示唆しています。

第一に、アイデンティティ政治や文化戦争の勃発、極右主義やイスラム主義などの過激主義の復活、地政学的な不安定化の激化などは、すべて文明の組織システムの衰退の徴候です。一般的な秩序、世界観、価値観、考え方は、現実を理解し問題を解決することができないため、ますます時代遅れになりつつあります。

そして第二に、このプロセスは、化石燃料に支配された生産システムの技術的衰退と本質的に関連しています。そこでは、増大するコストと逓減するリターンが、私たちの社会が必要なものを生み出す方法の根幹を狂わせています。

こうしたネガティブなシグナルはすべて、解放段階の一面、つまりダークサイドにすぎません。これらのプロセスと密接に結びついた光の側面があります。それは、文明を定義するあらゆる基礎部門の急速な変革です。

エネルギー、輸送、食品、情報、材料など、一連の8つのテクノロジーは、既存の産業よりも強力で普遍的かつ安価になりつつあります。これらのテクノロジーは、私たちの文明を変革し、気候変動をはじめとする地球規模の大きな課題を解決するための、これまでにない能力を私たちに提供します。

しかし、テクノロジーの飛躍は方程式の半分でしかありません。テクノロジーとは結局のところ、私たちと自然界との全体的な関係、つまり私たちが自然からどのようなものを引き出そうとしているのかを反映したものなのです。そしてそれは、経済的、政治的、社会的構造と切り離すことができません。

確固としたデータは、私たちの文明の生産システム全体が変革の過程にあることを示唆しています。採掘の時代の頂点にあった産業は崩壊しつつあり、新たな創造の時代を告げる産業が出現し、人類文明の次のライフサイクルの種を担っています。

こうした新しいテクノロジーは、中央集権的で階層的な古い産業組織システムの内部で生まれつつあります。世界的なフェイズシフトを実現するためには、現在起きているテクノロジーディスラプションを最良の方法で加速させるだけでなく、人々と地球にとって最大の利益をもたらすような文化的飛躍を遂げる必要があります。

この波に乗るためには、私たちはすべてを見直す必要があります。私たちの文明がどのように運営されているのか、根底から見直し、私たちが本当は何者なのかをもっと深いレベルで見直すのです。

元記事:Nafeez M Ahmed “The Collapse of Civilisation is an Unprecedented Opportunity Age of Transformation, 29 AUG 2023. 著者の許可のもと、ISEPによる翻訳

@energydemocracy.jp 文明の崩壊は新たな可能性を切り拓く契機となる/ナフィーズ・アーメド(2023年11月27日) – https://energy-democracy.jp/5230 文明崩壊のもとで破壊的なテクノロジーが新たな産業と組織のライフサイクルを推進します。しかし、テクノロジーの飛躍は方程式の半分でしかなく、経済的・政治的・社会的構造を見直し、私たちの存在意義をより深く考える必要があります。 #エネデモ #適応サイクル #セネカリバウンド #組織システム #変曲点 #エネルギー投資利益率 ♬ Eyes Closed Hopefully – I Am Robot and Proud

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