世界の自然エネルギー市場での投資額の推移(出典:UNEP/BNEF, Global Trends in Renewable Energy Investment 2016より作成)

急成長を続ける世界の自然エネルギー市場

2016年4月12日

世界各地で急速に進む自然エネルギー市場の拡大の中で新興国・途上国の勢いが加速しています。統計データからその動向を読み解いてみましょう。

風力発電や太陽光発電などの世界の自然エネルギー市場は、10年ほど前から急成長し、2011年には投資額が2004年と比べて5倍以上の2800億ドル近くに達していました。2011年からは、太陽光発電の導入コストの低下が急速に進み、欧州などで太陽光発電の市場などが調整局面に入ったため、いったんは市場全体の投資額は減少する傾向にありました。しかし、最近発表されたUNEP(国連環境計画)/BNEF(ブルームバーグ・ニュー・エナジーファイナンス)共同による最新レポート[1]によると、2015年の世界の自然エネルギー市場(大規模な水力発電を除く)は2014年からさらに増加して、史上最高の2860億ドル(約32兆円)に達しました(図)。その内訳としては、太陽光発電への投資額が全体の半分以上の56%を占めており、風力発電が約4割の38%を占めているため、太陽光と風力を合わせて世界の自然エネルギー投資額の約95%を占めています。過去10年間に風力発電への投資額は約4倍、太陽光は10倍と急成長をしています。

世界の自然エネルギー市場での投資額の推移(出典:UNEP/BNEF, Global Trends in Renewable Energy Investment 2016より作成)
世界の自然エネルギー市場での投資額の推移(出典:UNEP/BNEF, Global Trends in Renewable Energy Investment 2016より作成)

2015年の全世界での発電設備への投資額としては、大規模な水力発電に対しても430億ドルが投資されており、太陽光や風力等への投資額と合わせると自然エネルギー全体で3290億ドルに達します。一方、化石燃料を用いる火力発電設備への投資額は1300億ドルと自然エネルギーの4割程度に留まっています。また、原子力発電への投資額は、200億ドルと自然エネルギーへの投資額のわずか6%程度です。

2015年に新規に導入された発電設備で1億5600万kWが自然エネルギー(大規模な水力発電を含む)で、新規の発電設備の約63%を占めます。一方で、気候変動問題に要因となる4200万kWの石炭火力発電と4000万kWの天然ガス火力発電設備が導入されましたが、原子力発電は1500万kWでした。2015年末までに累積で大規模な水力発電を除く自然エネルギーの発電設備の設備容量が世界全体の全発電設備容量の16%を超え、この自然エネルギーによる発電量が世界全体の10%を超えました。その結果、2015年の世界のCO2排出量は2年連続で前年と同じレベルに留まり、経済成長とのデカップリングが達成されています[2]

国別にみると世界の自然エネルギー市場の中で、日本国内の2015年の自然エネルギーへの投資額は前年からほとんど変わらず362億ドル(約4兆円)でしたが、前年に引き続き中国・米国に次ぐ世界で3番目の市場となりました(表)。風力および太陽光の年間導入量で世界1位となっている中国は前年比17%増の1029億ドルの市場規模となり、米国が441億ドルで続いており、日本を含む上位3カ国で世界全体の自然エネルギー市場の約64%を占めています。

世界各国の自然エネルギー市場での投資額ランキング

順位 2015年(億ドル) 成長率(前年比)
1 中国 1029 17%
2 アメリカ 441 19%
3 日本 362 0.1%
4 イギリス 222 25%
5 インド 102 22%
6 ドイツ 85 -46%
7 ブラジル 71 -10%
8 南アフリカ 45 329%
9 メキシコ 40 105%
10 チリ 34 151%

一方で、中国を含む新興国や発展途上国の投資額は1559億ドルに達し、先進国全体の1301億ドルを大きく上回っています。前年の2014年までは先進国の投資額が上回っていたため、自然エネルギーへの投資がここ数年で先進国から新興国や発展途上国に移ってきており、いまや世界中でエネルギー市場の本流となってきています。

参考資料

[1] UNEP/BNEF ”Global Trends in Renewable Energy Investment 2016
[2] IEA “Decoupling of global emissions and economic growth confirmed

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千葉県出身。環境エネルギー政策研究所理事/主席研究員。工学博士。東京工業大学においてエネルギー変換工学を研究し、学位取得後、製鉄会社研究員、ITコンサルタントなどを経て、持続可能なエネルギー社会の実現に向けて取り組む研究者・コンサルタントとして現在に至る。持続可能なエネルギー政策の指標化(エネルギー永続地帯)や長期シナリオ(2050年自然エネルギービジョン)の研究などに取り組みながら、自然エネルギー白書の編纂をおこなう。自然エネルギー普及のため、グリーン電力証書およびグリーン熱証書の事業化、市民出資事業や地域主導型の地域エネルギー事業の支援などにも取り組む。

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