12月7日から12日までの日程で、第24回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP24)に、環境エネルギー政策研究所(ISEP)のメンバーとして参加しています。といっても、私のミッションは交渉やロビー活動でなく、私やISEPが関わった持続可能な地域づくりの知見と成果について、アジアなど諸都市からの代表団や専門家にシェアすることです。
さて、会議場の様子を眺めながら、エネルギーデモクラシーの発展にもつながる、国会改革のアイデアが浮かびました。国会エネルギー調査会の手法を、すべての国政分野に広げるアイデアといってもいいでしょう。
COPは会議だけにあらず
COP24は、ポーランド・カトヴィツェで、2018年12月3日から14日までの日程で開催されています。カトヴィツェは、ナチによるユダヤ人虐殺と強制労働で知られるオシフィエンチム(アウシュビッツ)から、北西に約30㎞の位置にある工業都市です。1997年12月にCOP3が京都で開催されたことを覚えている方も多いでしょう(写真1)。
COPのメインは、政府間による気候変動をめぐる国際交渉ですが、会議場には各国政府交渉団の他にも、多くの人々が世界中から集まってきます。大きく分けると、交渉団に加わっていない政府・関係機関・国際機関のスタッフ、気候変動問題に取り組む非政府機関(NGO)のスタッフ、気候変動に関係する専門家・研究者、気候変動の被害に直面する住民(とりわけ先住・少数民族が多い)、解決に資する技術を提供する企業の社員、そしてメディア関係者。会議場は、ランチを取るのも一苦労なくらい、賑わっています(写真2)。
COP会議場に様々な人々が世界中から集まるのは、政府間の国際交渉の他に、次の3つの理由があります。
1. 各国の交渉団に働きかけをするため
会議場のロビーには、多くの政府交渉団スタッフが歩いています。各国交渉団の控室は、会議場の中にあり、交渉が行われる会議室へ向かうにはロビーを通ることになり、NGOスタッフなどが交渉団スタッフに話しかけることが容易です。そのため、世界中から気候変動に取り組むNGOスタッフや危機に直面する住民たちがやってきます(写真3)。
2. 自国の取組みをアピールするため
各国政府は、いかに自国が気候変動対策に取り組んでいるか、パビリオン(ブース)を設けてアピールしています。交渉で主導権を握るのは、世界に先駆けて積極的な対策を講じている国だからです。パビリオンでの展示やサイドイベントのため、交渉団の他にも多くの政府・関係機関・国際機関のスタッフ、専門家などがやってきます(写真4)。
3. 知見・意見を交換し、ネットワークを強めるため
政府交渉団メンバーはもちろんのこと、関係機関スタッフ、NGOスタッフ、企業メンバー、住民たちなど、集まるすべての人々が、気候変動に強い危機感を有し、それぞれの立場で解決に取り組む実務者・専門家です。その人々が、様々な知見・意見を交わし、つながりを深める機会になっています。政府・国際機関のパビリオンやNGO主催のサイドイベントがその場です(写真5)。
COP会場で国会の強行採決を知る
サイドイベントでの報告を終え、自分のパソコンを開くと、国会の緊迫した様子がTwitterで飛び込んできました。ポーランドと日本の時差は8時間あり、日本は深夜のはずでした。
政府が国会に提出した入管難民法改正案やその他の与野党対決法案は、いずれ採決が避けられないにしても、国会を延長して採決するのだと考えていました。臨時国会の延長は珍しいことでなく、年末に向けて政府与党には予算折衝の大仕事があるにしても、政府と与党の間で大きな争点はなく、国会延長に向けてのハードルはないからです。
2000年代までの自民党政権は、強行採決をするにも、一定の「環境」を整えてから行うのが通常でした。国会を延長して、長い審議時間を確保することは、もっとも頻繁に行われる「環境」づくりでした。なぜならば、野党が強く反対する法案は、たいていの場合、自民党の支持者にも反対意見が根強くあるため、そこに配慮を見せる必要があるからです。
ところが、この臨時国会(第197回国会)は、会期延長の余裕があるにもかかわらず、強行採決の連発です。なかには、衆議院での実質的な審議時間がゼロという法案すらありました。これらは「与党による審議拒否」といっても、過言ではありません。
同じ議論の場でありながら、COP会議場と日本の国会との格差に、改めて驚いてしまいました。目の前のロビーでは、多様な国の多様な主体の人々が、あちこちで小さな輪をつくり、議論をしています。一人でいる人はパソコンを開き、誰かに伝えるための文章を書いています。いずれも、気候変動問題を解決しようという議論で、作業です。大小、公式非公式を問わず、様々な議論がネットワークとしてつながり、COPという議論の場を活性化し、形成しています。参加者の一人として、そのことが実感できます。
そして、COPをヒントに、議論の場としての国会を再生できないかと空想をめぐらし、一つのアイデアに至りました。
国会カミングデー
COP会議場のポイントは、政府交渉団の他にも気候変動の問題に関係する多様な人々がいることです。その人々は、国連が公式に認めて、そこにいるのです。私も、国連から発行されたパスを持って、会議場にいます。つまり、国連は意識的に交渉団以外の人々を会議場に入れているのです。それが、交渉を加速させると分かっているからでしょう。
そこで、国会にも政治に関心をもつ様々な人々を入れてはどうでしょうか。といっても、国会議員と同等に、国会審議に参加させるという意味ではありません。
年に一度、一般の人々が訪れ、議員と話をしたり、様々な意見・情報に接したり、国会の仕組みについて学んだりする「国会カミングデー」の開催です。大学では、高校生を対象に、カミングデーを実施するのが当たり前です。現役学生が校内を案内したり、体験講義を実施したり、様々なイベントを開催したりします。それの国会版です。
そして、国会カミングデーで、次のようなことを開催するのです。イメージとしては、東京ビッグサイトなどで開かれる企業の展示会やセミナーに近いものです。
政党主催の連続セミナー
議員会館の大きな会議室をブースとして、各政党・会派に割り当て、国会議員によるセミナーを開催します。例えば、自民党ブースでは安倍首相、立憲民主党ブースでは枝野代表がそれぞれ講演し、一般参加者からの質疑応答を受けることが考えられます。
衆参事務局や各省庁による展示・セミナー
議員会館の中規模の会議室をブースとして割り当て、パネル展示やセミナーを開催します。例えば、財務省ブースで、財務官僚が消費税アップの必要性を一般参加者に講演し、質疑応答を受ければ、真剣な議論に発展するのではないでしょうか。
公募企画セミナー
残っている議員会館の会議室は、一般から企画を公募し、評論家や学者などの論客によるパネルディスカッションなどを開催します。町山智浩さんが紹介したアメリカの「巨大政治イベント・ポリティコン」日本版を国会で開催するのです。例えば、電気事業連合会会長と小泉純一郎元首相との原発・脱原発をめぐる時間無制限の白熱議論(デスマッチ)なんて企画があれば、聴衆として参加してみたいと思いませんか。
ディープ国会見学ツアー
通常の国会見学では行かないところを含め、国会議事堂や議員会館のウラのウラまで案内するツアー。案内役の国会職員の他、与野党の国会議員が一人ずつ随行し、それぞれの視点から解説を加えてくれれば、参加者は国会の役割を深く理解できます。議事堂2階の議員食堂で食事もできると、レア感が高まります。
国会・政治ツウ向けイベント
憲政記念館を会場に、国会図書館によるマニアックなイベントを開催してもいいでしょう。例えば、憲政記念館で議会制度研究の専門家や日本政治史の研究者、引退した長老政治家によるパネルディスカッションやセミナーを開催すれば、より深く国会や政治を知ることができます。
国会議員の強制参加
セミナーやイベントに出る予定のない国会議員も、全員参加を義務づけたいものです。名前と党名の入った大きな名札をぶら下げてもらい、会場をウロウロしてもらうのです。そうすれば、一般参加者が声をかけ、国政への意見を伝えることができます。議員にとっても、名刺を配り、新たな支持者を獲得する機会になります。
いかがでしょうか。混乱が心配ならば、セミナーも含め、事前登録制にすればいいでしょう。議事堂と議員会館には、既に金属探知機が設置され、IC付の入館パスもあるので、設備面での追加コストは不要です。事前登録に漏れた方には、セミナーをネット中継で配信することも考えられます。
必ずしも無料でなく、多少の参加費を取ってもいいでしょう。一人2千円くらいの入場料を得て、経費に充てることも考えられます。
要は、国会議員と一般有権者が意見交換し、知見を共有することで、議論の場としての国会を再生する機会とするのです。右左の思想信条の別なく、国会議員に一言モノ申したい人は多いでしょう。国会議員も、言われっ放しでなく、論客や有権者に言い返したいことも多いでしょう。
分断の政治から、つながる政治へ。カギは、対話にあります。
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ハーバービジネスオンライン『COP会議場で考えた。空想的な国会改革案「国会カミングデー」』を改題の上、一部加筆して転載。