天気に左右される風力と太陽光による電力の比率がドイツの電源構成の中で増え続けています。これにより、エネルギー部門には電力の需要と供給をもっとより柔軟に対応するように圧力がかかっています。常に系統にどれだけの電力が送り込まれるのかを正確に予測する必要性はますます重要になってきています。正確な天気予報はその土台となるものの、系統運用者や電力取引事業者、再エネ発電所運営者自身もエネルギー部門に特化した予測を専門とする新たな関連産業に頼っています。
天気データと発電量予測
ドイツの総発電量における風力と太陽光エネルギーの平均比率は1990年のほぼゼロから2015年の19.4%に上昇しました。需要に応じて発電量を完全に予測できる従来型の化石燃料電力とは異なり、これらの変動する再エネ電源は天気の影響を受けます。
条件が整えば、ドイツの消費電力量における再エネの比率は80%以上になります。風のない夜はゼロ近くまで下がります。これは、系統の安定性、再エネ発電所の立地、電力価格に影響を与えます。再エネ電力がどれだけ供給されるかをより正確に予測できるようになればなるほど、これらの影響に対処しやすくなります。正確な天気予報はこの予測に不可欠なのです。
エネルギー部門が天気予報に関心を持つのは、単に再エネが台頭したからではありません。天気予報は、電力消費者の需要を短期的に見積ることに長い間使われてきました。寒い冬の日は暖房により多くの電気が使われ、天気の良い日の午後はテレビを映すのに使われる電力は減ります。これを「負荷予測」と呼びます。
それに対し、供給側の「発電量予測」は、近年エネルギー気象学により注力しています。
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発電施設運営者
再エネ発電所の運営者は、20〜30年前に風力発電所や太陽光発電所の立地と配置を決めるために気象データを使いはじめました。しかし、1990年代から2000年代はじめに行われた連邦法の変更によって生じた再エネのブームの中で、毎日の発電量を最適化するための発電量予測の必要性が大いに高まりました。
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電力系統運用者
再エネが台頭する前から、系統運用者はインフラ設備が過酷な状況に対応する準備ができているか、嵐が来る前にメンテナンスが終了しているかを確認するのに天気予報を利用していました。しかし、再エネの拡大は、天気が系統の安定性に密接な関係を持つことも意味するようになりました。
系統運用者はドイツの電力系統での需要と供給のバランスを保つ責任があります。化石燃料による発電で安定性を保つのは、変数がほとんどないゲームのように、そのほとんどが制御可能でした。分散型で変動的な電源からの電力供給が増えると、バランスを維持するのは多くの時間と労力を要し、専門知識と情報を必要とするコストのかかる作業になりました。(系統の安定性維持に関する詳細情報はCLEWのファクトシート「ドイツの電力系統の再給電指令コスト」を参照してください)
給電の急降下や急上昇は系統の安定性を保つ上での大きな課題です。2015年3月の部分日食中、影に入る前後でドイツの系統運用者は太陽光発電の2,674MWの下落と4,111MWの上昇(通常の4倍の変動)を電力取引の行われる15分の単位で調整しなければなりませんでした。しかし、変動する再エネが電力構成に占める比率が増加する中で、このような大幅な下落や増加はより頻繁に起こっています。
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ダイレクトマーケティングサービス供給者
2012年以降、ダイレクトマーケティングが導入されたことで、正確な予測に頼るステークホルダーは大幅に増えました。とりわけ大規模発電所の運営者は、自分たちの電力に固定価格買取制度を受けるのではなく、積極的に電力取引業者に販売することが次第に義務付けられていったのです。2014年に導入された陸上風力発電容量の80%以上がこの方法で販売されています。
多くのダイレクトマーケティングサービス供給者は今では小規模な発電所の所有者や運営者に対応しています。例えば、Next Kraftwerke社は小規模な太陽光発電所と風力発電所などの電力生産者をデジタルプラットフォーム経由でつないでバーチャルパワープラントを運営しています。Next Kraftwerke社によると、遠隔でスイッチのオン/オフを切り替えられるこのネットワークユニットは、従来の発電所よりずっと柔軟性があります。しかし、発電量予測はそのシステムを管理するのに絶対不可欠なものです。
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電力取引業者
電力取引業者は様々な電力市場で価格差のある電力を購入・販売して利益を得ています。需要と供給を競合他社よりもより正確に予測することは、「スケジュール管理」の一環として毎15分間隔で発電量を予測し、系統運用者に前日の正午までに伝えなければならない電力スポット市場(別称:1日前市場)では特にカギを握ります。
事前に行う1日の電力販売量の判断を誤り、実際にその量が消費されると、調整に費用がかかる結果となります(再給電指令コスト参照)。予測精度が上がれば、調整の必要性は下がります。
電力供給量予測の土台となる天気予報
天気予報は正確な発電量予測の土台となります。ドイツでは主に国立気象サービスであるドイツ気象局(DWD)により提供されています。
予測の第一歩として、DWDは世界中の気圧、気温、風、雲、降水量、日差しの強さ等の状況を他の気象サービスと協力して観測します。そこでは衛星、(貿易用の)船舶、ブイ、旅客機、地上の測候所からのデータが利用されています。
そして、DWDは地上から高度75キロメートルまでの領域に、理論に基づいた細かいメッシュ状の3次元グリッドで分割する気象モデルを適用します。このグリッド内の交差点ごとに観測データが一連の方程式に代入されます。DWDは、モデルに応じて、現在2.8から13キロメートル幅のメッシュを利用しています。
数値天気予報モデル(NWP)を用いた推定により、DWDはグリッドの交差点ごとに7~10日間の予報を組み立てます。この計算には過去の統計データや気候学の調査結果も取り込みます。これには膨大な演算能力が要求されます。
バタフライ効果として知られているように、ごく小さな変化や不確定要素が大きく異なる結果を引き起こすことがあります。より遠い未来(または対象期間)を予想すると、その分狂いも大きくなります。長い時間軸での見通しでは、単一のモデルの中でわずかに異なる初期状況を組み入れたり、複数の異なるモデルを組み合わせたりして、予測の不確実性を補います。これはアンサンブル予測と呼ばれています。条件が実際にどのように変化したかを加味して予測結果を比較することで、モデルは常に更新されます。
DWDは、ドイツのエネルギー転換の結果として、エネルギー部門の気象サービスに対する需要は大幅に増加したと述べています。今日では観測データと予測データ、エネルギー部門に合わせた予報商品(例:風や雪による電線のひずみ増加に関する警告)やコンサルティングサービスが提供されています。しかし、DWDは最終的な発電予測は提供していません。
発電予測
いまや電力の供給予測を専門に扱っている新たな産業があります。energy & meteo systems 社、meteo control社、enercast社、RM Energy Weather社のような企業は、初歩的な気象情報以上に必要とされる専門知識や予測を提供しています。DWDと共に、系統運用者やFraunhofer IWESやFraunhofer ISEのような研究機関は、天気予報の構成を変え、システムを新たな需要に適合させました。
これまで、天気予報は人々が日常生活の中で経験する影響よりも、地上レベルの風速などの要素に注力してきました。しかし、タービンハブの高さ(通常地上50~150m)で吹く風の強さや質を知る必要のある新たなエネルギー部門のクライアントは、地上レベルの風速にはほとんど関心がありません。太陽光発電産業は、単なる太陽光発電システムの周辺の温度ではなく、太陽光の集光(表面の太陽光輝測定)に依存するのであり、また、パネルの上にどれだけ雪が降るかを知る必要があるのです。
天気予報はまだ発電予測の重要な要素の1つにすぎません。正確な予測に必要な重要要素は次の通りです:
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実況データ
給電の実況データは、あるエリアでの現在の発電量の測定と、これからの発電量予測を行う際の主要構成要素です。古い再エネ施設の中には実況データを提供しないものもあります。しかし、新しい設備はすべて連邦ネットワーク庁(BNetzA)に登録することが法律で定められており、2016年1月1日以降、100kW を超える容量の設備は、実況データの確認ができることを含め、遠隔制御できることが必須になりました。Next Kraftwerke社は、バーチャルパワープラントのすべての発電所から実況データを受け取っています。
ごく短期では、天気の状況に大きな変化がなければ、系統への電力供給量はほぼ安定しています。発電所からの実況データは、実況データを送信しない近隣の風力や太陽光の計算を可能にします。
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メタデータ
正確な発電量予測を行うため、サービス提供者は個々の風車や太陽光発電システムの発電容量や位置データを含むメタデータも必要とします。1日のある時間帯にパネルに影を落とす樹木が近くにあるか?タービンハブの高さはどれぐらいか?Next Kraftwerke社はさらに一歩進めて、バーチャルパワープラントに接続している設備運営者に追加情報(例えば計画されたメンテナンス作業と運営変更)を特設ウェブサイトに入力するよう要請しています。
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過去のデータ
過去の給電データは予測モデルを微調整するのにも利用されます。これにより、類似した気象状況での発電量を予測に取り入れることができます。
ある地域で、風が強いときに最も良い結果を出す予測計算モデルもあれば、気温が高いときに最も良く機能するモデルもあります。天気予報と同様、より正確な予測をおこなうために、多くのモデルを組み合わせて発電予測がおこなわれます。送電系統運用者のような顧客は多くの場合、同時に複数の予測サービスと契約します。1つに組み合わせた予測を作るため、それぞれの天気予報の精度を社内で評価し、重みづけをします。
もちろん、100%保証された予測はありません。偏差値上、正確な数値を手に入れるのは困難です。しかし50Herz社は、現在ドイツ北東部の管理区域での前日予測について、風力発電で2~4%、太陽光発電で5~7%の平均偏差内で抑えています。
太陽光発電の課題
特有の問題があるため、太陽光発電の予測は風力発電よりも難しくなっています。
- ドイツでは、小規模の太陽光発電施設の正確な位置、方位、稼働時間に関する情報が不足しています。固定価格買取制度の資格を得るには連邦ネットワーク庁に登録する必要がありますが、提出が義務付けられているデータは所在地や発電容量等に限定されています。
- ドイツにある多くの古い太陽光発電所や小規模な太陽光発電所は、規制とプライバシーと技術的な理由により実況給電データを提供していません。
- 多くの小規模な太陽光パネルは「ビハインド・ザ・メーター(BTM、電力メーターの後ろ側)」にあり、電力の全量もしくは一部はそこで消費されているため、(もしあるとして)系統に流れ込んでいる電力量を予測することは困難です。
しかし、それぞれの太陽光発電所は、太陽光パネルからの変動する直流の出力を交流に変換しなければなりません。これらの設備や接続された装置は、実況発電データを伝えることがしばしばあります。
ドイツのSMA Solar社は、太陽光コンバーター製造のグローバルプレーヤーであり、また、ドイツ国内の85,000ヵ所以上の発電所からの実況給電データを予測業界に供給しています。これにより、予測計算モデルにとって十分なネットワークの密度がつくられています。
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著者:ジュリアン・ヴェッテンゲル(Julian Wettengel)Clean Energy Wireスタッフジュニア記者
元記事:Clean Energy Wire “Volatile but predictable: Forecasting renewable power generation” by Julian Wettengel, Aug 16, 2016. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳