エネルギー転換の進展の中で新たな機会が生まれ、さまざまなスタートアップが新たなビジネスモデルを構築し、産業構造を変革しつつあります。クリーンエナジーワイヤーのスタートアップインタビュー連載第4回「タド」の翻訳記事をお届けします。
クリーンエナジーワイヤーは、ドイツのエネルギー転換がビジネスに与える影響について取り上げます。世界第4位の経済大国ドイツで進行中の大変動を紹介し、脱炭素に向けてあらゆる産業の破壊をめざすスタートアップたちを取り上げ、連載しています。第4回は、スマートサーモスタットを専門とする「タド(tado°)」です。
住宅の温熱利用に由来する大量の温室効果ガス排出を減らすには、ボイラーの更新や建物の断熱だけでなく、温熱システムをより効率的に使うという方法があります。
ミュンヒェンのスタートアップ、タドは、その複雑な作業をデジタルソリューションで可能なかぎりシンプル化しています。スマートサーモスタットとモバイルアプリは、ユーザーの快適性に妥協することなく、暖房と空調のエネルギー消費量を可能なかぎり小さくします。
タドのアプローチは、急速に注目を集め、短い間にドイツでもっとも重要なエネルギースタートアップとなり、Amazon や 電力会社のE.ON、石油メジャーのトタルからの資金を集めています。
共同創業者のクリスティアン・ダイルマン氏は、ドイツでスタートアップに取り組むこと、Amazon との新たなパートナーシップ、欧州を横断してリビングルームにエネルギー転換をもたらす上での課題などについて、クリーンエナジーワイヤーに語りました。
企業概要
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- タドは、暖房や空調システムとインターネットをつなぐスマートサーモスタットを製造しています。タドのスマートフォンアプリは、気象予測やその他のデータを取り込み、室温を効率的に設定し、ホームシステムを遠隔で制御します。
- タドのサーモスタットは、欧州の数十万件の住宅にすでに導入されています。
- タドは、2011年にミュンヒェンで設立され、従業員数は約200名へと成長しています。
- 2018年10月におこなわれた最新の投資ラウンドでは、タドは Amazon、E.ON、欧州投資銀行、Total Energy Ventures、Energy Innovation Capital、Inven Capital から、5,000万ドルを調達しています。
- タドのアプリは、Amazon のAlexa やその他のバーチャルアシスタントで制御することができます。
なぜタドが重要なのか
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- ドイツの気候変動対策目標を達成する上で、熱効率を高めることがきわめて重要であるものの、進捗は遅いのが実態です。タドは、この分野での温室効果ガスの排出削減を支援する新しいビジネスアイディアの可能性を示しています。
- タドのビジネスプランは、暖房や空調における自然エネルギー電力の役割が高まっていることを示しています。このプロセスは「セクターカップリング」もしくは「電化」と呼ばれています。これにより、「デマンドサイド・マネジメント」や、変動型の自然エネルギー供給とエネルギー消費のタイミングを調整するプロセスに対する新たな可能性が開かれます。
- タドの計画は、最終電力消費者に直接提供するサービスの成長を反映しています。エネルギー技術が住宅に入るにつれ、まったく新しい市場群が開かれていきます。個人住宅のエネルギー使用を管理することで、企業は追加的なサービスを提供することができます。タドの場合、機器の遠隔メンテナンスや系統安定化です。
タドへのインタビュー
クリーンエナジーワイヤーは、タドの共同創業者で、プロダクト戦略とビジネス開発を担当するクリスティアン・ダイルマン氏にインタビューをおこないました。
−− クリーンエナジーワイヤー:ドイツでのエネルギー転換、特に熱分野の進捗をどのように評価していますか?
ダイルマン:基本的に正しい軌道に乗っていますが、あまりに遅過ぎると思いますし、いまだに熱は本来あるべきレベルで注目されていません。建物や産業の冷熱は、EUのエネルギー消費の約半分を占めます。EUの住宅では、暖房と給湯だけで総エネルギー消費の79%を占めます。ドイツでは、熱がエネルギー消費の約55%を占めます。これらの数字は、エネルギー転換において熱が果たさなければならない巨大な役割を示しています。世界全体で見れば、温熱と空調がすべてのエネルギーの約30%を占めます– これは輸送分野全体よりも多いのです。
これほど大きな割合で温室効果ガスの排出の原因となっている熱分野で、エネルギー効率化や自然エネルギーへの転換にもっとも優先順位が置かれるべきです。
−− 将来、熱分野はどこへ向かっていくのでしょうか?
基本的な考え方として、総消費量を削減するため、エネルギー種にかかわりなく、エネルギー消費をインテリジェントに管理することがきわめて重要です。これは、比較的シンプルであり、私たちが最初に取り組まなければならないことだと考えています。
タドは、どのようなタイプの温熱システムにも接続することができる小さなデバイスを提供しています。温熱の管理に、気象予測、窓の開閉データ、部屋の使用状況などのデータを追加し、学習システムと組み合わせ、建物の重要な特性を把握し、長期的に改善させていくことで、最大31%まで暖房コストを節約することができます。これは非常に重要なポイントです。
エネルギー種について、長期的にシステムを脱炭素化する上では、主に風力と太陽光による自然エネルギー電力を使った冷熱以外にオルタナティブはないと考えています。このプロセスは「セクターカップリング」と呼ばれ、電力分野と熱および輸送分野と結びつけて経済全体を自然エネルギー電力で動かしていくことを意味します。これにより、変動する自然エネルギー電力をさらに効率的にあつかえるようになります。
特に熱分野は、系統に対して柔軟性を追加する巨大なポテンシャルを提供します。例えば、蓄熱槽や建物の熱慣性をバッファーとして使うといったことです。ヒートポンプのような電力ベースの温熱システムは、より効率的であるだけでなく、系統安定化にも利用できます。
−− タドのビジネスに話を移しましょう。タドはソフトウェア企業でしょうか、それともハードウェア企業であるとお考えでしょうか?
私たちは80人のプロダクト開発者を雇用しています。彼らのうち、3人だけがハードウェア開発をおこなっており、残りはソフトウェア開発をおこなっています。タドのようなソリューションを開発するには、ソフトウェアを中心に投資しなければなりません。ソフトウェアに比べてハードウェアは、はるかに手間がかかりません。この視点に立てば、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたプロダクトを販売しているとはいえ、タドは実際にはソフトウェア企業です。
−− タドのビジネス開発の詳細について教えて下さい。収益は上がっていますか?
私たちは、まだ投資段階にいます。タドへの投資の総額は1億ドル以上です。2018年秋の投資ラウンドは、5,000万ドルでまとまり、現在これを投資しています。これがまだ収益を上げていない背景です。現在、タドは数十万件の住宅で快適性、効率性、利便性を高めようとしています。
−− ドイツのスタートアップが Amazon を投資家に迎えるのは異例のことです。このコラボレーションにはどのような意味があるのでしょうか?
Amazon には、この分野に大きな野望があり、私たちは密接に協力しています。このパートナーシップは、私たちがリーチできる住宅の件数だけでなく、プロダクト改善の可能性に関しても、すでに大きなメリットを生み出しています。
−− タドの次のゴールは何でしょうか?
暖房と空調にコネクティビティを加えることで、3つの異なるバリュープールを提供します。
1つめは、今日、タドが取り組んでいることです。つまり、エネルギーコストを下げ、エンドユーザーの快適性を高めることで、これは制御の問題です。
2つめは、機器の遠隔メンテナンスであり、これは修理やメンテナンスをはるかに効率化します。もし冷暖房システムの故障理由があらかじめわかっていれば、どの予備部品をもって行けばいいか明らかなので、顧客を訪問するのは1回で済みます。
3つめのバリュープールは、すべての住宅が使う冷暖房電力のアグリゲーションです。これにより、風が吹いたり、太陽が照っていて電力が安くなるタイミングで電力を使うようにプログラム化して、電力系統と統合することができます。これは、快適性を譲ることなく、エネルギー需要を生産にあわせる選択肢を提供します。
現在、私たちは1つめのバリュープールに大きく集中しています。効率性と快適性を高めることで、住宅にアクセスしています。すでにはじめていますが、これが他のバリュープールに一歩一歩進む上での基盤となります。タドは、ユーザー数のクリティカルマス到達をめざして取り組んでおり、これを達成すると、私たちは系統運営に参加できるようになります。
しかし、熱分野は他の分野に比べて進むのが非常に遅いということを理解しておくことは重要です。インターネットの普及と同じようなイメージです。このビジネスを続けるには多大な持久力が必要です。タドの従業員数は200名ほどに成長して、住宅への導入件数は数十万件と、それなりの規模に達しています。しかし、欧州全体で見れば、2億件の住宅があります。それらがすべてつながるまでには、まだ時間がかかるでしょう。
−− タドのビジネス拡大を遅らせる主な規制・障壁は何でしょうか?
柔軟なエネルギー価格は非常に良い進展だと思います。系統で利用可能なエネルギーの量に応じて電力価格が変動するということは、大量に自然エネルギーがあるときは安く、供給が少ないときは高くなるということです。この概念は、フィンランドやスウェーデンで発展してきました。英国でも、例えば Octopus Energy のように、柔軟な価格設定を提供する4つの電力会社があります。
タドのようなインテリジェント制御システムは、柔軟な価格契約を完璧に補完します。欧州各国でバランシングパワーの公式プロバイダーになるには複雑で面倒な認証プロセスに対応することが必要となりますが、柔軟な価格契約を活用することで、それらのすべてに対応しなくも、タドは欧州のすべての国で活動を展開することができます。
価格が高いときは電力の使用を少なくし、安いときは増やすという、適切な技術を誰もが必要とするため、バランシングパワーとエネルギー価格システムをシンプルに統合することが、私たちと顧客の双方にとってもっともシンプルなソリューションとなります。
電力価格は、自然エネルギー熱への転換においても重要です。自然エネルギー電力が安くなればなるほど、脱炭素化はより迅速に進みます。
−− タドの主な競合企業について教えて下さい。
世界的に見れば、Google Nest はもっとも重要な競合企業です。欧州では、タドはきわめて近い位置にいます。Nest は、いくつかの欧州の国のみで展開していることから、おそらく、タドと同じような住宅導入件数なのだと思います。
しかし、地域レベルでは強力な競合他社もいます。例えば、British Gas が提供する Hive という製品が、数十万件の住宅に導入されています。ただし、英国内のみでしか展開していません。オランダでは、電力会社の Eneco がスマートサーモスタットを同じく数十万件に導入しています。
導入件数のボリュームに関しては、これらの3社が欧州でのもっとも重要な競合他社です。
−− タドのビジネスにとって、ドイツの重要度はどういったものなのでしょうか?
タドの総売上の約25%はドイツから、また、他の欧州各国が残りのほとんどを占めています。そのため、私たちにとってドイツはもっとも重要な市場であり、英国が僅差で第2の市場となっています。タドは設立のその日から欧州の企業であり、それゆえに相対的に見て多様性を備えているのです。
−− シェルによるドイツの蓄電池の先駆者 Sonnen の買収や、グリーンエネルギー供給事業者の Lichitblik も同様の可能性があるという最近の発表について、どのようなご意見をお持ちでしょうか?このようなトレンドがあるのでしょうか?
石油メジャーは、多くの既存の電力会社ほど激しい戦いにまだ巻き込まれていません。彼らは数十年間にわたって多大な資金を稼ぐことができた上で、世界は石油を超えて脱炭素化に向かっていることに気付きました。現在、シェルとトタルは、1週間単位で企業をスカウトしており、特に電力やガスをエンドユーザーに販売する典型なエネルギー分野の新しいブランドに集中しています。
少し前から、輸送もますます電化が進んでいくことが語られています。こうした背景のもと、それらの企業たちが次のように述べることはひどい怠慢となるでしょう:「我々は気にしない。我々はただ地面から石油を汲み上げる、それだけだ。」 彼らは過去数十年かけて、みずからを脱炭素化するために必要な資本を蓄積してきました。彼らがきわめて真剣であることに疑いの余地はなく、明確にグリーンウォッシュではないと言えます。
単純に、いまは異なるアプローチを求める理由があまりにもたくさんあるのです。ひとつの顕著な例が、エネルギー効率です。従来の燃焼エンジンの効率は約25%ですが、電気モーターは97%なので、はるかにエネルギー損失が少なくなります。同じことがヒートポンプにも当てはまり、従来のガス暖房システムに比べて4〜5倍の効率になります。
さらに、私は、社会が根底から変化する可能性を見ています。ますます多くの人たちが、日々、街中を出歩くたびに汚染に曝されたくないと感じるようになってきています。化石燃料を使うことで発生する健康影響に対する抵抗は高まっています。また、単純に電気自動車を運転するのが楽しい、ということもあります。
私は、この3つの要因 – 効率、健康、楽しみ – の組み合わせが、熱と輸送分野の転換を駆り立てていると考えます。
−− ドイツのエネルギー分野のスタートアップはどのような状況にあるとお考えでしょうか?
その質問は多面的ですが、ここではひとつの例に絞りたいと思います。タドがはじまって約1年後、Nest が登場しました。そして、率直に言って、私たちは彼らの初期成長にきわめて強い影響を受けました。
米国は、ひとつの言語とひとつの文化をもった巨大な市場です。欧州も同様の規模の住宅がありますが、こちらは多くの異なる言語、文化、規制、境界、課税システムをもつ28ヶ国に分かれており、これらのすべてが成長をスローダウンさせます。米国であれば、オペレーションをスケールアップすることは、はるかに容易でしょう。
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インタビュー:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire 記者
元記事:Clean Energy Wire “Amazon-backed start-up tado uses smart thermostats to cut heating emissions” by Sören Amelang, Apr 17, 2019. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳