最優先の公益としての再生可能エネルギーの導入

2022年以降のドイツの風力・太陽光発電の方向性 Part 1

ドイツ政府は新政権のもと、再生可能エネルギー導入を加速させるため、再生可能エネルギー法と関連法の改正をおこないました。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ドイツにとってもエネルギー自立が急務となるなかで、今回の改正は再生可能エネルギーの導入現場にどのような変化をもたらすのでしょうか。

再生可能エネルギー法と関連法の改正

2021年12月8日、ドイツで社会民主党(SDP)、緑の党、自由民主党(FDP)による新連邦内閣が発足しました。緑の党は、新設された経済・気候行動省をはじめ、環境・自然保護・原子力安全・消費者生産省、食料・農業省など、エネルギー政策に影響を与える重要な省庁での主導権を確保しました。

全体として、新政権は、2030年の総電力消費量に対する再生可能エネルギー目標を65%から80%に引き上げ、気候変動目標の達成に向けた強い決意を示しています。ロシアによるウクライナ侵攻を機に、ロシアからのエネルギー輸入への依存度を早急に下げる必要性から、政府は規制の変更を以前の計画よりも前倒しすることとしました。一般市民も、独裁的な国家へのエネルギー依存から脱却するために、迅速なエネルギー転換が必要だと考えています。ドイツ国民の85%が再生可能エネルギーの拡大を推奨しており、特に太陽光発電と風力発電がもっとも支持されています 1Renewable Energy Agency (2022) – Survey: Desire for security of supply spurs acceptance of renewables [German]: https://www.unendlich-viel-energie.de/presse/pressemitteilungen/umfrage-wunsch-nach-versorgungssicherheit-befluegelt-akzeptanz-von-erneuerbaren-energien

2022年の発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は49.6%で、243.73TWhの発電電力量に相当します。これは、前年度の227TWhと比較して7.4%の増加です 2Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems ISE (2023) – Net Electricity Generation in Germany in 2022: Significant Increase in Generation from Wind and PV: https://www.ise.fraunhofer.de/en/press-media/press-releases/2023/net-electricity-generation-in-germany-in-2022-significant-increase-in-generation-from-wind-and-pv.html 。 しかし、2030年までに600TWhの再生可能エネルギーを生産するという目標に到達するには、現在のエネルギー転換のペースは十分ではありません 3German Environment Agency (2022) – More green power and more renewable heat in 2022 [German]: https://www.umweltbundesamt.de/themen/mehr-gruener-strom-mehr-erneuerbare-waerme-im-jahr

このような背景のもと、再生可能エネルギーの導入を加速するため、再生可能エネルギー法は導入以来もっとも包括的な改革がおこなわれ、さらに陸上風力発電法、連邦自然保護法などの関連法の改正がおこなわれました。

再生可能エネルギーの新しい目標値

パリ協定の1.5℃の約束に合わせるため、再生可能エネルギーの新しい目標値が導入されました。政府は、産業・熱・運輸部門における電化の進展による電力需要の増加を計算に入れています。風力発電と太陽光発電の新たな目標は以下の通り4German Federal Government (2022) – More energy from renewable sources [German]: https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/klimaschutz/energiewende-beschleunigen-2040310

  • 洋上風力発電
    • 2030年までに30GW
    • 2035年までに40 GW
    • 2045年までに70 GW
  • 陸上風力発電
    • 2024までに69 GW
    • 2030年までに115 GW(単年新規10 GW)
    • 2040年までに160 GW
  • 太陽光発電
    • 2024年までに88 GW
    • 2030年までに215 GW(2026年から単年新規10 GW)
    • 2040年までに400 GW

政府によると、石炭火力発電の段階的廃止は「理想的には」2030年に前倒しされるべきなのですが、2038年までに石炭を確実に廃止することを定めた石炭段階的廃止法をまだ参照しています。2035年までに再生可能エネルギー100%を達成するという目標は、連立政権、特にFDPの反対により、採用されませでした。

政策の動向

目標を達成するためには、風力発電と太陽光発電を今の3倍のスピードで開発しなければなりません。そのため、政府は昨年、エネルギー転換を加速させるために多くの新しい規制を導入しました。その施策は主に、財政的な優遇措置、再生可能エネルギーの立地面積拡大、官僚的な手続きの負担軽減に重点を置いています。

再エネが最優先の公益

再生可能エネルギー法の新たな改正により、再エネの利用は最優先の公益であり、公共の安全保障に資するものであると明記されました。この位置づけは、電力生産がほぼ完全に温室効果ガス中立になるまで保証されます5§ 2 Renewable Energy Sources Act 2023 [German]: https://www.gesetze-im-internet.de/eeg_2014/__2.html

この改正は、モニュメントや景観保護など、他の公共の利益と相反する機会を持つことが多い再生可能エネルギープロジェクトの許認可プロセスに影響を与えます。ただし、この規制は、住宅との距離や生物種保護法にもとづく制約などの法的要件を覆すものではありません。この原則は、再生可能エネルギープロジェクトに対するケースバイケースの判断や将来の訴訟において特に有用となります。紛争が発生した場合、再生可能エネルギープロジェクトは、優先される公共の利益として承認される可能性が高くなります。

固定価格買取制度と入札プロセス

新しい再生可能エネルギー法では、再エネプロジェクトにより良い条件を提供するため、固定価格買取制度(FIT)の賦課金引き上げや、大規模プロジェクトの入札プロセスの調整などが盛り込まれています。

FIT賦課金の変更

2022年7月30日から、投資家は太陽光発電設備について、自家消費(余剰電力のみを系統に供給)もしくは全量固定価格買取のどちらかを選択しなければなりません。この2つの方式は1年単位で変更することが可能であり、翌年の12月1日までに決定する必要があります。また、同じ立地エリアに両方のタイプを設置することも可能となっています。住宅が太陽光発電の設置に適さない場合は、カーポート、ガレージ、庭などを利用して設置することも可能です。

全量固定価格買取は、自家消費よりも高い報酬が支払われます。その理由は、自家消費の必要性が低い大型の建物(物流倉庫など)に太陽光発電を設置する際のインセンティブを高めるためです。この種のプロジェクトは近年実現されていませんが、太陽光発電の設置面積を拡大する高い可能性があります。

2022年7月30日からの新しい報酬額は以下の通り6Renewable Energy Sources Act 2023 [German]:  https://www.clearingstelle-eeg-kwkg.de/sites/default/files/2022-11/EEG-230201-221008-web_0.pdf

表1. 2022年7月30日以降の太陽光発電の賦課金

種類 設備容量 FIT賦課金
全量固定価格買取 10 kWp以下 13.0 cent/kWh
40 kWp以下 10.9 cent/kWh
100 kWp以下 10.9 cent/kWh
750 kWp以下 市場価格
自家消費(余剰は固定価格売電) 10 kWp以下 8.2 cent/kWh
40 kWp以下 7.1 cent/kWh
100 kWp以下 5.8 cent/kWh
750 kWp以下 市場価格

固定価格買取制度の対象となるシステムの規模が引き上げられ、その直後に買取価格が調整されました。2023年1月1日からの新報酬率は以下の通り。

表2. 2023年1月1日以降の太陽光発電の賦課金

種類 設備容量 FIT賦課金
全量固定価格買取 10 kWp以下 13.0 cent/kWh
40 kWp以下 10.9 cent/kWh
100 kWp以下 10.9 cent/kWh
1,000 kWp以下 市場価格
自家消費(余剰は固定価格売電) 10 kWp以下 8.2 cent/kWh
40 kWp以下 7.1 cent/kWh
100 kWp以下 5.8 cent/kWh
1,000 kWp以下 市場価格

賦課金は毎月低減していく仕組みとなっていますが、投資家の計画見通しを高めるため、2024年2月1日までこの措置が停止されます。そのため、当面の間、上記の価格は固定となります。2024年2月以降、FIT価格は6ヶ月ごとに1%の割合で引き下げられます。

入札プロセスの変更

再生可能エネルギーの年間導入量を増やし、より多様なテクノロジーの導入を可能にするため、入札プロセスの調整が実施されています。さらに、中小規模の太陽光発電プロジェクトについては、閾値が変更されています。

太陽光発電の入札プロセスの基準値が、従来の750kWから1MWに引き上げられました。さらに、小規模な太陽光発電がより高い報酬を得るために自主的に入札プロセスに参加することは認められなくなりました。2023年には、最大入札規模が20MWから100MWに引き上げられる予定です7Federal Ministry for Economic Affairs and Climate Action (2022) – Bundesrat adopts Energy Security of Supply Act 3.0: https://www.bmwk.de/Redaktion/EN/Pressemitteilungen/2022/10/20221007-bundesrat-adopts-energy-security-of-supply-act-30.html

太陽光発電の入札における今後数年間の追加容量は以下の通り。

表3. 太陽光発電入札の年間追加容量の見通し

種類 2023 2024 2025〜2029年
第1セグメント(地上設置) 5,850 MW 8,100 MW 9,900 MW
第2セグメント(屋根上設置) 650 MW 900 MW 1,100 MW

営農型太陽光発電、浮体式太陽光発電、カーポート式太陽光発電は、今後、第1セグメントに含まれます。再生可能エネルギー法で対象となる営農型太陽光発電は、3種類に分けられます:(1)耕作地型(農作物の栽培)、(2)園芸型(永久または多年生作物の栽培)、(3)草地型(永久放牧地)。

入札に参加する営農型太陽光発電プロジェクトには、コストを補うため、2023年に1.2セント/kWhのテクノロジーボーナスが支給されます。このボーナスは、2024年に1セント/kWh、2025年に0.7セント/kWh、2026年から2028年にかけては0.5セント/kWhと徐々に減額される予定です。フラウンホーファーISE、ドイツ農民協会、ケール応用科学大学は、共同ポジションペーパーでボーナスが低すぎるとの見解を示しており、入札に参加しない小規模な営農型太陽光発電に対するボーナスがないことも批判しています。さらに、彼らはこのテクノロジーの大幅な拡大を保証するため、営農型太陽光発電システムのための独立したセグメントを追加することが望ましいと考えています8German Farmers’ Association (2022) – Agrivoltaics: better opportunities for smaller installations and highly structured systems [German]: https://www.bauernverband.de/fileadmin/user_upload/dbv/pressemitteilungen/2022/KW_21_bis_KW_40/KW_41/Positionspapier_Agri-Photovoltaik-_DBV__Fraunhofer_ISE_und_Hochschule_Kehl.pdf

陸上風力発電については、これまで目標としていた3GWから2023年には13GWに引き上げられました(EEG 2021)。2024~2028年は年間10GWの規模で追加容量が設定されています。洋上風力発電については、2023年に8GW、2026年に9GW、2025年と2026年に3~5GWの追加容量を見込んでいます。2027年からは毎年4GWが入札される予定です。

石炭の段階的廃止が完了した後、EEG2023の§1aに従って、市場主導で再生可能エネルギーがさらに拡大していくことが期待されています9§ 1a Renewable Energy Sources Act 2023 [German]:   https://www.gesetze-im-internet.de/eeg_2014/__1a.html

再生可能エネルギー設備立地エリアの拡大

再生可能エネルギー設備の利用可能面積を拡大することは、高い目標を実現するために必要なステップです。政府は、風力発電や太陽光発電のために新しいエリアを解放すべく、いくつかの法律改正や新しい規制を開始しました。

距離コリドー

再生可能エネルギー法の改正により、FITの対象となる太陽光発電の設置可能エリアとして、従来は自動車道や鉄道から200mまでだったものが、500mに延長されました10§ 37 Renewable Energy Sources Act 2023 [German]:   https://www.gesetze-im-internet.de/eeg_2014/__37.html 。この新規制は2023年1月1日から施行されます。これにより、新しい太陽光発電プロジェクトの利用可能エリアが大幅に拡大され、また、鉄道や自動車道沿いの既存の太陽光発電設備にとっては、2基目の設置でプロジェクトを拡張する好機となります。

陸上風力発電法

2022年7月に陸上風力発電法が成立し、陸上での風力発電の利用可能面積が全国土の2%に拡大されました11German Federal Government (2022) – More wind energy for Germany [German]: https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/klimaschutz/wind-an-land-gesetz-2052764。 現在、理論上風力発電のために指定されている土地は0.8%ですが、実質的に利用できるのは0.52%に過ぎません12German Federal Government (2022) – More wind energy for Germany [German]: https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/klimaschutz/wind-an-land-gesetz-2052764 。2%の目標は、2つのステップで達成するように設定されています。第1段階として、2027年までに1.4%の土地を風力発電用に指定します。第2ステップでは、2032年までに全国土の合計2%を風力発電に利用できるようにします。

各州は、個別に設定された面積目標を持つ独自のゾーニング計画を作成することが義務付けられています。面積が広い州は1.8〜2.2%、都市部の州は0.5%の面積を2032年までに指定する必要があります。もし、各州が目標を達成しなかった場合、計画上の制限(例:住宅までの最短距離、各州で異なる)は無効となり、都市近郊以外ではどこでも風力発電が許可されることになります。

レーダーシステムとの距離短縮規定

風力発電プロジェクトの許認可プロセスには、風車がナビゲーションやレーダーシステムに干渉する可能性があるかどうかの評価も含まれます。これまでは、交通管制用のレーダー設備から半径15km以内に風車を建設する場合、評価を受ける必要がありました。新たな政策では、半径を7kmに縮小し、風力発電のための面積を拡大しました13Federal Ministry for Economic Affairs and Climate Action (2022) –  Together for the energy transition: How onshore wind energy and radio navigation and weather radar concerns are reconciled [German]: https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Downloads/E/gemeinsam-fuer-die-energiewende.pdf?__blob=publicationFile&v=8 。気象レーダー局の距離規定も、これまでは15kmでしたが、わずか5kmに短縮されました。経済・気候保護大臣のロベルト・ハーベック氏は、これらの変更により、1,000基以上の風車を建設することができ、5GWの風力発電容量を追加することができると提案しています。

<Part 2に続く>

@energydemocracy.jp 最優先の公益としての再生可能エネルギーの導入 – 2022年以降のドイツの風力・太陽光発電の方向性 Part 1/クリスティアン ドート(2023年3月30日)#エネデモ #ドイツ #再生可能エネルギー法 ♬ Like Paper – Tom Doolie

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環境エネルギー政策研究所(ISEP)リサーチアシスタント。ドイツ・マールブルグ大学で平和・紛争研究の修士号を取得し、現在、名古屋大学大学院環境学研究科博士課程在籍。再生可能エネルギーの社会的受容と、日本における営農型太陽光発電の社会政治的背景をテーマに研究に取り組んでいる。

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